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第十二話 託宣師

 地下道の小部屋探索の二日後。

 三人そろって休日だ。


 まあ、私は野良だから、毎日が休日と言えば休日なんだけどね。


 一緒に託宣師の所に行くことにした。

 アドルフさんに、随分とネズミ退治を頑張ったのだから一度託宣師に診てもらいなさい、と言われたからだ。


 魔法を使う経験を積むと、新しい魔法を覚えたりするそうだが、最も手っ取り早いのが戦いのなかで魔法を使う経験だと言われている。

 なんでも緊張感が違うらしい。

 

 この島で生まれ育った者は魔法が使える。でも、大陸に住む者は使えない。

 大陸で生まれた者が島に渡ったところで、使えるようにはならなかった。魔法が使える者は、島で生まれ、ある程度の年齢まで育った者が島にいる時だけらしい。

 白い島と呼ばれるこの島の謎の一つだ。

 

 そして、魔法は、経験を積んだからと言って自然に覚えたりはしない。女神様に授けて貰うからだ。その宣託を下してくれるのが託宣師だ。

 女性ばかりで、一般には巫女と呼ばれている。


 託宣師は神殿で暮らしているのだが、どの国も手厚く保護をしていて丁重に扱っている。

 神殿も国が建てるし、彼女達の生活費のほとんども国の費用だ。

 戦争になっても託宣師の神殿は攻撃されないし、危険が及びそうになると休戦して避難させているらしい。


 彼女達がどういった経緯で託宣師になったのかは分からない。

 巷の噂では、彼女達は古代人と呼ばれる大昔からこの島にいた人達の能力を受け継いでいると言われている。本当の所は分からないが、魔法の専門家であることは間違いないのだろう。


 


 入口に行くと、白い服を着た女の人がいるので要件を伝える。

 まずは、新しい魔法を覚えられるかどうかで、この段階で一人銀貨一枚が必要になる。

 普段魔法を使わないベイオウルフもお金を払った。

 もし魔法が使えたら便利だから、と一応聞いてみるらしい。


 中に入ると、何人かの人達が既に待っていた。皆要件は同じだろう。

 待っているうちに順番が来て、別の部屋に案内された。


 魔法陣が床に書いてあり、真ん中に跪き目を閉じるように言われる。

 言われた様にしていると、恐らく私の横に立った託宣師が、私の頭に手を乗せる。そして、なにやら祈りを捧げている。

 そのまましばらく待っていると、祈っていた託宣師が一言言った。


「汝、宣託は下った」


 これで終わりだ。


 窓口でしばし待ち、なにやら紙に包まれた札を渡してくれる。そして、一旦神殿の外に出る様に言われた。

 神殿内で大声を出すと、衛士に捕まって牢屋に入れられてしまう。成人の場合は、問答無用で一週間は出してもらえない。

 一旦神殿の外へ出すのはある意味親切心でもある。




 神殿の外へ出た私は、三人揃うのを待って同時に包みを開いた。

 まずはベアトリクスが飛び跳ねながら歓喜のガッツポーズだ。


「やったわ! 状態変化魔法が覚えられるわ。お給料が上がる!」


 大喜びだ。


「私は駄目だったよ。相変わらずだな。ジャンヌはどうだった」


 ベイオウルフは、首を左右に振っている。

 私の札には、新規初級神聖魔法 一 、と書かれている。


「初級だけど新しい種類の神聖魔法が覚えられるみたい」


 ベイオウルフには悪いが、口元がほころんできてしまう。


 うーん。私もまだまだ修行が足りないな。




 ベアトリクスが大喜びしたのには理由がある。


 魔法は幾つかの系統というものに分類されている。

 例えば、私が現在使える魔法は神聖魔法系統のヒールとホーリーだ。新しく覚えられる魔法も同一系統だ。


 今回ベアトリクスは、今現在使える属性物質魔法系統に加えて、状態変化系統の魔法を覚える適性を託宣師に見つけてもらえた。つまり、魔法使いとして格が上がったわけだ。魔法の威力も上がるし、一日に使える回数も増える。


