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美しき女探偵

 

「犯人は君だね」


 ある夏の昼下がり、その女探偵は真っ直ぐに僕を見て言った。

 女探偵の視線を追った人々の目線が、僕に集まる。


 …これではまるで僕が犯人のようではないか。


「やっぱりあいつだったか!俺、怪しいと思ってたんだよなー!」


「そうそう、私もそう思ってた!あいつなら動機もあるし〜!」


「おう!そうだよなー!そう思ってたの、俺だけじゃなかったんだなー!」


 まさか、これは…!僕が犯人にされている…!



 女探偵は僕を犯人だと推理した。

 もちろん犯人は僕じゃない。何故僕が疑われるんだ…?


 …それに。

 誰か一人くらい、僕を信じてくれてもいいじゃないか…!!



「僕は…!僕は、犯人なんかじゃありません!!」


 ほんとに、僕はやってないんだ!


 そう叫んだけれど、みんなは疑いの目を向けることをやめない。


 …どうして信じてくれないんだろう?僕はこのまま犯罪の濡れ衣を着せられて、捕まってしまうのだろうか…。あの女探偵が恨めしい。


「ああ。解ってるよ」


 だが、女探偵はあっさりと僕の言葉を肯定し、にこりと微笑んだ。


「では、刑事さん。犯人を逮捕してくれ」


 何が『解ってる』だ!話が違うぞ!


 刑事は、ゆっくりとこちらに近づいてきて、僕の腕を掴んだ。


「…っ!!」


 だから、僕は犯人じゃないって…!!



 *


「ここが、探偵事務所…」


 比較的真新しいビルの3階。ピカピカの看板に最新式のロックの設置されたそこは、まだ開いたばかりなのだと推測するのに容易い。誠は、そこに―――探深(さがみ)探偵事務所―――に足を踏み入れた。




 扉を開けてそおっと部屋の中を覗くけれど、誰もいない。真っ暗である。夏の陽の時間は短いとはいえ、まだ昼間なのに、他のビルに遮られ日光が入ってこない。


「留守かな…?」


 明日にでも出直そうと踵をかえすと、後ろから声をかけられた。


「なあ、君。留守じゃないのだが…」

 

 誰もいないと思っていたために誠はとても驚いたが、それが聞き覚えのある声だと分かったために、冷静にゆっくりと振り向いた。


「探偵さん、お久しぶりです」


 その言葉に眉をあげる彼女は、誠のことをしっかりと覚えていたらしい。


「あぁ!君は、あの時の犯人くん!」


 にこりと微笑んだ彼女の造形は整っていて美しいが、そのような笑みにやられる誠ではない。

 …いや、いつもならやられるかもしれないが、今はそんな余裕が無いのだ。

 誠は彼女の美しい手をとって、のぞき込むようにしてその真剣な瞳に彼女を写す。


「…お願いです!僕を…!僕を、助けてくださいっ…!!」





 

「ふぅん…。成程ね…」


 美しい女探偵はその長い足を組み、アンティーク調のソファーに深々と腰掛けていた。背中までの真っ直ぐな黒髪を左右の方から流しているために、1枚の絵画のようだ。


「つまり、あなたは私にその体質を治してほしいのだね?」


 誠は黙って頷く。


「何故、私に依頼を?」


「何故って…!あなたが言ったからじゃないですかっ…!」


「はて。私はなにを言ったのだろうか…」


 わざとらしく首を傾げ、そんな覚えはないとばかりにこちらを見つめてくる。


『お詫びに、困ったことがあれば、いつでも私が力になろう』


「あなたは確かに言いました!僕を罠にはめて刑事に突きだした時に!!」


 誠の剣幕に眉をしかめる女探偵。


「…そんなに怒らないでくれよ。君を犯人にしたてあげたのだって、仕方なくやったんだから」


「そんな言い訳が通じるとでも!?」


「あの後、ちゃんと説明したじゃないか。あの時は、犯人を捕まえる証拠が無かったんだ。犯人を油断させて、あぶりだしたかったんだよ。…その犯人と違って、君を犯人とする証拠は多くあって、利用しやすかったんだ」


 悪気があるのかないのか知らないが、聞き流せない発言をサラッと口に出す。


「その利用された被害者が僕だって言ってるんですよ!!冤罪をきせられて、味方は一人もいなくて!…やってないって言ってるのに、誰も信じてくれなかったんですよ!?」


「まあまあ、落ち着いてくれよ。…この暑さで気がたってるのかね…?」


 女探偵は暑苦しいとばかりに顔をそむけ、要らぬ考察をする。


「僕は…!僕は…!!」


 誠はぐっと拳を握りしめ歯をくいしばる。そうでもしないと今にも涙が零れてしまいそうだ。


「…んです!」


「うん?」


 その言葉は五感の鋭い探偵にも聞き取れない。


「…が…んです!」


「え?なんだって?」


「…だから!!僕にはっ…!友達がっ…!一人もっ…!いないんですっ!!」


 勢いよく顔を上げ、キッとこちらを睨むようにする誠は半泣きである。


「…そ、そうか」


 何とかそう絞り出したものの、泣きそうな少年にはなんの変化ももたらさない。


「…僕は今、困っています!だから、あなたのあの時の言葉にすがってここまで来たんです!…それとも、そんな口約束は知らないと、まだ言い張りますか…?」


「コホンッ!…交換条件をつけようじゃないか」


「交換条件…?」


 訝しむような誠の声音に、美しき女探偵はにやりと笑う。


「ああ。私が君の依頼を受ける代わりに、この私、探深(さがみ)真実子(まみこ)の探偵助手をやらないかい?」



 ――――こうして、一人の探偵とその助手のすこし変わった物語が幕を開けるのだった…。


読んでくださってありがとうございます!


この物語は不定期更新です。ブックマークやポイントをくださると更新頻度があがるかも知れません。作者は単純なので、よろしければお試しください。m(_ _)m

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