武闘士軍団
「貴様がグリフェか……儂はアレクセイ・バルタークという……」
尋常ならざる武闘士の佇まいをみて、グリフェは〈厄介な相手〉だと直感。こういう場合、一番強いリーダー格から倒すのが定石である。歯をむき出して威嚇する。
「けっ、アレクセイだか、シャラクセイだか知らねえが、かかってきやがれ!」
武闘士道場師範と弟子たち八名は並んでグリフェにむかって歩み寄る。一斉にくる気か?
グリフェはロングコートから、胡蝶双刀を取り出し、両手で構える。東域中原国の南方に伝わる剣で、順手から素早く逆手に持ちかえ、刃部分を前腕につけて相手の攻撃を受け流す事も出来る。幅広の刃を蝶の翅に見立て、その名がある。
が、アレクセイと弟子の武闘士たちはグリフェを無視して前進していく。拍子が抜けたグリフェが振り返る。
「おいおい……俺の首を取りにきたんじゃねえのかよ? 俺は凶悪な誘拐犯人だぜ?」
「儂にはテオドルという次男坊がいた――」
「テオドル? ……どこかで聞いた名前だ」
グリフェの記憶にひっかかった。必死に思い出す。
「――そうだ! 怪鳥ブルーカの最初の犠牲者だ……」
グリフェが冒頭の話で、プラグセン橋での死闘で倒した吸血怪鳥ブルーカ。花売り娘ニーナに化けていた怪物は、詐欺師フランツ・グレンをひっかける前に三人の犠牲者がダモレス川下流で発見されている。その第一番目の犠牲者がテオドル・バルトークといった……
「テオドルは、道場の金を持ちだして賭場に通う、酒場の女に入れ込んで美人局にあう、喧嘩沙汰や金銭トラブルはしょっちゅうのドラ息子だった――家出同然に行方をくらませていたが、先月久しぶりに帰ってきた。今度こそ、心を入れ替える。生まれ変わるんだといってな……なんでもプラグセン橋近くの公園で出会った花売り娘と所帯をもつため、工事現場で仕事を始めたとかいって……なに、また長くは続かないだろうと思っていた……だが……だが……」
感情が高ぶり、声が震えるアレクセイに代わって、長男で師範代のエドムントが引き継ぐ。
「弟・テオドルは帰ってこなかった……のちにダモレス川下流で、水死体となって見つかったときは信じられなかった……不幸な事故だと諦めるしかなかった……だが、死体は血を吸われていたと知って、愕然とした……まさか、怪物ブルーカの餌食になっていたとはな……グリフェ・ガルツァバルデス……父に代わって、礼をいう……そして、俺からも礼を言いたい……」
グリフェは雨の雫が垂れる鍔広帽子のひさしを人差し指で下げた。
「……なに、礼をいわれる筋合いはないぜ。こっちは市議会に雇われて、きっちり仕事をしたまでの事よ……」
「それでも、いい。これは儂たちからのせめての礼だ……」
そう言って、武闘士アレクセイ・バルタークは半月斧を賞金稼ぎたちに構えた。無法者たちはその凄まじい闘気に後じさりする。
「おいっ、アレクセイ! グリフェは侯爵令嬢誘拐犯だぞ、なんで俺たちに戦斧を向ける?」
「……儂もこれで、裏の情報にくわしくてな……誘拐事件はユルコヴァー侯爵家から出たものではなく、ギャリオッツ駐留軍のドラッケン中将の企みであったようだ……彼女を愛人として差し出させるためのな……貴様ら無法者も手を引け!」
「そうはいくか……グリフェの首に五千万ゼイン、タートルの首に三千万ゼイン、アンドレア救出に2億ゼインだ……大金をくれるなら、ギャリオッツだろうと、地獄の悪魔だろうと関係ねえぜ!」
他の無法者たちも賛同して、武器を構えなおす。大金に目のくらんだ悪党たちは、武闘士道場の猛者たちも踏み越えて行くつもりのようだ。
「このミアーチェの恥さらし共め……」
「父上、この上は悪党たちの大掃除をいたしましょうぞ。なあ、皆!」
バルターク道場の師範代、高弟たちも鬨の声を上げた。そして、得意の武器を構えて悪党の群れに飛び込んでいく。
「くそぉっ! 返り討ちにしてやる!」
賞金稼ぎたちも手勢の多さにかこつけて迎え撃つ。雨の中で大乱闘が始まった。
「さあ、グリフェ……早くいけ、アンドレア嬢を頼むぞ!」
「ミアーチェ市民にも悪党や傍観者ばかりでないことを見せつけてやる!」
武闘士たちの心意気に、グリフェもタートルも、そしてミランもアンドレアも嬉しく思った。
「アンドレア様……我々の味方はここにもいましたよ……」
「……ええ……ええ…………」
幌馬車の中でアンドレアは、ミランの手当をしながら、嬉し涙を流した。
引っ越しの用意で、いるもの・いるないものを分別中です。普段はなかなか捨てられない性格なのですが、引っ越しで重い荷物をあまり持ちたくないとなると、割と捨てることができます。
こういう機会がないと荷物が減らない……3月末に借りてた部屋を出て、春から新しい仕事を始める予定。