 魔法が使える可能性は適性で、使いこなせるかどうかは感性と努力だと言われている。

 島の住民の、十分の一程度の人が魔法を使う適性を持っているとされ、その適性はその人の成長によって伸びる方向が変化するらしい。


 ベイオウルフは今でこそ魔法が使えないが、今後使えるようになる可能性はあるのだ。

 もっとも、新しい魔法を覚えるのはせいぜい二十代前半までだそうだが。


 ちなみに、なにか事情が無い限り十歳になれば皆託宣師のところで適性を診てもらえる。そのとき一回限りだが、国が料金を支払ってくれる。




 さて、新しい魔法が覚えられる事が分かったら、次はどんな魔法が覚えられるのかを教えて貰える。

 ベイオウルフに慰めの言葉をかけると、ベアトリクスと二人、もう一度神殿の入り口へ向かった。


 女の人に銀貨一枚と札を渡すと、さっきとは違う部屋に案内された。

 待っている人の数はさっきの部屋と比べるとあきらかに少ない。

 順番が来て、さっきと同じように宣託を受け神殿の外へ出ると、ベアトリクスと二人で札を確認する。


「まあ、こんなものね」


 ベアトリクスはやや不満げだ。

 札には、変色、と書かれている。

 例えば髪の毛の色を染める魔法だ。

 なるほど。


 元々絵を描くのが上手だし、このところアンジェリカさんと一緒に新しい髪色を研究していたみたいだからね。


 私の札には、洗浄、と書かれていた。

 なるほど。


 元々綺麗好きだし、最近下水道に入ってばかりいたからだろう。


 そう言えば、下水の水で壁の汚れを落とした事もあったわね。


「まあ、ネズミ退治ならこんなものね。二週間足らずで新しい魔法を使えるようになったんだから、よしとするか」

「そうね。せっかくだから、覚えて帰ろう」


 ベイオウルフに待って貰い、もう一度神殿に向かう。改めて、銀貨一枚ずつを支払った。

 一度託宣師の所へ行くと、次に行くのは一か月間を置かなければならない。

 託宣師が宣託をもらうには精神の集中が必要なので、数がさばけないという話だ。

 頑張って一か月間ネズミ退治……魔物退治をしていたら、来月にはまた何か成長があるかも知れない。




 三人でお昼ご飯を食べて一休みした後、孤児院に帰り、早速新しく覚えた魔法の練習をすることにした。 


 ベアトリクスは白い紙に絵具を塗り付けると、それをジッと見つめてブツブツ言っている。イメージを作っているのだろう。

 私はというと、さっきから水を張ったたらいと洗い板を使って洗濯をしながらブツブツ言っている。

 一見、魔法の習得とは無縁な様だが、これも託宣師に教わったとおりだ。

 ブツブツ言っているのは詠唱の文句を考えているからだ。

 自分のイメージに合った言葉が見つかると、はたに置いた紙に書き付け、イメージを高める詠唱を作っていく。

 そういった作業を何度も繰り返して、自分で納得できるものが出来上がると、実際に魔法を唱えて、発動することを確認する。


 魔法の詠唱は、使う魔法をイメージするために必要な作業だ。使う前にしっかりと魔法をイメージ出来れば、後は連続で使うことが出来る。もちろん間が空くと詠唱し直さなければいけない。

 上達してくると無詠唱で魔法が使えるようになるが、私達にはまだ詠唱が必要だ。


 ちなみに、詠唱で使う言葉は何でも良い。本人が魔法をイメージ出来れば良いからだ。なので、同じ魔法でも人によって言葉が違ってくる。魔力を一か所に集め、イメージのままにその力を開放する。それが魔法とされている。


 私の場合は神聖魔法だから、洗っている洗濯物が綺麗になることを願い、ひたすらに女神様に祈りを捧げる。その言葉がそのまま詠唱になる。


 と、何事にも早めの行動をするベアトリクスが立ち上がった。

 腕立て伏せをしていたベイオウルフを連れてどこかへ行く。

 結果を見てもらうのだろう。

 私は無視して、自分の作業に集中することにした。


 しばらく続けているうちに、なんとなく手ごたえがあった気がしたので、まだ洗っていない洗濯物に向けて両手をかざして詠唱を始める。


「クリーン・アップ!」


 洗濯物が光に包まれ……洗いたて同様に綺麗になった!


 恐る恐るひっくり返してみると、裏側は汚れが落ちていない。

 失敗だ。

 洗い終わって綺麗になっている洗濯物を隅から隅までじっくりと見て、再び洗濯を始めた。




 結局、夕方近くになって、ようやく手で洗った時と比べて差が無いくらい魔法で汚れを落とせる様になった。後は継続練習するだけだ。


 しばらくは練習がてらにベイオウルフの洗濯物を洗ってあげる事にしよう。

 あっ、ついでにベアトリクスのも。


「出来た?」


 見計らったかのように二人がやって来た。きっと、陰から様子を見ていてくれたのだろう。

 良く見るとベイオウルフの服のボタンの色が変わっている。

 上から順に、赤、青、緑、の三色だ。

 どうしてその色にしたのかを聞いてみると、マルセロさんのお店で売り出し中の髪を染める巻物の色の基本色なのだそうだ。


 確か、赤紫と青紫と紅玉と、あと翡翠だったわね。三色をどう混ぜたらその色になるのだろう。不思議な事もあるものね。


 綺麗でしょ、と自慢するベアトリクス。

 ベイオウルフは微妙な表情をしている。


「ま、髪を三色にしなかっただけマシね」

「どういう意味よ!」


 食って掛かるベアトリクスへは、笑って胡麻化した。

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