1話 僕達は産まれた時から
お前は生まれた時から無能で、要らない人間だった
この言葉がたった7歳の少年にどんな影響を与えるか、考えなくてもわかるだろう。
少年の父親が望んだように···少年は歪んで育って、青年になった
001
青年の名は佐伯悠斗今年で17歳になる、彼の両親は2人とも企業の社長として、佐伯グループとして日本中に名を轟かせている。だからだろう彼の家は普通の家と比べ物にならないほどの大きさだ、そして、彼の部屋は悠斗の兄弟 両親に比べ何倍もの大きさがある分かりやすい例えでおよそ2LDK程はあるだろう。
しかし、これは彼が両親から愛されてるとかではない。むしろ逆だ、彼の能力を嫌った母親が提案したことだ。
能力··この世界に産まれる人間は産まれた時に特異な能力をもって産まれる、そして能力は生まれた時に決まるのだ。
悠斗はこの事実に対して、もう大きな感情を持たない。
生まれた時に全てが決まる世界、皆がそれを当たり前だと受け入れている世界···分かっていても、やはりため息が出てしまう
002
「なにを朝からため息ついてんのさ」
佐伯悠斗が高校に向かう通学路で彼女は後ろからいきなり話しかけてきた、悠斗よりも少し背が高く、ショートカットの茶髪の女性
いや、悠斗と同じ17歳だからまだ少女か··
「おはよう渚、相変わらずうるさいな」
悠斗はそうダルそうに自分と横並びに歩き出した少女、夢澤 渚に返す。
「そんな言い方ないじゃん··」
そう言うと、渚は少し不貞腐れたように悠斗の肩を軽く叩いた。
「それよりも、こんなのんびりしてていいのか?遅刻だぞ?このままだと」
悠斗はそう言って左手の腕時計を渚に見せる。
「あ、本当だ!走るよ、悠斗!」
渚はそう言うと、悠斗の手を取って駆け出した。
(別に俺は遅刻でいいのに··)
そう思いながら悠斗は渚に連れられて駆け出した。
夢澤 渚の能力は空中浮遊、その名の通り空中に浮遊する事で3倍の速さで移動することが出来る。
しかし、彼女は悠斗の前で能力を使うことは無い、恐らく悠斗に気を使っているのだろう。
目の前を走るそんな彼女を見て、悠斗は心の底から感謝した。
渚とはもう10年ほどの付き合いになるが渚が友達で本当に良かったと思う。
事実、悠斗がリラックス出来るのは渚と話している時だけだ。学校や家ではもちろんの事、夜は仕事があるからくつろぐ暇などない。
そして、悠斗の渚に対する感情はもはや友愛ではなく愛情なのだが、悠斗がそれに気づくことは無い。もしかしたら、悠斗があるいは渚が生存していたのなら、何かあったのかもしれないが
そんな未来はもう来ない··