カラオケ屋の幽霊
カラオケでは、女子高生3人だけで盛り上がっていた。
どの歌もイシガミの知らない歌ばかりだった、、、
「こんな喧しい歌の何処がいいんだか‥‥」
「ねえ‥‥イッチャン?」
「神通力でカラオケの点数上げてよ!」
「神通力をそんな事に使ったら、
出雲の大国主に怒られちゃうよーーー」
「神様も怒られたりするの?」
「当たり前だよ!」
「ちゃんと上司がいるんだから、、、」
「大丈夫よ‥‥誰にも言わないから…」
「それでも、禁止されてることはできないよ」
「とか、言っちゃって~」
「本当はできないんでしょ?」
「おっ!バカにすんのか~?」
「じゃあ、見て驚くなよーーー」
何やら背中を向けた石神、、、
「何してんの~?」
「あっ!マニュアル読んでるし‥‥」
「うるさいよ!」
那奈が歌い終わった直後、
「あのころは!波ーーーっ‼」
と言う掛け声と共に
両手を開いて前に突き出したら
点数がグングン上がり、
─────92点!────
半端な点数!・・・
「これ?‥‥本当に神通力なの?」
「もちろん!」
那奈は信用してないが
イシガミは得意顔だ。
「ねえ~?那奈?」
「今日はちょっと変だよ…さっきから独り言ばかり‥‥」
「どうしちゃったの?」
那奈の様子を不思議に思った友達のみどりが
聞いてきた。
「も~、黙ってられないから教えちゃうね」
「ここに、ダッサイ神様がいるのよ~(笑)」
「えっ!マジぃ~(笑)」
みんな驚きよりも、可笑しくて吹き出しそうだ。
「ダッサイは余計だ!」
「ねえ、ねえ‥‥みんなで写メ撮ってみようよ」
「そうね、神様も写るかもね?」
「神様は幽霊じゃないから写らないよ!」
‥‥と、ドヤ顔で言うイシガミだが‥‥
「バッチリ写ってるーーーー」
「髪はボサボサで‥‥無精髭‥‥」
「いかにもダサイわね~」
「ホント、御利益無さそうな感じ~(笑)」
「神様なら身なりをもっとキチっとしなさいよ~」
「みんな、神様バカにすると罰が当たるぞ!」
「当てられるものなら当ててごらんなさい~(笑)」
「嫌な奴等に捕まっちまったな~、、、」
「そんな事言わないで‥‥」
「アタシ達も協力してあげるからさ、」
自信有りげに那奈が言う。
「協力してくれるのか?」
どうやら、那奈には考えがあるようだ。
「あっ、そうだ、みんなに紹介してあげるね♪」
「このメガネの娘がみどりちゃん」
「茶髪の娘が麻衣ちゃん」
「そして‥‥この人がイッチャン!」
人じゃないし、、、神様だし、、、
と言いたかったけど、もう、どうでもいいや・・・
「よろしくね~、イッチャン♪」
「見えない人に頭下げるのも可笑しいね」
「神社でお参りするようなものよ」
そりゃそうだ────
「それでワタシ思うんだけど」
「救ってあげるのは、生きてる人だけじゃなくて、
死んでる人を救ってあげても
いいんじゃないかな?」‥‥と那奈が切り出した。
「えっ?どういうこと?」
「このカラオケ屋って、出るのよ」
「だから、成仏できない霊を、救ってあげるの」
「成仏?‥‥って何だ?‥‥」
「あんた神様なのに、成仏も知らないの?」
「幽霊って、心の中に不安があったり、
やり残した事があったりして、
あの世へ行けなくてさまよってるのね」
「それを取り除いてあげて、自分の行くべき世界へ
送ってあげるのよ」
「ああ~、昇華ってやつね!」
「成仏でも、昇華でも、どっちでもいいんだけど‥‥」
「そんなのやった事ないから、やり方分からないぞ」
「なにせ、ワガママなお願いばかり、
聞いてるだけだったからな」
「大丈夫よ‥‥ワタシも付いてるし、とりあえず、
どんな霊か、見てみようよ」
「見てみるって、どうするの?」
イシガミが興味深げに聞いてきた。
「ちょっと呼んでみるね」
「呼ぶって、、、ここにか?」
ビックリしてるイシガミを尻目に
