転生少女はーーー
「レティシア、…レティシア!」
土砂降りの雨が2人の体を濡らしていた。
黒髪が頬に張り付くのも払わず、ジルベールは必死に叫んでいた。
「…ジル…、お前も…もうわかるだろ…、私は、もう…」
血に濡れたレティシアは笑う。
もう駄目なんだ、と。
力無く身体を横たえたまま、己を腕に抱くジルベールを見上げた。
「…っ、やだ…ひとりにしないで…っ、まだ、僕は何も返せてない…!」
ぐったりと力無く横たわっている身体に縋りながら、ジルベールは叫んだ。
そんな彼に、レティシアは苦笑した。
「何も返せてない…か…。じゃあ、約束をしよう…。」
そう言って、レティシアは一度その瞳を閉じ、そしてかつて、ジルベールを連れ出した時のような力強い蒼い瞳で彼を見た。
「死ぬな」
ただ一言。彼女は告げた。
残酷に、その言葉がジルベールを傷つけることを知りながら。
「…っ、」
その言葉にジルベールは、唇を噛み締めた。そして、反論をしようと口を開こうとしたのをさらにレティシアが遮る。
『たとえ、何があろうとも。
私を思うならば、…私に報いたいと願うのなら。生きろ。どんなに辛くても…、な。』
. . . . .
それは呪いだ。
その言葉がジルベールを縛り付けるとレティシアは知っていた。
そして、己の言葉を守ることも、彼女は知っていた。
それによって、ジルベールが苦しむこともーー。
それでもーー、彼に後を追わせる訳にはいかなかった。それが、彼の母と彼女の母との約束だったのだから。
「それが、あなたの母君と私の母との約束だ。」
少しずつ、手足の感覚がなくなってくる。
レティシアは、ぼんやりと己の死を感じとっていた。
「…っ、わかっ……た…。」
ジルベールは頷いた。
瞳に絶望の色を滲ませながら。
それを霞む視界にうつし、レティシアは苦笑した。
「…餞別だ。」
そう言って、ほとんど感覚のない腕を上げ、体内の残り僅かな魔力を操る。
ぼんやりと柔らかな光を発しながら魔法陣を構築し、目当てのモノを取り出す。
「くーきゅう!」
. .
それは、鳴き声をあげながら、ぽふりとジルベールの頭の上に着地した。
「?!」
驚いているジルベールにレティシアは微かに笑う。
「そ…いつは、使い魔だ……、昔手違いで呼び出してな。そいつの名前は、フォルトゥーナ」
手を伸ばし、銀の毛並みをした長く垂れた耳の四足の謎の小動物…フォルトゥーナを撫でる。
「フォルトゥーナ………幸運?」
ジルベールの言葉に軽く頷いた。
だんだん霞んでいく意識の中でせめて最期にと、重たくなった口を開く。
「じる…あなたの幸運を…祈る…、フォルトゥーナが、君を…導きますよう……に……」
さらりと、ジルベールの頬を撫でた腕は力無く地に落ちた。
ジルベールはしばらく無言のまま、冷たくなったレティシアを抱きしめていた。
その傍らには、主人の死を悟った使い魔が鳴いていた。
「……レティシアは、ひどいな…」
ぽつりとジルベールは呟いた。
寂しそうに響いた声を使い魔だけが聞いていた。
ーーーあめが、ふっていた