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変身能力者

「くええええええええっ!」


 ダモリア川右方から夜霧にまぎれて黒い鳥影が見える。夜鳥や蝙蝠ではない。全長2メートル以上もある怪鳥のシルエットだ。飛翔生物は速度をゆるめ、滑空する。

 吸血鳥ブルーカの仲間なのだろうか?

 怪鳥は逆さ状態のグリフェの足をガッキッと補足した。その鳥は小さな頭部に長い首、恐竜のようにガッシリとしたあし、胴体には黒い羽毛が生えているが、驚くほど羽根が小さい。これでよく空を飛ぶ揚力があるなと感心させられる。


「よおっ、グリフェ! お待たせぇ~~」

「なっ…………」

グリフェが呆れた様子で見回す。


莫迦ばか野郎! 駝鳥だちょうが空を飛ぶか!」


 怪鳥とは、駝鳥であった。駝鳥とは――ラドラシア大陸南域の大海洋を越え、さらに赤道を越えた暗黒大陸の砂漠やサバンナに生息するという珍鳥だ。


「えっ? そうなの? 知らなんだ……」

「タートル、なんでよりによって駝鳥なんぞに化けた?」

「いやぁぁ……昨日、ミアーチェ動物園で見かけて、おもしろ珍しいなあ……と、思ったからさぁ……」

「よく、そんな小さな翼で飛べるもんだ……まあ、いいか……」


 そうこう言っているうちに、空飛ぶ駝鳥はダモリア川岸に到着。グリフェは空中を一回転して堤防の石畳に着地。駝鳥も遅れて地面に羽根を下ろす。

 駝鳥の肉体にさざなみが走り、ブヨブヨと輪郭が崩れていく。そして子供が粘土をこねるようにグニャグニャと不定形の塊となっていたが、人間の姿に変わっていった。その人間は小太りの二十代半ばの年齢の男だった。糸のように目が細く、丸い顔だ。縞のシャツとチョッキ、ズボンを身に着け、カンカン帽子を被っている。このタートル・ピッグという男は〈変身能力者〉なのであった。そして、グリフェの助手兼マネージャー兼交渉役兼相棒なのだ。


 そして、彼は太鼓腹に手を突っ込んで楽器を取り出した。両手に手風琴てふうきん――アコーディオン・オルガンを持ち、蛇腹のふいごをのびちぢみさせて、右手で鍵盤を奏ではじめた。まるで辻音楽師だ。


〽旅人の生き血をすするブルーカは

 プラグセン橋でも血を啜る~~

 かくて哀れな犠牲者は ダモレス川の藻屑と消え――


 だけど我らが怪物討伐人スレイヤー

 プラグセン橋で大活劇~~

 かくて恐ろしいブルーカは ダモレス川の藻屑と消え――


「おいっ! 夜中に下手な歌をうたうなタートル……」

「なんだよ、命の恩人に対してその口のきき方は……オレっちがいなきゃ、今頃、川面でペシャンコのノシイカだったくせに……」

「莫迦野郎、俺だけでも何とかしていたわい……」

「まあまあ……さっそく、〈EGG〉に任務成功と報告しとかなきゃ……それに警察にも、な」

「それはお前がやっといていくれ、俺は一杯やってから、宿屋で眠るぞ……」

「オーキードーキー(オッケー)! あとで俺も付き合うぜ」


 その後、夜霧のただようプラグセン橋には警察車両が集まり、クレーン車が怪鳥の死骸を引き上げた。作業員が岸辺に流れ着いた赤と黒のチェック柄スーツの男を拾いあげたが、手配中の詐欺師フランツ・グレンと判明し、留置場に直行した。

 明日には新聞や大衆紙でこの連続殺人事件の真犯人(鳥?)が報道されるだろう。グリフェ氏の余裕を持った怪物退治の模様が。


 しかし、翌日、グリフェにまさか、死の危険を直面させる大事件が起こることになろうとは……まだ、誰も知らない。いや、運命の神のみぞ知るところだ……


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