精神統一を始める那奈。
「那奈の霊感は凄いのよ、なにせお祖母さんは
祈祷師だからね」
麻衣がイシガミに説明する。
しばらくすると、那奈の隣に中年の男が浮かんできた。
「キャッーーーーー‼‼」
思わずみどりが悲鳴をあげた─────
どうやら二人にも見えてるらしい・・・
スーツ姿で黒ブチの眼鏡を掛けたその男は
俯いて那奈の隣に座っている。
「何だか暗い男だな」
イシガミが那奈の耳元でつぶやくと
「しょうがないでしょ!死んでるんだから!」
那奈に怒られた・・・
那奈が男に問いかける…
「ねえ?‥‥あなたは、どうして此処にいるの?」
「あなたが呼んだから‥‥」
どいつもこいつも、肉体を持たないヤツは
素直じゃないねーーー
「何か言いました?」
「あっ?いえ、別に‥‥」
気を取り直して質問を続ける那奈・・・
「では、お名前を教えて下さい」
「・・・・」
「あの~?、お名前は?」
「なぜ‥‥あなたに教えなければいけないのですか?」
「なぜって、、、あなたを成仏させてあげようと思って」
「誰がそんなこと頼んだんですか?」
「めんどくさいヤツだな~!」
「そんなヤツほっとこうぜ!」
イシガミがイライラしだした。
「誰ですか?あの失礼な幽霊は?」
「オレは幽霊じゃねぇよ!、神様だよ!」
「その神様がなぜこんな所にいるんですか?」
「オレはあなたを救いたくて来たんだよ」
よく言うよ、仕方なく‥‥のくせに・・・
と那奈がつぶやくと、
「何か言ったか?」
イッチャンもこのおじさんも、耳だけはいいなーーー
「ねえ?おじさん?」
「何か心残りがあるから、ここにいるんでしょ?」
「アタシも神様も、おじさんに楽になってもらいたいのよ」
「だから話してみて~?」
ちょっと男心を刺激するような話し方だ。
慣れてるな、と、イシガミは思った。
「私‥‥横山といいます」
おじさんが口を開いた────
「実は‥‥事業に行き詰まって、借金が返せなくなって、
妻や娘にも見放されて、
1人寂しく死ぬしかなかったんですよ」
「娘には苦労かけたんで、一言謝りたくて‥‥」
「だったらこんな所にいないで、娘さんの所へ行って、
素直に謝ればいいんじゃない?」
「私はこんな姿だし、それに
私のことを恨んでるんじゃないか?と思うと、
怖くて行けないんです」
「幽霊のくせに情けないわね‥‥」
麻衣が口を挟んだ。
「すみません・・・」
「じゃあ、私達はその娘さんを連れてくればいいのね?」
「娘さんの名前は?今はどこにいるの?」
「娘の名前は楓、霞台中、3年A組17番、
担任は高野先生・・・現住所は※※※※※」
「情報には詳しいのね‥‥」
「ありがとうございます。一日暇してますから‥‥」
「このアパートね」
と、那奈が指を指して言う。
「でも中学生って、まだ授業中じゃないの?」
みどりは緊張した様子だ。
「そういうあんた達は学校行ってないのか?不良だな‥‥」
「失礼ね、、、イッチャン!」
「高校生は今日から試験休みなの!」
那奈は頬をフグのように膨らませた。
とにかくインターフォンを押してみる。
すると中から
「はーーーい」と女の子の声がした。
「楓さんいらっしゃいますか?」
那奈が話し掛ける。
「どちら様でしょうか?」
「お父様の知り合いの者ですが‥‥」
(制服姿の女子高生3人で、
お父様の知り合いなんて、怪し過ぎないかしら?)
と、麻衣は思った。
「父は亡くなってますが‥‥」
「知ってます。それで楓さんにお願いがあって
来たんですけど、開けて頂けませんか?」
恐る恐るって感じで、辺りを伺うように
楓がドアを開けた。
「どういうお知り合いなんでしょうか?」
「私、霊が見えるんです‥‥」
「あっ!そういう勧誘でしたら、お断りします。」
「お帰り下さい」
楓がドアを閉めようとしたその時だ!
