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040-魔女との戦い

「友……?」


『うむ。お主とはまだ絶交しておらんからの』


 我輩の言葉に一瞬顔をしかめたユキコだったが、再び全身から殺気を放ちながら杖を構えると、それを地面に向かって突き立てて叫んだ。


『アースクエイク!!』


 杖から放たれた魔力は大地を揺らし、我輩の足下に巨大な地割れを生み出した。

 普通の人間であればそのまま落ちてしまうであろう。


『ふむ、なかなかの威力じゃな』


「……反則だ」


 不満そうにこちらを睨むユキコの目線は斜め上、つまり宙に浮かぶ我輩へと向いていた。

 ちなみに視界の隅には「あわわわわ」などと言いながら困惑するリンナの姿が見えていて、困惑する表情についつい笑ってしまいそうになる。


『次は我輩から行かせてもらうかの』


 大鎌デスサイズから放った黒霧は真っ直ぐにユキコへと向かい、目の前で離散して消えた。


『属性無視のマジックシールドが無条件で発動か。お主には先程の"反則"という言葉をそのまま返上してやりたいところじゃな』


 苦言を呟く我輩を見てもユキコは表情ひとつ変える事なく、立て続けに魔法を放ってきた。

 先程の地割れに続いて炎、氷、雷など多種多様の属性魔法を使いこなす様から、かつて腕のある魔女だった事が窺える。


『力を追い求めた結果の悪魔契約……か』


 我輩はそう呟くと、自然にユキコの持つ杖へと目が向いた。

 詠唱する直前に杖に埋め込まれた宝石が一瞬鈍く光っているのが見える。


『狙うなら、アレじゃな』



~~



 双方で攻撃魔法の撃ち合いによって、静止した世界の中は炎に包まれていた。

 それから大鎌と杖がぶつかり合う音が響き、目にも留まらぬ速さの殺陣たてが繰り広げられている。


『マズいっスね』


「セラが圧されてるのか?」


『いや、セラっちが全力を出せば多分ユキコちゃんは即死するっス。でも、セラっちの性格を考えると……勝ち目が無いかなぁと』


「なるほど……」


 見ず知らずの俺を助けようとしたセラの事だ。

 今まで友人として付き合ってきたユキコちゃん相手に全力を出せるはずもなく、ひたすら防戦が続いているのか。


「リクさん」


 ふと気づけば、俺の隣にリンナちゃんが立って戦いを見つめていた。


「アレは何?」


「うーん……」


 率直に言うと「魔王の手下として現れたユキコちゃんと、勇者の奴隷かつ死神であるセラが戦っている」のだけど、それをそのまま伝えてもリンナちゃんは余計に混乱するだろう。

 一体どう説明したものか、何とも返事に困ってしまう……と思っていた矢先。


『セラさんが、悪魔に取り憑かれたユキコちゃんを助けようとしてるんですよ』


「っ!?」


 突然、上から聞き覚えのある声が辺りへ響く。

 空を見上げると、閉鎖された世界を明るく照らしながら二人の天使が降ってくる姿があった。


「……何あれ」


 さすがに慣れてきたのか、リンナちゃんは非現実的な状況に取り乱す事すら無くなった。


「うーん。天使のカナと……もう一人は初対面だ」


 カナと共に、空に輝く光の羽を散らしながら現れたのは、炎のように真っ赤な髪が印象的な、妙に眠そうな顔をした天使の少女だった。

 体格は小柄ではあるが背中の翼はカナよりもずっと大きく、衣装もやたら豪華な装飾が付いていて、その身分の高さがうかがえる。


『カナさんの上司さんっスか?』


 キサキの問いかけに、赤髪の天使はクスリと笑いながら首を横に振る。


『ボクの名前はアウリア。この子の上司とボクは友人同士でね。今回は少々強敵だと聞いて、手伝いに来たのさ』


「あの、天使様……?」


 アイリアと名乗る天使に対し、リンナちゃんが恐る恐る話しかける。


『ん、何かな?』


「ユキコはどうしちゃったんですか? 元に戻るんですか……?」


 不安そうな顔のリンナちゃんに、アウリアは少しだけ迷いながら首を横に振る。

 その答えにリンナちゃんは泣きそうな顔になってしまったが、アウリアは優しく微笑むと少女の頭をそっと撫でた。


『あの子は何も変わってないさ。元に戻るんじゃない……君達で彼女を変えてあげるんだ』


「天使様……ぐすっ……」


 アウリアの言葉を受けてリンナちゃんは泣きながら、力強く頭を縦に振った。

 そんな健気な姿を見てカナは、ウンウンと嬉しそうに頷きながらリンナちゃんの肩をぽんと叩いた。


『これからはちゃんと天使を敬ってくださいね~』


「アンタを敬うくらいなら舌噛んで死ぬ方がマシよ……」


『なんでですかーっ!! アウリア様と比べて私の扱い雑過ぎませんっ!?』


 バッサリと一刀両断されたカナは不満そうにぶうたれ、それを見てリンナちゃんは少しだけ笑顔を見せた。

 それから、カナは目線をユキコちゃんへと向けると……かつて初めてセラと対面した時と同じ冷たい目へと変貌した。


『新たな御両親より授かった名を汚し、更には無許可での魔法利用。リンナちゃんや他の方々へ危害を加えようとした……などなど。元々、貴女の罪は人間の魂いっこ程度で償えるモノでは無かったのですけど、今回の一件で完全にアウトです』


「……」


『ぶっちゃけると、ここで貴女を魂ごと消滅させたって、私的には上からメチャクチャ怒られるくらいで済んじゃうわけですよ』


 そう言って冷たい笑みを浮かべるカナの姿を見て、思わず背中に冷たい汗が流れる。

 振り上げた右手に向かって宙から光が集まり、その手に片手半剣バスタードソードが握られた。


『もう一回、転生からやり直しましょうか』


 自らに向けられた剣の切っ先を見て、最早これまでだと察したのか、ユキコちゃんは辛そうに唇を噛む。

 だが、ユキコちゃんの目の前で一人の少女……リンナちゃんが両手を広げて、カナに立ちはだかった。


『んー、どいてくれません?』


「お断りよ」


 そんな二人のやり取りに、ユキコちゃんは目を見開いて驚いている。


『ついさっき貴女を殺そうとした敵をかばうだなんて、リンナさんは変な人ですね』


「うっさいわね!」


「なんで……?」


 自分の背中に向かって問いかけられ、リンナちゃんは振り返ると、微妙に赤面しつつコホンとわざとらしく咳払い。


「友達が襲われてて、はいそーですかって見逃せるわけ無いでしょ」


「友達……」


「まだ絶交されてないからね!」


「!!!」


 セラに続けてリンナちゃんからも自分を友達と呼ばれたユキコちゃんは、わなわなと震えながらその右手の杖をカランと地面に落とした。

 それから地面にうずくまると、その場でシクシクと泣き出してしまった。


「なんで……私なんかの為に……うぅぅ……」


 静かな世界に少女の泣き声だけが響く。


「ねえユキコ? アンタ一体、どうしてそんな事になっちゃってんのよ」


「………」


『言ってみるが良い。皆はお主を助けるために集まっておるのじゃからな』


 友達二人に諭され、ユキコちゃんはすがるように右手を伸ばして……



『しくじったね?』



 俺達の頭上から、挑発的な男の声が響いた。

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