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終章

 あれから一ヶ月が過ぎた―― 


 プラグセン王国の首都ミアーチェの旧市街。昼下がりの喫茶店の外の席に三人の男が座り、コーヒーを啜りながら新聞を読んでいた。記事にはこうある。


 ――去る、4月末。ミアーチェ駐留軍司令官のギュンター・ドラッケン中将と副官のサンドロ・フプカ少将は、本国ギャリオッツ帝国に帰参中に艦の事故により死亡。大陸初の軍用武装飛行船『シュヴァルツ・ツェッペリン号』でプラグセン王国を視察中であった。


 帝国の若き皇帝クラウス・ドラグベルク10世は、兵学の師と慕い、帝国軍人の模範とされるドラッケン中将に深い哀悼の意を告げ、彼を帝国の英雄として追悼することを決めた。


「な~~にが帝国の英雄だ……支配国でさんざん好き放題して、憎まれまくった癖によ……」

「まったくだぜ……側室にされた娘さんたちをはじめ、多くの人が犠牲になったのによ……」


 グリフェが不満顔で新聞から目をあげる。タートルがコーヒーを飲みながら口をひん曲げた。


「しかしですなあ……クラウス皇帝は南北戦争開戦前に、中域の半分を支配下におくだなんて豪語した癖に、政治的しがらみから支配国は三ヶ国止まりだったですからねえ……国民の不満を誤魔化すために英雄を作り出す必要があったんでござんしょ?」


 第三の男チャック・カールハウゼンが口を出した。ヨレヨレのコートを着たくたびれた四十代の新聞記者である。グリフェとタートルがプラグセン王国に来て、怪物退治をして以来くっついてきた新聞記者だ。


「……くだらねえ…………ところで、ブン屋のおっさん。俺たちにインタヴューした事件の真相の記事はいつになったら新聞に載るんだ? ドラッケンの悪事を天下にさらす記事をよ……」


「それがですねえ……新聞社に上から圧力がかかりまして……記事はオクラ入りになっちまったんですよ……編集長も味方してくれたんですが、最後は保身のために裏切りやがって、あのヤロウ……」


「上って、政府か? 王室か? かぁ~~~~、マスコミが権力に屈しちゃおしまいだろうがよ……」


「さあて……たぶん、両方だと……でも、代りと言っちゃなんですけどね……これを見てくださいよ……」


 カールハウゼン記者はカバンから出した雑誌をテーブルに置いた。三流ゴシップ週刊誌のようだ。記者が開いたページには『吸血鬼と七人の花嫁』という題名の連載小説が毒々しく扇情的な挿絵とともに載っていた。


「へへへへ……架空の国の怪奇小説でしてね、知り合いのライターにネタを提供したものでさ……」


 それはドラッケン中将をモデルにした悪党を正義の吸血鬼始末人が退治するという内容だ。


「プラグセン王国は小国だけど、小国ならではの意地と戦い方がありまさあ……すでに大きな人形劇団やオペラでもこの話を使いたいという話が来てましてね……感づいている人には感づくんですよ……今回の真相が……それにギャリオッツ帝国にはクレッチマー准男爵の醜聞という例がござんすからねえ……ふひひひひひ……」


「ペンは剣より強しか……へへへへへ……やるねえ……カールハウゼンのおっちゃん!」


 タートル・ピッグとチャック・カールハウゼン記者がハイタッチをした。


「そういや、あの二人も人形劇がうまかったな……」


 グリフェがコーヒーをすすりながら新聞を広げる。新聞記事には他に、誘拐されたアンドレア・ユルコヴァー侯爵令嬢を当家の執事であるミラン・ヨハークが救いだし、国王から爵位を授かる式典の模様が描かれていた。白黒写真に影の薄いミランの白黒写真がデカデカと掲載されていた。


 なお、当初誘拐犯人とされていた。モンスター・スレイヤーとして著名なグリフェ・ガルツァバルデス氏と助手のタートル・ピッグだが、その後の捜査で偽者だと判明――


「はぁ~~、偽者で通す気か、プラグセン警察はよ……」


「ぷぷぷぷ……まあ、無理があるけど、落としどころはそんなもんでしょ。お蔭でオレっち達も無罪放免だい。それに、なんといっても庶民のミラン執事が、騎士のミラン・ヨハーク卿になったんだ。めでてえじゃないの……」


「そうだな……アンドレアの母の実家・ベドナーシュ商会の兄は経済的功績からナイト爵を授かっているしな……もうミランが身分違いを気にする必要はないうだろうなあ……」


「ミラン君とアンドレアちゃんは幸せになって欲しいなあ……あんな事があったんだぜ、オレっちは断然応援しちゃうね……こうなったら、変身術を駆使して二人をくっつけてやろうかな……」


「おい、お節介はやめとけ、タートル……そいつは当人たちの問題だ……」


「なんだよ、冷たいなあ、グリフェは……」


 タートルが仏頂面で相棒を見ると、新聞記事を見ながら口の端をあげていた。ニヤリとするタートル・ピッグ。


 ――自棄やけになっていた昔と違って、いい顔してるじゃねえかよ……グリフェ。


 ちなにみ二人はモンスタースレイヤーギルド〈EGG〉にすでに復職していた。誘拐犯は偽物だったのだ、なんの問題もない。


「ところでブン屋のおっさん……早く社に帰ったほうがいいぜ……」

「えっ、なんでです?」


「荒事に巻き込まれたいか?」

「ひえええっ……くわばらくわばら……まさかそんな……勘定は払っときますんで、ハイチャラバ~~イ!」


 慌てて消え去る記者を尻目に、グリフェの目が急に真剣になった。うなじがチリチリする感覚――殺気を感じたのだ。二人は店を出て、人気のない路地へと進んでいった。


 突如、背後から空間を歪ませるリングがいくつも連なって二人に押し寄せる。二人が左右に飛び退くと、衝撃波が路地に積まれた木箱や木片を飛散させた。超音波振動波である。


「殺人音波か……たしか、ドラッケンの手下にいたな……」


 グリフェとタートルが振り返ると、カエルが立ち上がったような容姿の男がいた。ドラッケン伯爵家の従者頭ゲッコである。その両隣に修道士の黒い外套をまとい、フードで顔の見えない男が合計六名いた。全員、目が血走り殺気に包まれている。


「やっとこさ、見つけただぞ……グリフェとタートル……おらと家臣団の有志が、伯爵さまの仇討ちをするだ!」


 フード外套の男たちが手に手に、片刃剣、短槍、クロスボーガン、火薬長銃、機関銃などをかまえた。


「仇討ちとは殊勝な奴らだな……だが、全員返り討ちだ!」

 グリフェがロングコートの懐から右手を出すと、彼の代名詞である〈六賊爪〉がすで装着されていた……



                 END


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