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運命を変える選択

「宮廷に長年仕える侍従長と前々宰相が侯爵邸に訪れまして……」


 ギャリオッツ駐留軍の大立者である中将の機嫌をそこねたら、一旦は去ったギャリオッツの軍隊がまたも侵攻してくる口実にされるのではないか、と、噛んで含めるように言い含めたのだ。こういう場合、経験豊富な老人たちが説得役の上使におくられる。


「……私も……説得され、プラグセン王国のために戦役に刈り出された多くの兵士たちの犠牲をたっとぶためにも、これからの未来のためにもと……一度は納得しました」

 気丈な侯爵令嬢が青い顔でうなだれた。そして、すがるような視線を、地味すぎる執事のミランに向けた。


「プラグセンの東の国境にあるロドニーンへ、内密に逃げましょうと提言しました……彼の地には、アンドレア様の元婚約者で、ギャリオッツの侵攻があったとき、徹底抗戦を主張し、義勇軍を立ち上げようとしたアボイル子爵が軟禁されているのです」


 議会で和平派が勝利し、もともと少ない主戦派の者たちを自領で謹慎させるか、遠隔地へ軟禁させたのだ。アボイル子爵はロドニーン要塞を守備するパワーズフッド男爵に預けられた。しかし、男爵も内心は主戦派に同調しているらしい。

 タートル・ピッグは、子爵は伯爵よりも爵位が下ではないのか? と、思ったが、空気を読んで口にしない。


「ロドニーンならば、アンドレア嬢が駆けこんでも匿ってくれるはず……私は内密にアボイル子爵とパワーズフッド男爵に連絡をとり、内密に庇護してくれると約束していただきました。後は微行おしのびで彼の地に向かうだけなのです……」

「ミラン、とかいったな……まだ、世間を良く知らないようだが……もしも、これが露見したら、大変なことになる事はわかっているのか?」

 グリフェが厳しい表情で若い執事を問い詰める。

「……その時は、これは私の独断で決めたこと……一切の責めは私が受ける覚悟です」


 それは法律書には載っていない内々の罰を受ける事だ。軽くて、鞭打ち、重くて、叛逆罪で重罪となるだろう。


「……ミラン…………」

 アンドレアが痛ましい目で見つめ、視線をそらす。


「……なんでまた、そんな貧乏くじを引くんだ? この世間知らずの高慢ちきな娘にそれほどの価値があるのか?」

「アンドレア様はこう見えて、実は繊細で優しくて、臆病な方なのです……精一杯、強がって、尊大な態度をすることで身を守っているのです。幼少時からお仕えしている私には、わかります……」

「…………」

「お嬢様には、私には昔から良くしてくれました。邸宅で仕事が失敗したとき、何度もかばっていただきました。そして、弟のようだとも……だから、たとえ私がどうなっても、アンドレア様にはお幸せになって欲しい……決して、吸血鬼の生け贄などにはなって欲しくないのです……」

「……うぐぅぅぅぅぅ……ミィランんんんん……」


 存在感が希薄で、平凡な容姿の執事は、今、この瞬間、プラグセンでもっとも美しい存在となった。

 騎兵隊のように勇ましく食堂に入ってきた、美しくも高慢な侯爵令嬢は、ただの17歳の娘となって涙ぐんでいた。タートルもすっかり同情的な表情だ。


「グリフェ……依頼を引き受けてやろうよ。『義を見てせざるは勇無きなり』って、東域の偉い学者も言ってるじゃねえかよ……」

「けっ! 言っていることが青臭いんだよっ! いまどき自己犠牲の精神なんぞ流行はやってねえぜ……それに、俺は物語にでてくる正義の味方の騎士じぇねえ!」

「なんて事いうんだよ、見損なったぜ、グリフェ……」

 憤懣やるかたないタートルに対し、グリフェは片頬をあげ、ニヤリと笑う。

「だが……貴様は気にいった! ミラン、お前の依頼なら受けてやる……」

「へっ? 主人はアンドレア様ですが……」

「さっきもいったが、俺は嘘つきとは契約しねえ!」

「なっ……なんですって!」

 アンドレアが眉を吊り上げるが、心なしか悲壮な表情が消えている。

「さすがはグリフェだ! もち、オレっちも同行するぜ」


「なっ……ちょっ……待ってくれ、グリフェ君……これは国際問題になりそうな事案じゃないか……まずは、〈EGG〉の評議にかけて……」

 ホログラムのダンプティ支部長が慌てふためく。心労で倒れそうな表情だ。


「俺は今日限り、〈EGG〉を退職する。元のフリーのモンスター・スレイヤーだ。これならギルドに迷惑はかからねえよな? 辞表は後で郵送するから、よろしくな、支部長!」

「もちろん、オレっちも辞表を出すから、よろしく」

「困るよ、急に~~~~」

 ダンプティ支部長の立体映像が歪んで、ゴスロリのバーチャル・モデル、アリス・リーデシュタインに切り替わった。


「オッケー、後はこっちでなんとか受理しておくわ。ミスター・タートル。ミスター白頭鷲はくとうわし

「俺を白頭鷲と呼ぶんじゃねえ、ガキンチョ!」

「おおっ、さすが、アリスちゃん! 気が利くね」

「……それに、ちょっとだけ……1ミクロンだけ見なおしたわ、ミスター白頭鷲……チャオ!」

 そう、言い残し、アリス・リーデシュタインの映像が消えた。

「けっ!」


「お取込み中、失礼――アンドレア・ユルコヴァー嬢ですな……」

〈金の角〉亭ホテルの食堂に黒いコートに黒帽子、黒服を着た一団が入ってきた。


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