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青騎士

 こちらはもう一人の化合人間であるタートル・ピッグが就寝している部屋。こちらには青い甲冑騎士スヴェトラ・シェラーが侵入していた。


「タートル・ピッグ……三枚目だが、ころころと良く肥えて、新鮮な血が詰まっていそうだったな……多めに血をすすっても良かろうて……」


 月光に艶光る黒髪を長く垂らし、茶瞳から意思の強さが見える青甲冑の吸血女騎士スヴェトラは舌舐めずりして、双眸を赤く輝かせて高イビキをするタートルの掛布団をはぎとった。


「ややっ!!!」


 そこにはタートル・ピッグの小太りの体躯はなく、別人が目を閉じて眠っていた。黒いロングヘアに鼻梁の整った顔立ち、均整のとれた肉体――スヴェトラ・シェラー自身がそこに眠っていた。


 中域を問わず、ラドラシア大陸には自分そっくりな存在の亡霊――ドッペルゲンガーの話がある。女騎士スヴェトラの死期を告げにきた分身霊が出現したのであろうか?


「ええいっ、私の偽者め……目を覚ませ!」


「あ~~ら、ゴールデンタイムにしっかり寝ないと、お肌の艶がわるくなるわよ、スヴェトラさん……」


 もう一人のスヴェトラが双眸を開けてニヤリと笑う。頭に血がのぼった女騎士は騎乗槍で偽物の自分を突き刺す。だが、偽のスヴェトラは華麗に飛び退き、床に着地する。だが、ドレッサーの角に左足の小指をぶつけてしまった。


「あいたぁぁぁぁ~~~~!!」


 涙目になった偽スヴェトラの全身にさざなみが走り、小太りの辻音楽師に変形した。


「おのれ、化合人間……このスヴェトラ様を愚弄しおって……」

「ちぇっ、格好よくきめたと思ったらこれだもんなあ……オレっちって、しまらねえなあ……」

「ええいっ、このれ者め!」

「ひええええっ!!」


 スヴェトラは人間の騎士時代も騎乗槍を自在にあつかいこなす槍使いであった。それが、吸血鬼化してさらにスピードアップ。穂先の猛攻ラッシュがタートルを襲う。だが、タートルは体を凹ませ、細長く変形して凶刃から逃れる。


「ちょこまかと……」

「このままじゃ串刺しだあ……いかが致しますか、上官殿……しかたがない、戦略的撤退をするぞ、二等兵……イエッサーであります!」


 こんな状況なのに、一人芝居でおどけたタートルがミミズクに変身して、窓ガラスを突き破り、月が見える夜空へ逃れていく――

スヴェトラがバルコニーに出て目で追うと、飛んでいくミミズクの下方から大きな鳥影が見え、急接近した。ミミズクを捕食する怪鳥であろうか? 


 だが、大きな鳥は翼の生えた人間だった。グリフェ。ガルツァバルデスが化合人間の力で鷲の翼を広げた姿だったのだ。しかし、心なしかヨタヨタ飛んでいる。


「おおっ……グリフェか、酒くせええなあ……しかし、最後の最後でしてやられたなあ……」

「まったく大失敗だ……とにかく、アンドレアとミランを探して助けねえと……ううぅぅぅ……」

「なんだ、この寒空に飛んで、まだ酔いが醒めねえのか……」

「それをいうな……まず、アンドレアの部屋へ……」


 ミミズクと鳥人は屋根越しに反対側の部屋へ回り、アンドレアの部屋のバルコニーへ。窓ガラスを割って突入するが、誰もいなかった……


「いねえ……あの姫さん、何処へ行った?」

「隣のミラン君の部屋へ行ってみようぜ!」


 バルコニーから再びミランの部屋に入り、少年執事を叩き起こす。


「わわわわっ……なんですか、一体……」

「アンドレアは何処か知らねえか?」

「ええぇっ!! 部屋にいないのですか……」

「それと、コーヒーねえか?」

「でしたら、ポットに冷めたのが……温めましょうか?」

「いや、いい……」


 グリフェがポットに直に口をつけて冷めたコーヒーをグビグビと飲んだ。


「あああ……そんなに一度に呑んでは体に悪いですよぉぉぉ!」

「げぷっ! ……緊急事態だ!」


 その時、出入り口付近で轟音があがった。樫の木でできた扉が斧で破壊されていく。ヴァンピール騎士たちの仕業だ……


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