クリスマスのシンデレラ①
12月中旬───
世間ではクリスマスに様々な期待を寄せて、浮かれてる中、
由香は町外れの小汚ない神社にお詣りに来ていた。
「神様‥‥今年こそは、彼氏ができますように」
社の中で寝転んでいたイシガミは、
突然の参拝客にびっくりして飛び起きた。
「クリスマスが近いから、焦って
こんな神社にもお詣りに来るのか…」
関わりたくないって感じでまた寝転んだが、
翌日、由香はまた来た────
「あの人が振り向いてくれますように」
「また来たか‥‥」
「最近の若いヤツは、努力もしないで
他人に頼ってばかりじゃねぇか‥‥
おまけに、お賽銭は5円かよ・・・」
「まあ、ご縁があるようにって、
語呂合わせのつもりなんだろうけど…
今時、そんな額じゃ、何もできねぇぜ」
「あんた、ホントバカね~、
そんな考えしてるから、いつまでたってもダメなのよ!」
いつの間にか那奈が来ていて、イシガミを一喝した。
「いつも思うんだけど、なぜお前にオレが見えるんだ?」
「普通の祈祷師や霊媒師程度じゃ
神の姿は見えないはずだぞ!」
「それは、あんたの神格が低いからだよ」
一番言われたくない言葉を言われて
イシガミはムッとした。
「怒らない、怒らない」
「そんなことよりさ、さっきの人の願いを
叶えてあげなさいよ!」
「何であんな下らない願いを‥‥」
「だいたい神様はだな‥‥努力も何もしない人間には
手を貸さないんだよ!」
「自分で死ぬほど努力して、それでも力が及ばない時に
初めて手を貸すんだ」
「彼氏が欲しかったら、まず自分で声かける努力をしろ!
‥‥と言いたい」
「イッチャンの言うことは判るよ!」
「でも考えてみて?」
「ここにお詣りをして、彼氏ができたら、
縁結びの神様として有名になるよ!」
「お詣りに、人が沢山来るようになるんだよ!」
「うーーーん」
頭の中で、いろいろ計算を始めるイシガミ・・・
「しょうがねぇなぁ~、、、じゃあ、今回だけやってやるか」
重い腰を上げたイシガミに那奈は
「縁結び‥‥できるの?」
「やったこと無いけど‥‥信じる者は救われる!」
「それって‥‥キリスト教‥‥」
由香はコンビニの高校生バイトだった────
今日も遅番のシフトに入っている。
由香の他にバイトリーダーの久保田もいるが
この人が働かない、、、
店長のいる前では、要領良く振る舞ってるが、
不在時には、全ての業務を由香にやらせて、
自分は事務所でスマホをいじってるだけだ。
イシガミが覗いて見た時も
弁当の品出しをやりながらレジ対応と
忙しく動き回っていた。
「それ終わったら、表を掃除しとけよ!」
「あと、パンが納品に来たら、検品忘れるな!」
事務所から顔出した久保田が指示する。
「まるでシンデレラだな‥‥」
久保田の態度はイジメとしか見えなかった。
表を掃除してても、弁当目当てで客は来る、、、
チラチラ店内を見ながら、レジへ走ったり、
表を掃除したり────
それでも久保田は知らん顔だ、、、
「あいつ、ぶっ飛ばしてやる!」
イシガミも怒って久保田の顔を殴ってみたものの、
肉体が無いため、拳は虚しく顔をすり抜けた。
「こんな店辞めちゃえばいいのに‥‥いる理由がわからねぇ」
イシガミの疑問ももっともだった。
だがその疑問はすぐ解けた───
今まで無表情だった由香の顔が急に笑顔になり、
頬もうっすらとピンク色に染まった。
「いらっしゃいませ~♪」
今までとは全然違う応対だ。
「はは~ん、この男が好きなんだな~?」
その独り暮らしの大学生風の男は
お弁当とペットボトルのコーラを持って
由香が待つレジへと向かった。
「お弁当は温めますか?」
と、高鳴る鼓動を抑えて由香が聞くと
「あっ?、あ~、お願いします」
これだけ会話するだけでも
過呼吸になりそうなくらい緊張する・・・
「何で業務用会話しかできないんだろ?」
「せめて挨拶ぐらいできる勇気があったら‥‥」と、
いつも悔やんでいた。
お弁当が温まったら、この人は出て行っちゃうから、
このまま温まらないでほしい‥‥って、
何度思ったことか、、、
そんな由香の気持ちとは裏腹に
チーーーーーン♪
レンジが終了の合図を告げた。
「ありがとうございました~」
男は温め終わったお弁当を受け取ると
由香の顔をチラっと見ただけで、足早に出て行った。
「は~~、やっぱり面と向かうと、喋れないや」
「もう、何ヵ月続けてるんだろ?」
「ホントにダメダメな私だわ‥‥」
「あの人がいるから、
リーダーのイジメにも耐えてるのに、、、」
「もう、どーーーしよーーー?」
こんな気の弱い性格では、告白なんか一生無理、、、
と思ったイシガミは、男のあとをつけてみた。
ワンルームのアパート、101号室───
男の部屋だ。
表札には『福島』と書いてある。
男のあとに続いてイシガミも部屋の中へ入る。
中は、テレビとコタツとノートパソコンと、
CG関係の難しそうな本が並んでいる本棚が
あるだけだった。
どうやら、コンピューターグラフィックスを
勉強してるらしい。
「あ~、、、俺って本当にダメなやつだな~、、、」
男はさっきコンビニで買った袋を
コタツの上に放り出し、ドカっと座り込み、
ため息をつきながら言った。
「今日こそは打ち明けようと思ったのに‥‥」
「どうして、勇気が出ないんだよーーー」
「なんだ?、、、この二人‥‥」
「好き合ってんじゃねぇか!」
「これじゃあ、簡単だな」
イシガミは、少し勇気を出せる呪文を、
表札の上になぞって書いておいた。
「これで告白は上手くいくぞ」
この時はそう思った────