クリスマスのシンデレラ②
───クリスマスイブ前日
イシガミが動いていることなど、夢にも思わない由香は
今日もバイト前にお詣りに来ていた。
熱心な子だなーーーとイシガミは感心していたが
心の中では「今日あたり告白されるよ」と
ドヤ顔で由香の姿を見ていた。
事の成り行きを確かめるため、
今日も由香に付いて行く───
「おはようございます!」
店に着き、バイトリーダーの久保田に挨拶すると、
早速、外のゴミ箱のゴミ回収を命じられた。
見るとゴミが溢れているーーー
久保田はやってなかったようだ・・・
「何で私ばっかり‥‥」
今日こそはあの人に告白して、この店を辞めよう。と
思っていた。
「ぐずぐずしてると、弁当の納品が来るぞーーー」
また久保田が怒鳴る。
文句も言えず泣きそうになるのを抑えて、
手早くゴミを処理して店内へ戻ろうとすると、
横断歩道を渡ろうとしているお婆さんが目に付いた。
そのお婆さんは足が遅く、中央付近に来た時には
青信号が点滅している───
この道路は交通量も多く、ましてや暗くなりかけている。
危ない!
とっさに判断した由香は、
考えるよりも先にお婆さんの元へ走ったが、
歩行者用信号は赤だ!
車は動き出した───
あまりにも突然のことで
イシガミも何もできずにいたーーー
間一髪の所で、お婆さんの手を引き、歩道まで走ったが
勢いで転んでしまった由香。
「大丈夫ですか?」
お婆さんが申し訳なさそうに聞いてきた。
「大丈夫ですよ‥‥」
「お婆さんこそ、お怪我はありませんか?」
「私は大丈夫です‥‥」
「ありがとうございました、ありがとうございました」
お婆さんは深々と由香にお辞儀をした。
「お婆さんにお怪我が無くて良かった」
「じゃあ、私は仕事があるから戻りますね」
そう言って由香は、擦りむいて痛む足を、
引き摺るように店に戻って行く‥‥
その後ろ姿に、
何度も何度もお辞儀しているお婆さんがいた。
「おまえ、見かけによらず勇気と行動力があるな~」
店に戻ると、珍しく久保田が誉めてきた。
「自分でも驚いてます」
「足、、、怪我したのか?」
「今、絆創膏貼ってやる」
───え?、、、この人?意外と優しい?、、、
「足痛いからといっても、サボるんじゃねぇぞ!」
「弁当の検品やっとけよ!」
それでも容赦ない久保田・・・
由香が検品を始めると、あの福島がやって来た。
「お!いよいよだな」
イシガミはワクワクしながら様子を伺っている。
福島は一通り店内を見渡すと、検品中の由香と目が合った。
「今日こそは!」
と緊張する由香、、、
福島は一歩、また一歩、と由香に近づく───
ゴクリ、、、と唾を飲み込む由香───
「よしっ!そこだ!」
と手に汗握るイシガミ───
由香の目の前に迫った福島ーーー
緊張がピークに達する由香───
「呪文は効いてるぞ!」
イシガミがガッツポーズを作る
「あ‥‥‥」
と、由香が口を開きかけた時、
福島はハンバーグ弁当を手に取り、レジへ向かった。
「どうした?」
信じられない‥‥という顔のイシガミ・・・
レジでは久保田が待っていた。
「お弁当は温めますか?」
「お願いします」
「あの~」
レンジで弁当を温めている間、
福島が久保田に話しかけた───
「ずーーーーっと好きでした!」
その場にいた、久保田も由香も、イシガミも、
予想外の展開に『はぁ!?』っと声を洩らした!
福島は同性愛者で、好きだったのは久保田だったのだ!
「やっちまったーーーー」
思わぬ失敗に頭を抱えるイシガミ。
でも、その後の状況も予想外だった───
「気持ちはありがたいんだけど…」
「俺、同性に恋心湧かないし、
それに守ってあげたい人がいるんで…」
と、唖然としている由香を見た。
「え?私?‥‥」
こちらも予想外の告白に戸惑う由香・・・
「おまえ、頑張り屋だから、バイトリーダーにしよう!
って、店長にお願いしてるんだ」
「そして、正式にリーダーになったら
告白しようと思ってた!」
「それで、おまえの事、早くリーダーにしたくて、
早番から遅番の通しをずーっとやってたけど、
キツかったぜ~」
と、軽くグーパンチを由香の肩に当てた。
「イジメられてたんじゃなかったんだーーー」
由香は初めて、
久保田がこんなにも自分を認めてくれてると知り、
そして、、、
この、ちょっと不器用な性格の人物が
今まで待ち続けた人なんじゃないか?
と思うようになった。
───翌日、クリスマスイブ
「でもそれってさぁ~」
「思いっきり見当違いなんだから、
やっぱり失敗じゃないの?」
朝から報告を聞きに来た那奈が、イシガミに聞いた。
「いや、、、計算通りだ!」
ガンとして失敗を認めない石神・・・
そこへ、由香がお詣りに来た…
今日は隣に久保田もいる。
「神様‥‥素敵な彼氏を授けて下さり、
ありがとうございました」
「なっ? 結果オーライだよ」
と、イシガミが胸を張って言う。
お詣りを済ませると
「今日は忙しいぞ!ケーキ全部売るまで返さねぇからな!」
と、久保田が容赦なく激を飛ばす。
「帰れなくてもいいよ♪」
と由香が頬を染めて応える、、、
そして、由香と久保田は腕を組み、
幸せそうに去って行った───