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20年の償い

深夜───


午前0時を回り、最終電車で

OLの夕貴が降りて来た。


「あ~あ、忘年会の三次会まで付き合うんじゃなかった」

「こんな時間に1人であの橋は渡りたくないな~」


夕貴の家に帰るには、大多摩川に架かる大多摩橋を

渡らなければならなかったが、

実はこの橋、自殺の名所になっていて

1週間前にも自殺者が出たばかりだった。


「急いで渡ってしまおう」


橋のたもとから急ぎ足で歩きだしたが

真ん中辺りまで来た時、


ヒタヒタヒタ・・・


と、後ろから、誰かの歩く音が聞こえてきた。


夕貴が止まるとその音も止まる。


電車から降りたのは自分1人だったので

近所の人かな?と思い、

恐る恐る振り向くと、

白い人のような影が浮かんでいた!───




「イッチャンいるーーーー?」

那奈は石神神社の扉の隙間から

イシガミを呼んでいた。



「またお前か~!」


イシガミは大きく伸びをして、さも面倒くさそうに応えた。


「そんなこと言っていいの?」

「あと6人救わなくちゃいけないんでしょ?」

「1年も農作業したいの?」


「そこを突っ込まれると弱いなーーー」



「最近さあ~、

大多摩橋で幽霊を見たって噂が、絶えないのよ」

「それで、ちょっと調べてみたいから、一緒に来てよ」


「また、幽霊話かよ、、、」

「だいたい神様ってのはな~」

「生きてる人に、安心と安全を与えるのが仕事なんだよ」

「死んだ人を慰めるのは、オレの仕事じゃないんだけどな…」


「でも、運気を呼び寄せたり、

邪気を祓うのは神様の仕事でしょ?」

口では那奈には勝てない、、、




那奈は大多摩橋を何往復かしてみた。


普通、自殺の名所と言われてる所には、

死んだことに気付いていない地縛霊がいて、

自分と同じ心情の人に憑依しては

自殺を繰り返すものだが、、、


ざっと見た感じ、そういった霊はいそうにない。

では、人に憑いてくる霊なのか?


