狂熱の果て
「おのれ……魔女め……だが、このままでは終わらんぞぉぉ……」
「さっさとくばっちまいな! ひゃあ~~~はっはっはっ」
魔女エギヨンがトドメの爆雷魔法弾の呪文を唱え、魔力球を両手間に創り出す。
「そうはいくか!」
「ぎょええええええっ!」
魔女の額に山刀が突き刺さっていた。イグナーツがニヤリと笑い、その瞬間、全身が凍りついていく。魔女が床に激突し、爆雷魔法が不発となったが、床板が燃えだした……
一方、グリフェは連射式弩銃の矢が尽きてしまった。腰の拳銃を出して、人狼に狙いを定めるが、素早くジグザグに動いて定まらない。
「きやがったな!」
人狼がグリフェに噛みついてきたとき、その頭部を狙って銀の弾丸を銃撃した。が、人狼は俊敏に躱しのけた。月光の力で最大限のパワーを持つ〈魔狼〉に不可能はないのだ。
「チキショウ……なんて化物だ……」
魔狼がグリフェに喰らいつこうとした。が、グリフェの碧眼が瞳は黒く、白目が黄色く変化。背中から鷲の翼が生え、両手に猛禽の鉤爪、両足が獅子の脚に変化していく。
「グリフォンの底力を見せてやる!」
半人半鷲獅子となったグリフェが狼男ガルニエと力押しの勝負を開始。が、血の満月の力を得た狼人のパワーが上回り、徐々に押されていく……そのとき、魔狼獣はこの世のものとは思えない絶叫をはなった。
さ
その背中から声がした。瀕死のダンフォース司祭である。〈聖銀の大剣〉が人狼の背後から心臓を串刺しにしていた。気がつけば、天窓からそそぐ月光が見えない。厚い雲が覆っていた……巨体が前のめりに倒れ、司祭も折り重なる。グリフェが人間の姿に戻り、司祭を抱きかかえた。
「変身術者であったか……グリフェ……ぐはあぁぁっ!」
「ダンフォース司祭!」
血塊を吐き出す聖職者には死相が見えていた。
「拙僧はもう……駄目だ……人狼に噛まれてしまった……満月の夜に狼人間に噛まれた者は同族となってしまうのだ……」
そういって、〈聖銀の大剣〉を自らの胸に突きつけた。グリフェが司祭の壮絶な自決を看取った。
「これを受けとってくれ……拙僧の代わりに…………」
血まみれの〈聖銀の大剣〉をグリフェに押し付けて、ダンフォース司祭は事切れた―偉大なモンスター・スレイヤーの最期であった。
「わかったよ……あんたの代わりに剣を使ってやるぜ……また、いつか会おうな……」
モンスター・スレイヤーは怪物魔獣と戦い続け、野垂れ死にするのが宿命なのだ――グリフェは帽子をとって、黙祷した。が、物音がして目を開く。人狼の巨躯が消えていた。目で探すと、痩せこけた男が傷口から血を吹きだしながら魔法陣へ進んでいく。
「悪魔……デモゴルゴン……恐るべき者よ……災いの神よ……無垢なる者を捧げる替りに……小生が生け贄になる……妻を……アポリーヌを甦らせてくれぇぇぇ!」
ガルニエ師が魔界の呪文を唱えると、魔法陣に紫の炎が湧きだし、古代呪文が光りだした。円陣の中心部の床が歪み、異空間が顕現する。そして、周囲に吐き気を催す悪臭がたちこめ、青白く半透明な細長い触手が湧きだし、その中心から名状しがたい色彩を持つ巨大な腕が出てきた。
「まさか……本物の悪魔か……」
グリフェが呆然自失と見ていたが、巨大な悪魔の腕は半死のガルニエを掴むと、再び地の底に消えていった。汚れた生け贄では満足できなかったようだ……思えばガルニエの異常な愛情と妄執が引き起こした狂的な事件だった。
気づけば、辺りは炎に包まれていた。魔女の不発魔力弾のせいである。グリフェは半身が凍りついたイグナーツを見つけて駆け寄る。
「儂はもう……駄目だ……おいてけ……」
「そうはいくかい!」
グルニエの館全体に炎が回り、倒壊していく。氷漬けのアポリーヌも炎に呑みこまれていった。……その中を鷲の翼を持つ人間が両手に大柄な老人を抱えて空中を飛び出してきた。
「凄いのお……お主……魔力者だったのか?」
「まあ……そんなモンよ!」




