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027-アルカは語る

『なん……だと……』


 アルカがこの世界にやって来た理由を聞いたセラは、愕然とした顔で椅子に力なく座る。


『それは間違い無く事実ですか?』


『はい』


 カナの問いかけにアルカが即答すると、カナの手のひらの上に青白い光が飛んだ。


『本当のようですね』


『カナさん。真顔でサラっと尋問用の嘘発見スキル使うの、すげー怖いっス……』


 キサキが呆れながらぼやくのを尻目に、俺はこの一件について率直にアルカに質問する。


「それはつまり、お家騒動って事だよな?」


『……はい』


 ――第三王位継承権者。


 素人目には「上二人が居るんだから、三番目は何も気にしなくてオッケー」くらいの認識だったのだが、実際はそんな簡単な話では無いそうで、派閥やら何やらと色々複雑な"しがらみ"があるらしい。

 その中で今回勃発したのが『第三位の簒奪さんだつの動き』である。


『王国騎士団の掴んだ情報によると、第三世界に居る間にセラ様を亡き者にし、それをこの世界の何者かに責任を押しつける狙いがあったらしいのです……』


『なるほど下克上ですか。ホント、死神って連中は野蛮ですね』


 カナの皮肉にアルカの眉がピクリと動く。


『それを言うならば貴殿の同僚も、第六世界ソードアンドソーサリーを巻き込む大騒動を起こしたはずでは? あの一件は第二世界にも伝わっておりますが』


『既に再発防止策は実施済みで、それ以来問題は起きていません』


『確か、神による思想への介入と行動制限だったかな。民の尊厳を踏みにじってまで偽装つくられたそれが再発防止策と?』


『ええ、愚者レッサーには理解出来ないでしょうけどね』


 まるで互いに言葉で殴り合うかのような一触即発な雰囲気に、見ているこちらの方がハラハラしてしまう。


『それくらいにしておけアルカよ。……だが、お主の説明でようやく納得がいった』


 アルカ曰く、能力や才能に恵まれたセラは、第三王位継承権者でありながら、セラこそが国を率いる王に相応ふさわしいと言う声も少なからずあったらしい。

 当然ながら、他の派閥……特に第一や第二の連中にとって面白くない話だろう。


『我輩は王の座など欲しておらぬのじゃがな。柄ではないし、誰かの上に立って見下ろすよりも、民と同じ場所で同じ景色眺めていたい』


 寂しげに語るその姿は今にも儚く消えてしまいそうで、俺はセラの頭を優しく撫でた。

 少し笑ったセラの姿を見て、カナは優しく微笑む。


『出会ったばかりの頃の貴女が、手に余る程の力を得たところでそれが何になる~……って言ってましたけど、それは自身の立場に基づいて得た価値観だったのですね』


『うむ。家臣連中はあまり良い顔はしなかったがな』


 家臣連中と言うならそこにはアルカも含まれていると思うのだが、セラの言葉に対して特に懸念するような表情は見られない。


「アルカさんは……?」


『賛成か反対かと言われれば後者だが、セラ様が幼い頃から身の回りの御世話をさせて頂いてましたゆえ。セラ様のお幸せこそが私の願いであり、全てだ』


 そう言ってセラに向ける眼差しは、まるで妹を見守る姉みたいだった。

 セラ自身も期待通りの言葉が得られて満足そうだ。


第二世界セカンドへ帰る方法すら分からないとおおやけになれば、セラ様を脅威と見なして命を狙う輩が現れる事は無いだろう。世話係である私や側近の者達は少々風当たりが強くなりそうではあるが、それでセラ様の安全が護られるのであれば安いものさ』


『アルカ……感謝する』


『その言葉だけで、配下として十分過ぎる程の栄誉です』


 そう言って、セラとアルカは本当の姉妹みたいに笑いあった。



◇◇



『でも、セラさんが来てから結構経ってるのに、どうして今まで一度も襲われなかったんスかね?』


 さすが『魔王から送り込まれた元・刺客』なだけあってキサキがなかなか的を射た質問だ。


『セラ様の容姿も関係あると思うが、魔力を探査しても微弱過ぎて位置が絞り込めないのが一番の原因だろう。セラ様の魂を目印に探ろうにも、リク君と同化していてそれも出来ないからな』


