表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/87

雨の逃避行

 バルターク一門の加勢でグリフェ達の幌馬車は水たまりに飛沫をあげて、旧市街の南の出口へ突き進む。御者台で手綱をひくタートルの様子がおかしい、ふらふらしている。


「どうした、タートル。疲れたか? 御者役を変わろう……」

「ああ……あんがと、グリフェ……どうやら、〈安息日〉が早まったようだ……」

 幌馬車の前入口からタートルとグリフェが入れ替わる。


「大丈夫ですか、タートル殿……」

 ミランは主人の手当で包帯がまかれ、絆創膏と湿布がはられている。モヒカン男に殴られた頬が、内出血で腫れていた。


「妾が診てしんぜよう……」

 心配顔のミランとアンドレア。だが、タートルはそれを断り、奥にある空のワインたるに潜りこんだ。すると、肉体がドロリと液状化して、樽のなかに収まっていく。


「なんと!」

「タートル殿が溶けてしまった……」


 驚くアンドレアとミラン主従に、御者台のグリフェはチラと振り向く。


「心配するな、タートルは月に一度、こうなってしまうんだ……今回は変身能力を使いすぎてしまったからな……なに、丸一日たてば、元気になって元の姿にもどる」

「それは一体……魔力者とは、こういうものなのですか?」

「いや、タートルも俺も魔力者ではない……化合人間だ」


 17歳の少年少女に驚きが走る。


「化合人間……では、8年前に無くなったクロウカシス王国のキマイラ部隊……だったのですね……」

「妾も聞いたことがある。動物の遺伝子を組み込んだ改造人間の超兵士のことを……」

 ミランとアンドレアは驚愕の目をグリフェに向ける。グリフェは視線が痛かった――そして、その背中はなんとなく、寂しげにみえた。


「そうだ……俺たちは、改造人間兵士……気味が悪いかい?」

「いえ……そんな……話には聞いていましたが、本物にお会いするのは初めてで、驚いています……気味が悪いなんて、そんな……」

 ミランは横目で不安気に女主人を見た。


「……妾も驚いただけじゃ……そして、命の恩人に対してそんな無礼な真似をするほど恩知らずではない……」

 少年執事が温かい目で、侯爵令嬢を見上げる。それでこそ、アンドレア様だ、と。


「そうか……ふふふふふ……ところで、ミラン。ひとつ頼みがあるんだが……」

「なんでしょう? 何でも言ってください……」



 その頃、幌馬車のキャンバスの上に、小柄なさるのような人影が張り付いていた。

「ひひひひひ……グリフェとタートルはクロウカシス王国の化合人間部隊の残党だったのか……この情報は高く売れそうだ……」

「そいつは困るな……」


 小柄な人影が目を見開いて声のした方角を見上げた。黒褐色のロングコートに、銀髪をなびかせた碧眼のふてぶてしい顔。


「てめえはグリフェ……いつの間に……」

「見た顔だな……そうだ、片眼鏡大佐と一緒にいた情報屋で、さっきも賞金稼ぎに屋根上から俺たちの位置を教えていたな……」

「こ……これは、グリフェの旦那ぁぁぁ! あっしはボジェクという、しがない情報屋です。決して、今の事は他言しません……どうか命ばかりはお助けを……」

 ボジェクが幌の上で這いつくばって命乞いをする。


「おいおい……そうこられるとなあ……」

 グリフェが応対に困った様子だ。だが、ボジェクはこれを狙っていた。


「ひひひひひ……死にさらせ! 俺様が5千万ゼインいただきだ!」


 ボジェクの上腕の手甲から刃長30センチの隠し鉤爪が発条仕掛けではね上がり、グリフェの心臓めがけて飛猿のごとく跳躍をみせた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