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モンスター・スレイヤー登場

 彼はコートをひるがえして、右手の回転式拳銃の引き金を引いた。銃声がして、巨大怪鳥の左胸心臓部に銃口が開く。青い血飛沫が詐欺師の顔にはりつく。


「ひぃぃぃぃぃぃ~~~~~!」


 石畳にへたり込むフランツをよそに、銀髪男は連続して拳銃の撃鉄を起こし、弾倉が回転し、銃弾が発射されていく。合計5発の銃弾が怪物ブルーカの心臓部周辺に命中した。女面魔鳥は顔をゆがめて、ヨタヨタと後退あとじさっていく。夜霧に硝煙がまじり、あたりが火薬臭くなる。


「ぎええええええええええええええええええっ!!」


ブルーカが断末魔の雄叫おたけびを上げ、石橋を揺らすほどの地響きをたてて倒れた。あたりに羽毛が散乱する。


「伝説の妖怪だろうと、これだけ喰らえば、お陀仏だろうよ……」

「命の恩人だぁぁ~~~~~~~」

「わわっ! 汚ねえ……よせっ!」

 フランツがロングコート男の足元にすがる。鼻水と涙でグシャグシャのひどい顔だ。

「是非、お名前を……」

 男はため息をつき、仕方ないかという表情をする。


「……俺の名前はグリフェってんだ……グリフェ・ガルツァバルデス……〈EGG〉に所属している。」

「〈EGG〉……すると、あの怪物討伐人ギルドのスレイヤー!」

 フランツが息を飲む。魔物怪物とって、人間は捕食対象でしかない。だが、〈EGG〉――通称〈エッグ〉の組織構成員は、例外的に怪物に対抗できうる実力をもった組織だ。構成員は、対怪物に訓練された者や能力者が所属する。そして、大陸を股にかける大規模なギルドであった。

――なんでも、国家に頼らず、光神教団や商会連合がスポンサーになっているという有名な組織だ。


 人喰い魔獣、魂を吸い取る幽鬼、村落に暴虐の限りをつくすゴブリン・コボルト・オーク・トロールの集団、砂漠に出没する悪霊騎士団、氷原を闊歩する雪巨人、海原の商船を襲う大海蛇――数々の魔物を退治した実績は新聞や週刊誌で報道されている。

 詐欺男は畏怖の表情でグリフェを見つめる。ロングコートをひるがえし、銀髪がなびく。そして不敵な面構えが頼もしい。


「!」

 その時、グリフェとフランツを黒い巨影が包み込んだ。旋風がおこり、風塵が巻き起こった。次の瞬間、二人は空中に浮かんだ。グリフェの胴体を巨大な鉤爪がつかんでいた。彼の足元にすがったフランツも芋蔓いもづるのように引っ張られる。巨大怪鳥ブルーカはまだ生きていたのだ! 大きな翼を羽ばたいて宙に飛びあがる


「しまったぁぁぁぁ!」

「ひぃえええええええええええっ!」

 二人は夜空にさらわれていく――だが、フランツは動転して銀髪男の足を掴んでいただけなので、途中で力尽きてダモリア川の水面に派手な水飛沫をあげて落下。だが、彼はまだ幸せな運命であろう。

 怪物鳥はグリフェをつかんだまま、上流をさかのぼり、飛んでいく。空中を二十メートル以上も浮かんで大凶鳥が飛翔していく。


 ブルーカめ……確かに心臓部に……鉛玉が命中したはず……」

 大空で強大な美女の顔が悪意に染まった嘲笑をして、グリフェに視線を向ける。

「ふほほほほほ……ただの鉛弾じゃ駄目よ……すぐに再生するからね……」

「なにぃぃぃぃぃぃ!?」


 再生能力を持つとは、かなり上位クラスの魔物だ。グリフェの目算が甘かったといわざるを得ない。

「憎い男……巣に連れ帰って、目玉をくり抜き、耳を切り取り、手足を一本ずつ引きちぎり、数日かけて八つ裂きにしてやるわ……ふほほほほほほほほ……」

「そりゃ怖いな、ニーナ……だが、そう上手くいくかな?」

 魔物の眼下で金属の耳障りな回転音が響く。


「ぎえええええええええええええええええええええええええええええええええええっ!!!」


 妖鳥ブルーカの左後肢に激痛が走った。大人の胴体より太い足に、鋼鉄の円盤が回転して食い込んでいく。瞬く間に円盤はノコギリのように後肢を一回転した。たちまち朱線が走り、左肢が切断されたて、川面に落下していく。

 鋼鉄の円盤の名称は〈鬼裂車(ジャギド・ギア)〉。回転する十六方手裏剣がならず者でも怪物でも、真っ二つに両断する威力がある。切断された後肢ごと、グリフェは川面に落下していく。鉤爪から胴体を抜け出すのに成功。

 だが、すでに彼は脱出のタイミングを逃してしまっていた……ここは標高30メートル。

安全着水高度は二階の高さ――6メートルまでだ。15メートルを越えれば水面はコンクリートに激突するのと同じ。24メートを越えれば、確実に死亡する。怪物討伐人といえども、この高さで落下すれば、良くて全身打撲、運が悪ければ冥府行きだ。


「おのれぇぇぇ……モンスター・スレイヤーめぇぇ……小賢しい真似を……」

 怪物討伐人の水面激突を待ちきれない巨大魔鳥が、左足の切断面から青い血を振り撒きながら、空中で方向転換。巨大な口腔に鮫のようなギザギザの歯牙が見える。グリフェを噛み殺し、食いちぎるはらだ。

 しかし、銀髪のスレイヤーは頭を逆さに落下しつつも、余裕の表情。回転式拳銃に胸ポケットから一つの銃弾を取り出して、装填。狙いを定めて怪女の眉間目がけて引き金をひく。


 BANG!


莫迦ばかめ、鉛玉など私には…………むっ……うぐぅぐぐぐぅぅぅぅ~~…」

 ブルーカが死の苦悶の表情を浮かべ、動きが乱れる。飛膜の翼をメチャクチャに羽ばたせ、羽毛を散乱し、水面に落下していく。


「こいつは銀の弾丸さ……ケチらずに最初から使っておけば良かったぜ……あばよ、ニーナ!」

 銀の弾丸――魔物や悪魔を撃退できる聖なる金属といわれている。だが、高価であり、怪物討伐人といえど、護身用のお守りとして常備し、ここぞという局面にしか使わない。

 ブルーカが派手な水音をたてて撃墜した。次はグリフェの番だ……


「くええええええっ!」

「おっ……」

 グリフェの右前方から、別の羽ばたき音が聞こえる。新手の怪鳥なのだろうか?

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