死を告げる予言
一行は食堂ホールで他の宿泊客と夕食をとる。一階の食堂は宿泊客以外の村人も利用していた。
ブランボラーク(じゃがいものお好み焼き)、ビーフシチュー、スマジェニツェ(玉葱とキノコを炒め、卵をおとしたもの)は湯気をたてて美味しそうだ。
「あらぁぁ、この特産品の地鶏のソテーは皮がパリパリ、肉汁の味付けもグッドだわねえ~~」
「確かに美味しいですねえ……」
みんな同意見だった。デザートにアップルシュトゥルーデルを注文した。これは薄力粉や強力粉の生地のなかに甘く煮たリンゴを入れた焼き菓子で、プラグセンを代表するチョコスイーツだ。
「あらまあ、なんて美味しいのかしら♪ やっぱり、チョコスイーツはプラグセンに限るわね!」
「そうであろう、そうであろう……」
タートルの褒め言葉に、何故かアンドレアは得意気だ。ミランが微笑ましくみている。
「俺は甘い菓子より、プラグセンの麦酒で晩酌をしたいところだが……」
「あら、駄目よ、あ~~た、今は護衛中なんだから、ロドニーンについてからになさいね!」
「わかってるって……俺もプロのスレイヤーだ。酒に酔って力が出ないなんて笑い話にもならねえ……目的地についたら、十日分飲みまくってやる」
ミランとアンドレアは互いに顔をあわせ、二人の護衛に振り向いた。
「そうですね……目的についたら、慰労をかねて、パーティをしましょう」
「そうじゃのう……それが良い……」
「あら、素敵! 私もプラグセンの麦酒の大ファンですからねえ……」
「俺も、な……」
大陸でも美味い麦酒を造る国といえば、中域のプラグセン王国、ベルデンリンク帝国、ブロクセラ王国、テルダアーム連合王国、西域のロドニア連立王国などが有名だ。
突然、扉が開く音がし、食堂に血相を変えた作業服の男が入ってきた。そして、入口近辺のテーブルについている男達の前に立つ。彼らは村の自警団らしかった。仕事明けで麦酒を飲んでいる。
「どうしたヨゼフ、そんな慌ててよ……」
「大変だっ! 鍛冶屋の息子のブルートが死んだぞ!」
「なんだって!?」
「どうしてまた……」
作業服の男の話によれば、女友達をめぐって、元恋人である馬具商のガロアとピストルで決闘をした。ガロアは一命を取り留めたが、ブルートは肺を撃たれたあと、狂ったように夜中の森を駆けて行き、崖から転落死したという―――
彼らは急いでカウンターで支払いを済ませ、山の方角へ去っていく。
「確か亡くなった者の名は……ブルートといいましたね……もしかして、見世物小屋で騒ぎをおこした、あの……」
「ブルートなんて名前あまりないから、その確率は高いかもしれません……」
蒼白な顔になるアンドレアとミランに、老婦人に化けたタートルが空気を代えようと声をかける。
「……でも、私達には関係ないわよ、アンドレア……世界では一日に三百人も亡くなっているんですから……たまたまですわよ……」
「そうですね……たまたまですわね…………」
「部屋に戻りましょう……アンドレア様……」
一行は二階に借りた部屋へ去った。アンドレアの個室の右にミラン、左にタートル、正面にグリフェが部屋をとっている。無論、ギャリオッツの追手や賞金稼ぎを警戒してのことだ。
アンドレアの部屋のドレッサーの前に、寝間着姿の彼女が座り、ミランがアッシュブロンドの髪を櫛でといていた。
「……私の髪は少し青みがかっているけど、あの見世物小屋の眠り男はコバルトのような真っ青な色をしていたわねえ……」
「やめましょう……その話は……私たちには関係のない事ですから……」
以前、ドラッケンの要求を拒んだアンドレアは飾り紐で自殺を考えたことがある。忘れていた心の鬱屈が澱のように心にたまっていく。気丈で高慢な侯爵令嬢は、思春期前の暗く気弱な少女へと戻っていった……傷つきやすい感受性の持ち主に……
「そうだ! 人形劇をしましょう!」
「……人形劇?」




