勇者さまの怒り
ーーまさに、阿鼻叫喚とはこの事だ。
銀髪蒼眼の美丈夫ーー
ノヴァ·アウラ王国 魔術師団 師団長 ユリウス·ローヴァイルは、目の前の光景に頭を抱えた。
現在、ノヴァ·アウラ王国の存在するアルブム大陸に強大な力を持つ"魔王"が、侵攻してきている。
すでに、魔王の配下である魔族達がいくつかの小国を襲っているという情報が入ってきている。
その知らせに、アルブム大陸の全ての国の筆頭魔術師を集め、魔王を滅ぼす存在と伝承に謡われた"勇者"を召喚を行った。
この、ノヴァ·アウラ王国で…
そして、その結果……
「ちょっと!聞いてんの?!まこをどうしたのかって聞いてんのよ!!!」
……召喚された一人の少女によって、魔術師たちが全滅していた…。
「あー、と…、勇者さま?」
ユリウスが少女に声をかけたのを見て、後ろに控えていた彼の部下たちは、ぎょっとしたように彼を見た。
…それもそうだろう。勇者として召喚された少女が、鬼の形相で魔術師たちを全滅させたのだ。巻き込まれたくはない。
「あ?…貴方なら少しはまともそうね。…まこはどこ?」
「…まこ?」
なんだそれは、という表情をするユリウス。
「っだから!私と一緒にいた、女の子!!」
少女が声を荒らげて叫ぶ。
「……ゆ、勇者さま…召喚されたのは……おひとりで……ぐふっ」
少女の足元に転がっていた魔術師が、弱々しく答えるが、次の瞬間少女に踏まれた。
「あんたに聞いてない。」
(((ひぃぃいい…)))
で?とユリウスを睨みつける少女。
「…あー、多分そいつの言った通りだと思う。第一、この召喚において呼べるのは1人だけだ。2人も呼べるほど魔力がないからな。」
ユリウスが、頬を引き攣らせながら答える。そう答えたユリウスをじっと見つめ、少女は頷いた。
「……嘘ではないね?」
「ああ。この身に誓おう。」
ユリウスの答えに少女は頷いた。
その光景に、周りはほっと息を吐いた。
「じゃ、帰してくれる?」
その言葉にまたもや空気が凍る。
「あ、あの…勇者さま…ぐぇっ」
またもや、足元の魔術師が声を上げたが、踏まれる。
「私は勇者じゃないし。ってか、帰せ。」
「すまないが…それは出来ない。」
ユリウスの答えに少女が眉を吊り上げる。
「…なんですって?」
((((団長ーー!!!))))
ユリウスの背後にいる部下達は心の中で絶叫した。
「勝手に呼び出しておいて、帰れない?…ふざけるのも大概にしなさいよ。」
「…すまない、怒りは最もだ。…正確には、魔力が溜まるまで帰せない、だ。…君の足蹴にしている魔術師たちが、回復するまで、とも言うが。」
その言葉に、少女が胡乱げに足元を見る。
「そうなんです…すみませ…ぐふっ」
そして、蹴られる。
「…はぁ、とりあえず私が帰れるまで、身の回りの保証はしてくれるんでしょうね?」
「…了解した。…俺はユリウス。この国、ノヴァ·アウラ王国の魔術師団の師団長を務めている。君がこの世界にいる間
、俺が君の身の回りの保証をしよう。」
「……鈴華。」
少女ーーいや、鈴華はそう名乗り意志の強そうな黒い瞳でユリウスを見た。