転生少女は混乱する
「どうしてこうなった」
真琴は頭を抱えた。
あたりを見回せど360°、木、木、木である。真琴は必死に過去の記憶…っと言っても数分前の記憶を掘り返す。
「学校が終わって…鈴華と帰ってて…それで…」
気づいたらここにいた。いつの間にやら友人である鈴華の姿はなく、コンクリートの塀ばかりが並んでいた道は木になり、森になっている。
「んな馬鹿な…」
これが頭を抱えずにいられるだろか…。さらに厄介なのは…
「ここって、ネブラの森、か?」
…どうやら、前世に住んでいた世界に飛ばされたらしい。
言桐 真琴には、前世の記憶がある。
今世とは違う、魔術など非科学的なものが集まった、今世で言ってしまえば、物語やゲームの中のような世界。
そんな世界で魔術師をしていた"レティシア"という少女の記憶を持っていた。彼女は、天才的な魔術師であったが、"とある事情で"若くして亡くなってしまった。
その少女"レティシア"の記憶を真琴は持っていた。
ぶっちゃけ、前世の記憶である。
この記憶を思い出したのは、5歳の頃。
最初は、"真琴"の記憶と"レティシア"の記憶が混じるまで、高熱を出し1週間生死をさ迷っていた。
レティシアの方が長く生きていたため、感情や感覚がレティシアに引っ張られ、随分と可愛げのない子供になってしまったが…。
「あ、とりあえず魔術は…」
使えるのだろうか…と、前世の感覚で何も無い空間に手刀を切る。
すると、空間に裂け目ができる。ーー前世でよく使っていた、空間魔術だ。
「っとーーーあ、あったあったー!」
空間の裂け目に腕を突っ込み、一振りの杖を取り出す。
「ーーっと、流石に死ぬ前に使ってた杖はないかー。」
気に入ってたんだけどなぁ…と呟きながら、手に持った杖を軽く振る。
「グギャアーー!」パキン
真琴の背後に迫っていた黒い狼が一瞬にして凍りつく。それを、見て真琴はひとつ頷いた。
「ーーよし、大丈夫みたいだね。」
氷結魔術ーー前世で真琴が最も好んで使っていた魔術である。
「まずは、情報収集かな。…この格好じゃ目立つか…。」
もう一度空間の裂け目に腕を突っ込み、大きめのローブを取り出し羽織る。
「ここがネブラの森なら、1番近いのは…インティ村か。」
真琴は先へ進もうとして、ふと立ち止まる。彼女の目にした場所には不自然に大きな石が置いてあった。
「……まさか」
ふと思い立ち、その石の苔を軽く払う。そこにはーーー
《レティシア・アークライトーここに眠るー》
「……ああ。そういえば」
ー私はここで死んだんだっけ。
さあっと、風が真琴の黒髪と緑のローブを揺らす。真琴は少しの間、黙って前世の自分の墓を見つめていた。
「…ジル」
かつて、共に旅をした友であり、弟分であり、ーーーである彼を思い出す。
ーーー彼には酷いことをしてしまった。
「会いに…行ってみようかな…。」
今の姿で彼の前に現れたとしても、きっと気づかないだろうけれど…。
「…よし、行こう!」
真琴は歩き出した。
ひとまず、何をするにも情報がなくてはいけない。"私"が死んでから、どれくらいだっただろうか…。
彼は、今どうしているだろうか。
「…どうしてこうなったのか、ねぇ」