『なるほどー……あれ? じゃあ、アルカさんは何でセラさんの場所が分かったんスか?』


 キサキが再び問いかけると、アルカはフッとさっきよりも自慢げに笑った。


『セラ様の匂いを追って来たのさ』


『『気持ち悪いッ!!!』』


 アルカの爆弾発言によりカナとキサキはドン引きでその場を飛び退き、セラは不安そうな顔で自分の服をクンクンと嗅いでいる。


『な、なぁ、我輩そんなに臭うか? そんなにクサいかのぅ!? リクよ、正直に答えてくれぇ……!!』


「晩飯のソーセージと肉じゃがの匂いしかしねえ」


『それはそれで色気が無いと言われてるみたいで微妙に嫌じゃ……』


 騒ぐ俺達を見てしばらく不思議そうにしていたアルカだったが、こちらが何故騒いでいたのかようやく気づいたらしく、慌てて首を横に振って否定した。


『ま、待てっ! 嗅覚に優れているのはコイツ……ホロウだ! 私じゃない!!!』


 アルカが慌てて指を差した先に居たのは、言わずと知れた肩に乗っかった小さな鳥さん。

 実際にはファンタジー小説のグリフォンのような巨鳥だったのだが、我が家に入ってくる時に小さく変化している。

 何気にホロウという名前だったのね。


『ホロウはセラ様にとても懐いていたからな。他の連中が全く見つけられなかったのに、この世界に来るや否やあっという間に見つけてしまったのは本当驚いたよ』


 自分が褒められていると理解しているのか、小鳥は嬉しそうにアルカの肩の上からピョンと飛び降りると、そのままセラの肩に乗った。

 ……と思いきや、続けて俺の頭の上にピョンと飛び移った。


「……なんで俺?」


『我輩と魂を共有しておるから、リクの事も気に入ったのかもしれんの』


「そんなもんかねぇ」


 セラやアルカが肩の上に小鳥を乗せるのは様になっていたけど、俺の場合は頭頂部に小鳥が突っ立っているので、鏡に映る姿が間抜けすぎて切ない。


『フフッ。さて、そろそろ私はおいとまさせて貰おうとしよう。国王様に早くセラ様のご無事をお伝えせねば』


『うむ。足労をかけてすまぬが、よろしく頼むぞ』


『ハハッ!』


 そしてアルカが俺の顔の前に手を伸ばし……。

 ……何も起きません。


『???』


 再び身をひるがしてバッと手を前にやったが、やっぱり何も起きない。


『お、おい、ホロウ! 私達は帰るから!』


 アルカが困惑した顔で俺の頭の上に話しかけたものの、ピクリとも動かない。


『いい加減にしろ! このっ!』


「いててててっ、爪が頭にっ!? イダダダダダ!!」


 アルカが鳥さんを無理矢理引っ張るものの、先に俺の頭皮が死滅してしまいかねない。


『……うーん、ホロウは帰りたくないようだ。久々にセラ様の近くに居られて嬉しいのかもしれないし、しばらくコイツを見て貰えるだろうか?』


「えーっと、俺はそれでも構わないんですけど、アルカさんは良いんですか???」


『なあに、ホロウを戦力として必要とする場面は滅多とないからな。まあ、これで宜しく頼む』


 アルカは腰の袋に手を入れて何かを掴むと、俺の手のひらの上にそれを置いた。

 凄く……金色です。


『この世界でも金は価値が高いのだろう?』


「まあ、そうだけど……未成年が金の塊を持っていって買い取ってくれる店なんてあるかなぁ」


『我輩が一時的に元の姿に戻って売りに行くとか……?』


『黒装束姿の褐色女が金塊を売りに来たとか、色々な意味で騒ぎになりそうですけど』


『む、むぅ……』


 結局アルカに金塊は返却し、鳥さんことホロウは『自力で餌を調達する』という条件で我が家に居候する事になったのであった。

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