恐怖カエル男
「アンドレアか?」
「いえ、違います……この要塞に雇われている女中のようですが……」
黒い服の女はアボイル子爵の侍女ノエミであった。
「だ、誰か……アボイル子爵さまが……ひいいいいいいいいいいいい!」
「落ち着け、アボイル子爵がどうしたんだ!」
グリフェ達の方へ駆けてきた侍女ノエミはホッとしたように立ち止まる。
「こ……こ……殺されてしまいましたあ~~~~~!」
「誰に殺された!?」
「ど……ドラッケン伯爵さまですぅぅ~~~~あっという間に灰のかたまりにされて……ひいいいいいいいいいい!!」
空中庭園の出口の影に控えていた彼女は、主人であるアボイル子爵がドラッケン子爵に殺害されるのを目撃。慌てて逃れてきたのだ。
「くそ……伯爵も来ていたか……人間を灰の塊にするとは、厄介な能力だな……早く、アンドレアを見つけ出さないと……」
「あ……アンドレア様も……」
「アンドレア様がいたのですか!」
ミランが侍女ノエミの両肩を持って揺さぶる。
「はい……わたくしが子爵様の伝言をはこんで、空中庭園にお連れしたのです……」
侍女ノエミはアボイル子爵がドラッケン中将に内通して、アンドレアを罠にはめたことを告白した。
「うぅぅぅぅ……子爵がそんな卑劣漢だったなんて……私はなんて人に助けを求めたんだ……」
「しょげるなって、ミラン君。まだ間に追うかもよ……ほら……」
一行はノエミが来た方角の庭園に向かったが誰もいなかった。
「一足違いか……くそっ……」
「グリフェ、あそこに誰かが……」
空中庭園の繁みの向こう側に二人の男女がいた。蛙のような体型の男が青いドレスの女を両手に抱えて向こう側の廊下に進んでいた。
「アンドレア様!」
ドレスの女はアンドレアで、蛙男はドラッケンの従者頭ゲッコであった。
「待ちやがれ!」
「おめえが旦那様の邪魔をするスレイヤーか……許せんだで……ケロケロケロケロ……」
ゲッコがアンドラを傍らに置き、頬と咽喉を膨らませ、小声で妙な呪文を唱え始めた。かっと口を開くと、周囲が陽炎のように揺らいだ。
「ヤバイぞ、魔力者だ……皆、ふせろっ!」
「ウォ~~~~~~~~~ウ!!!」
三人が伏せると同時に、グリフェの上半身があった空間に歪んだリングがいくつも連なって襲い、泰山木の幹を貫き、丸い穴を穿ち、ミシミシと音を立てて倒れた。三人は繁みに隠れる。
「ひょええええ……殺人音波か?」
「……超音波振動砲みてえだな……」
またゲッコが頬を膨らませ、呪文を唱え出した。繁みが揺れて何かが飛び出す。ゲッコがそれに超音波振動砲を撃つ。が、それはタートルが木の枝と上着で作ったダミー人形だった。
その隙にグリフェがロングコートから三つの丸石をロープで三つ又に結んだ〈ボーラ〉を出して、頭上にかかげて回転し、遠心力をつけて投擲。ゲッコは足を絡められ、たたらを踏む。そこを飛び出したグリフェが首筋に手刀を叩きこんで昏倒させる。倒れる従者頭からアンドレアを救い出す。
「アンドレア様!」
そこへミランがかけつけ、グリフェから受け取った。
「おお……ミラン、怖かった……お主のお守りが役に立ったぞ……」
「よかった……よかった……アンドレア様……」
グリフェたちはロドニーン要塞総督のパワーズフッド男爵が住む兵舎……東側の小城へ進むことにした。
「やばいぜ、グリフェ。吸血鬼たちが追って来たぞ!」
空中庭園を出て、東側の渡り廊下を折れ曲がったとたん、反対側からノロノロ動く吸血兵士たちの群れが見えた。




