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眼下の敵

「こんな所でも俺の名前が知られているとはなあ……さて、お前等はギャリオッツの使者か? 賞金稼ぎか? それとも、アンドレア目当ての変態か?」


 グリフェは馬車の屋根に飛び降りた。付け髭をとり、元の姿に戻っている。


「ほほほほほ……そんな事はどうでもいいことだよ。レザーチェ、相手をしておやり!」


 グリフェが屋根から飛び退く。その瞬間、屋根から刀剣の刃が突き出ていた。回避が遅ければ串刺しである。

 馬車の扉から青衣の怪人眠り男がグレイブを手に出てきた。グレイブとは長柄の先に刀剣の刃をつけた武器である。扶桑国の薙刀にも似ている。すでに馬車のキャビンの椅子にアンドレアを寝かせてあった。レザーチェの凄まじい闘気がプレッシャーとなって押し寄せる。グリフェは後じさりそうになったが、己を奮い立たせ、精神力を集中させて堪えた。武闘士アレクセイ・バルターク以上の剣気かもしれない。負けじと自分も闘気を高めていく。


「グレイブ使いか……少しは使えそうだな寝ぼけまなこ!」


 眠り男レザーチェが正面からグリフェを見つめる。グリフェは青い水底に引きずりこまれそうになり、気を集中して視線を相手の胸部をみて、魔力を避ける。


「ほう……我の瞳術に気がついたか……」

「俺はほかの奴らみたいにはいかんぜ」


 グリフェの右手がロングコートに消え、光流が月光に煌めき筋をひいた。短剣ダガーを連続して五本投擲。レザーチェは長柄を回転させて弾く。その隙にグリフェは眠り男につめていた。いつの間にか両手に胡蝶双剣を構えていて、右手の胡蝶剣がレザーチェの右手に斬りこんだ。


 しかし、レザーチェはグレイブの石突で刃を受け流す。そして、両手を持ちかえてグレイブを回転させ、グリフェの胴を両断せんと剣尖を回転。だが、逆手にもった胡蝶剣が盾となり受け流した。双方、一斉に飛び退いて間合いを取る。


「くそぉぉ……おそろしく腕が立ちやがる……」


 その間にカリガルチュアは馬に鞭を与えて、馬車を走らせた。

「ほほほ……侯爵令嬢はいただきだよ……」


 夜のゼニュフラットの市街地を馬車が駆け抜けていく。だが、その後にシロフクロウが追いかけて飛んでいく。ふくろうは翼のふちが、細かく裂けているので羽音が小さく、獲物に気がつかれず接近できる事が可能なのだ。もちろん、タートル・ピッグの変身した姿だ。


――催眠術師カリガルチュアと眠り男レザーチェか……一体、何者なんだ?


 もう一人、そのシロフクロウを追いかける男がいた。


 カリガルチュアの馬車はゼニュフラットの大通りの突き当たり、昼間にカーニバルが開催されていた広場へ向かう。三角テントの見世物小屋の裏口から、馬車ごと入っていった。そこには木箱が積み上げられ、機材や暗幕、工具類が散乱した舞台裏であった。


「さすがは最近売り出し中の賞金稼ぎ・カリガルチュアとレザーチェよな……」

「なんだい、ボジェクかい……」


 突然、木箱の上から声がかかった。リンゴにナイフを刺して、シャクシャクとかじっている小男がいた。出っ歯で小狡そうな表情――ミアーチェ暗黒街の情報屋ボジェクだ。腹部や腕に包帯をまき、あちこちに絆創膏を貼っている。


 グリフェに馬車から叩き落され、用水路を流されたが、生きていた。魔法治療師に大枚をはたいて怪我を治し、独自の情報網からグリフェたちの行方を探り当て、その近辺にいた凄腕の賞金稼ぎを見つけだし、交渉したのである。


「ほほう……さっそく、懸賞金額2億ゼインのアンドレア・ユルコヴァーを奪取したか……さすがだねえ……」

「ほほほほほほ……あたしとレザーチェにかかれば、ざっとこんなものさ」

「ところで、グリフェはどうした? もう、仕留めたのか?」

 ボジェクが悪意のこもった粘っこい視線をマダム・カリガルチュアに送った。


「今、レザーチェと交戦中さ。うまくいけば生きたまま捕えることができるさね……それが無理なら死体となるがね。生きていても、死んでいても7千万ゼインなんだろ?」

「そうだ……死体ならば上々だ。生きて捕えたら、俺がトドメをさしてやるさ……ひひひひひ……」


 ボジェクは陰険な笑い方をして、ナイフを舌で舐めまわす。

「それにしても、破格の懸賞金額だねえ……まあ、あたしらは路銀稼ぎにはこのお嬢さんの2億ゼインでも十分すぎるほどだけどね……」

「いいや、グリフェの野郎も捕縛か仕留めて貰わないと困る。それが、条件でこの情報をお前さん方に売ったんだ!」


 マダム・カリガルチュアは両手をあげて肩をすくめた。ボジェクの私怨の理由など聞きたくなかった、どうせロクでもない逆恨みだろう、と。

 見世物小屋の支柱から伸びるはりの上にシロフクロウがとまっていた。


 ――やれやれ、あの情報屋ボジェクが糸を引いていたのかあ……しつこい奴だなあ……


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