表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/87

眠り男レザーチェ

「なんとも、美しい殿方が存在したものよのう……」

「アンドレア様ほどではないですが、確かに美しい人ですね……だけど、青い髪の人間なんて、初めてみました。染めているのでしょうか?」

「まるで、民話に登場する青髪鬼せいはつきみたいじゃのう……」

 アンドレアとミランも頬を上気させて、箱の中の妖美なる怪人に魅惑されていた。


「確かに、この世のものとは思えないわねえ……百年もキャビネットの中で眠りつづけたっていうけど、本当かしら? ねえ、あ~~た……」

「んなわきゃねえだろ、どう見ても二十代そこらの兄ちゃんだ。見世物なんぞ、インチキに決まっている……俺は昼寝するから、終わったら起こしてくれ……」

 肩をすくめるタートルを余所にショーは進行していく。


「さあさあ、未来を占って欲しいお客さんはいるかい?」

 見物客の村娘や大人の女性たちが手をあげる。マダム・カリガルチュアは五名ほど選んで舞台にあげた。


「さあ、私の催眠術は超強力だよ……百年の眠りから、目覚めよ……レザーチェ……」


 カリガルチュア婦人が両手をかざして、眠り男を凝視し、古代呪文を詠唱する。やがて、青髪青衣の怪人のピタリと閉ざされたまぶたが徐々にあがっていく。半眼の状態で止まった。上弦の月のようなサファイヤブルーの瞳は、あの世とこの世の境の夢を見ているようだ。そして、なんとも厭世的な表情である。


「さあ、お嬢さん……占って欲しい事をレザーチェにいいいなさいな」

 白いブラウスに群青色のロングワンピースを着た娘が頰をリンゴのように上気させて、恋人の農夫は何時頃、プロポーズをしてくれるか尋ねた。


「あなたの恋人は……秋の……万節祭で告白するだろう……」

「……そうなの? ありがとう、レザーチェさん……」

 まるで、彼岸の国から呼びかけるような、それでいて美しい男の声が予言を口にした。村娘は長い息を吐いて、舞台を降りた。


 次に、濃緑色のチェニックに黄色いスカートをはいたソバカス娘が顔を強張らせて、箱の中の青い怪人レザーチェに、みやこへ出稼ぎにいって行方不明の父は、いつごろ帰ってくるか尋ねた。

「あなたの父上は……一年後に帰ってくる……」

「……それは本当に?」

「来年の……カタバミの咲く季節に……戻ってくる……」


 ソバカス娘は安堵したように、座席へ戻っていった。他にも娘たちの恋の悩みや、家庭の問題に関する占いを聞いて、予言していく。そのなかには、さきほど野次を飛ばした大柄な若者の取り巻きの娘もいた。


 後ろの座席から不機嫌な形相の大柄な青年ブルートがノシノシと舞台に登ってきた。

「おいおい……ヘレナもリンダも色男にメロメロになりやがって……どうせ、インチキに決まってらあな……」

「やあね……ブルートったら、妬いているの?」

「そんなんじぇねえよっ! おい、仮面のババアと薄気味悪い青男! 適当なこと抜かして、村娘たちをたぶらかしてんじゃねえぞっ!」

 乱暴なブルートの剣幕に小屋内が騒然とする。だが、マダム・カリガルチュアは悠然としている。 


「おやおや……眠り男の予言は絶対さ……嘘か真実まことか、あんたの未来を占ってやろうじゃないか……只でね」

「只だとぉ? ……よぉ~~し、それじゃあ、俺様の未来を占ってもらおうじゃねえか。俺様は、今はこんなド田舎でくすぶっているが、いずれみやこに出てビッグになる男だ。なんせ、村一番の拳闘チャンピオンだからな……俺様の薔薇色の未来を占いやがれ!」


 得意気にシャドーボクシングを始めるブルート。自慢するだけあって、腰が入ったパンチだ。

 青髪青衣の怪人がブルートを半眼の双眸でじっと、見つめた。


「お前の未来は……」

 大柄な若者は唾をゴクリと飲む。


「……虚無だ」


「キョムぅ~~?」

「つまり、無い。お前は明日までに命を亡くすだろう……今のうちに家族にあって、心残りな事を伝えておくがよい……」


 周囲で取り巻きの娘や観客たちに動揺の波がひろがり、ざわざわと声がする。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