そうなると、どこで取り憑くのか、

特定が難しくなる、、、



「どうだ?何か解ったか?」

イシガミが聞くが


「何も見えない、、、」

那奈はお手上げのようだ・・・


「そりゃあ、そうだろ?」

「何でも理解しようと思うのは、人間のエゴだからな」


「だいたい、本当の霊現象なんて、1%も無いんだ」

「ほとんどの現象は、人の心の弱さが作り出した、

妄想なんだよ」


それは、那奈も判っていた‥‥


友達や知人から頼まれて霊視しても

そのほとんどが見間違いや勘違いだからだ。


でも、同じ場所で複数の人が、同じような経験を

してることは見逃せない。



「それよりも、何故ここが自殺の名所になったのか

考えた方がいいんじゃないか?」


「イッチャンは何か感じるの?」


「理由は解らないけど、この位置の気の流れがおかしい」

と、自殺の多い欄干を石神が指差して指摘する。


さすがは、ダメ神様でも神様は神様・・・


那奈でも、気の流れまでは見えない、、、


「何か良い方法あるの?」


「この魔除けの札にオレの言う言葉を書いて

明日の日の出と同時に、こことこことここの

3ヶ所に貼るんだ」

「そうすれば、邪気を鎮めて、気の流れを正常にできる」


「本当なの?」


「たしか、、、そう、、、たぶん、、、」

「いや、絶対だ!」


イシガミの言うことはイマイチ不安だが

とりあえず試してみることにする。


一旦家に帰った那奈は

墨と筆を用意し、石神の言った言葉を

御札に1枚1枚、書き写した───


「いったいどういう意味があるんだろ?」


1枚には『あの鐘を』

もう1枚には『鳴らすのは』

3枚目には『あなた』


「まあいいや、、、」

「夜明けになれば結果が判るでしょう」



翌朝、日の出にはもう少し時間があるが、

那奈は早目に大多摩橋に来ていた。


なぜ此処での自殺が多いのか、

欄干からまだ薄暗い川原を

覗き込んで考えていたが、さっぱり判らない、、、


そのうち、背中に暖かい光を感じた那奈は

朝日が射し込んできたこと知り、

イシガミに指定された場所に御札を貼り出した。


飛び込むのが多いとされてる部分を中心に

正三角形になるように貼り終えたら、

ちょうど御札に朝日が当たり、

神々しく輝いたように見えた。




───と、ちょうどそこへ

70代位の初老のオジサンが

ホウキとチリトリを持ってやって来た。


「お早うございます」

と、那奈が挨拶しても、

そのオジサンは黙々と掃除をしてる…


御札をゴミと勘違いしたのか、

オジサンは一瞬白い目で那奈を見て、

剥がそうと延ばした手を止めて言った。


「これ‥‥お嬢さんが貼ってくれたのかい?」


「そうですけど…勝手に貼ったら良くないですよね?」

怒られると思って緊張してる那奈・・・


「いえ‥‥これ‥‥妻が大好きだった歌の文句なんです」

「良い供養して頂いてありがとう」


「え?奥様の?、供養…ですか?」


オジサンは、初めて心を開ける人に出会ったかのように、

自分の犯した過ちを打ち明けだした。


「もう、20年も前になるけど、

当時の僕は、仕事のストレスで、妻に暴力を

振るってたんだ。


今で言うDVってやつだな‥‥


その日も過重労働や取引先とのイザコザがあって

関係ない妻に酷い事をしてしまった。


思い余って、家を飛び出した妻を連れ戻そうと、

後を追いかけて、この場所まで来た時、


たぶん恐怖心からだと思うが

発作的に欄干を乗り越えて、飛び降りてしまったんだ。


警察からは事故ということで、罪には問われなかったが、

結果的には僕が殺したんです。


それからというもの、僕は会社を辞め、

月命日には花を手向け、毎日この時間に

この橋の清掃を20年間続けてきました。


こんな事で僕の罪が拭われるとは思いませんが、


あの世へ行って、妻に直接謝罪ができるまで、

せめてもの償いの気持ちとして、

死ぬまで続けて行こうと思ってます」


「20年も?‥‥毎日‥‥ですか‼」


「まだまだ償いきれてません…」



こんな人がいたなんて‥‥全然知らなかった那奈。

たぶん、朝早いから知ってる人も少ないのだろう、、、


そして、ちょくちょく手向けられる新しい花を見て、

自殺の名所にされたのに違いない。


石神はこの事を知っていたのか?、、、

だからこの御札を?


「このオジサンを救ってあげたい!」



「ここからはオレの出番だな」


「イッチャン♪来てくれたんだ!」


「すでに昇華してる魂を呼ぶのは、人間には無理だからな」

「お前の体に奥さんの魂を降ろすぞ!」


「あの頃は、波ーーー‼」




───「お父さん…」


奥さんの魂が、那奈の口を借りて語りかける。


「洋子か?」

オジサンが妻の名前を呼ぶ。

よく見ると、那奈の顔に奥さんの顔が浮かんで見える。


「精神的にまいっていたとはいえ、

酷いことをして申し訳なかった!」

「僕は一生償っていくよ!」


「お父さん‥‥

私こそ、お父さんの悩みに気付いてあげられなくて

ごめんなさい‥‥」

「私がもっと支えになってあげられたら

こんな事にならなくて済んだのに‥‥」


「もう、十分よ、十分償ってもらったから、

今日からは何も気にせず、お父さんの人生を歩んで…」

「そして、いつの日か、こっちの世界へ来たら

もう一度私をお嫁さんにして下さい」


「洋子…こんな僕を許してくれるのか?」


「当たり前じゃない!、私が愛した、

ただ1人の人なんだから」

「今でも大好きよ」


「洋子ーーーーー‼‼‼」

「ありがとー!ありがとー!」

「絶対、もう一度結婚しようなーーー!」



「イシガミ様、那奈さん、

今日はお父さんに会わせて下さり、

本当にありがとうございました。

私はいつの日かお父さんが来るのを

ずーっと待ってます」

「お父さん‥‥その時まで、どうかお元気で…」

「さようなら‥‥」



「お嬢さん、本当にありがとう!

20年間の胸のつかえが

やっと取れた感じだよ」


オジサンの顔にも、さっきまでとは違い、

明るさが戻っていた。


「お礼ならイシガミ様に言って」

「初詣はぜひ、石神神社へお詣りしてね♪」


「イッチャンも今日は神様っぽかったよ」


「ぽかったって何だよ!、、、本物の神様だぜ!」

「これでここの気も正常に戻るよ」


「そうだね‥‥」

「ねえ?イッチャンはあのオジサンのこと、知ってたの?」


「もちろんだ!」


「だったら、最初から言ってくれたら良かったのに!」


「自分で気付くことが大事なんだよ!

本当の霊現象なんて1%も無いって、ヒントあげたろ?」


今回は石神に勝たせてあげよう、と思った那奈だった・・・



────「あーーーーー‼‼‼」

「深夜の白い影や追いかけてくる足音って、何?」

「そっちが残ってるじゃん!」


「終電の時間に来てみるしかないか~」


また最初からやり直しか~、と気が重い那奈だった。



────最終電車が到着し、ただ1人の乗客だった夕貴が

降りてきた。


「また今日もやっちまったな~、、、」

「明日から飲み会控えるか…」


足取り重く大多摩橋に差し掛かると、

後ろの方から、ヒタヒタヒタ…と

また誰かがついてくる足音が始まった。


「え?、、、また?」


夕貴は恐怖を感じ、今度は後ろを見ずに

下を向きながら、走って渡ろうとした時だ。


視線に女性の足が見えた。


顔を上げると、那奈が腕組みして仁王立ちで

夕貴の後方を睨み付けてる。


「イッチャン‼‼‼、、、何してんの‼」


夕貴には見えないが、那奈には

後のイシガミの姿がはっきり見えていた。


「あんただったのね!」

「神様がストーカーなんかしてんじゃないよ!」


「だって、、、若い娘の1人歩きは危ないから・・・」


「どうりで、被害者は若い女性ばかりのはずだわ‥‥」

「せっかく神様として、見直したばかりなのに」


サイテー‼─────────



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