「じれってぇなーーー!」
「あのころは!波ーーー‼」
一瞬で皆、さっきのカラオケ屋に戻ってた。
イシガミの瞬間移動だ!
「凄い!瞬間移動した‼‼‼」
「これが神の御業だ!」
イシガミがドヤ顔で言う。
「それにしても、あの掛け声は何とかならないの?」
「マニュアル通りなんだから、仕方ないだろ?」
楓も信じられない、という顔で、キョトンとしっぱなしだ。
「わたし、どうなったのかな?」
「神隠しってやつだ」
「それ、死語だから!」
すかさず那奈のツッコミが入る。
「あの~、さっきから皆さん、
どなたと話してるんですか?」
「ああ‥‥実はね、信じられないかもしれないけど、
ここに神様もいるのよ」
「今の瞬間移動‥‥凄かったでしょ?」
「信じます!神様?凄いですね!」
「さっき撮った写メ見る?‥‥こいつよ」
「・・・」
楓の言葉が詰まった、、、
「神様は見掛けじゃないぞ!」
「そんなことより、
あなたのお父さん、横山さんよーーー」
「楓さんはお父さんのこと、恨んでるの?」
「恨んでるわけないじゃない!」
「私達のために、頑張ってきたお父さんなんだから‥‥」
「そりゃあ、借金取りが来た時は怖くて、
母は私を守るため、父から逃げてしまったけど、
今まで1度だって忘れたことないよ!」
「今でも大好きだよ!」
「できるならもう一度会いたいよ!」
「横山さん?聞いた?」
横山に呼び掛ける那奈。
「そんなふうに思っててくれたなんて‥‥
私は嬉しいよーーー!」
横山が顔をくしゃくしゃにして泣きじゃくってる。
「イッチャン?、直接話せるようにしてあげて~」
「神の御業ってヤツで」
「あのころは!波ーーー‼」
「楓‥‥」
横山から話し掛ける。
「お父さん・・・」
「楓‥‥会いたかった」
「弱いお父さんを許しておくれ…」
「ううん、、、お父さんこそ、私達のために
頑張ってくれてありがとう!」
「こうして楓と直接話ができる日が来るなんて、、、
生きてて良かった~!」
(死んでるし・・・)
と、聞こえないようにツッコミを入れる那奈・・・
「楓に渡そうと思って持ってたんだが‥‥」
と、横山が1通の貯金通帳と印鑑を出した。
名義は楓の名前になってる。
「これだけは手を付けずに残しておいた」
「これで高校へ進学しなさい」
「お母さんを助けるため、諦めてたんだろ?」
「そして、素敵な彼氏と出会って、幸せになるんだよ」
「お父さんはいつも見てるからね」
「お父さん‥‥ありがと」
自分のことをこんなに愛してくれてたことを
初めて知った楓は涙が止まらない。
那奈も、麻衣も、みどりも、イシガミさえも
もらい泣きしてる。
「これで思い残すことは何もありません」
横山は成仏する決心をしたようだ。
「ここからはワタシの出番ね!」
「神の御前にて身を委ねたる、横山さんの御霊を
イシガミ様の御名によって、天界へと送ります」
そしてイシガミが両手を高々と揚げると、
もちろん、マニュアルを見ながらだが‥‥
横山の身体が眩しい光りに包まれ
「ありがとう、ありがとう、」
と何度も何度もお辞儀しながら
消えていった─────
「今日は凄いの見ちゃったね!」
カラオケ屋を後にして、麻衣が興奮冷めやらず言った。
「私‥‥心霊とか、超常現象って信じてなかったけど、
今日から信じるわ!」
みどりも興奮してる。
「イッチャンもやればできるじゃん!」
「それにしても、横山さんて、
何でカラオケ屋にいたのかな?」
「神のみぞ知る。ってやつだな‥‥」
女子高生と一緒にカラオケをして遊んでた、、、なんて、
感動的なシーンの後で
口が裂けても言えないイシガミだった─────