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賞金稼ぎ無宿

しかし、その斬撃を、素早い反射神経でかわしたグリフェ。


「グリフェ・ガルツァバルデス……六賊爪とかいう東域の暗器をつかい、〈魔爪のグリフェ〉の二つ名があるとか……楽しめそうだな……」

 皮革の眼帯に鋲をうった大男がニヤリと笑う。槍の穂先に斧をつけたハルバートという長柄武器を持っている。ヴィレームという傭兵あがりの賞金稼ぎだ。


「いいや、こいつは俺様の得物だ……5000万ゼインの賞金首……そいつに相応しい値段か確かめてやる」

 赤毛でアゴの出た男が嘲笑する。三又の穂をもつ三叉戟トライデントという槍を持つ。サムエルという元海軍兵士の賞金稼ぎである。


「まあ、最後はボクチンが勝つんだけどね……ぐふふふふふふ」

 額に三本傷がある肥満男は棍棒の先に鉄球にいくつもの刺を生やした星球式槌矛せいきゅうしきつちほこ――通称『モーニングスター』を持って、ブンブン振っている。ラデクという力闘士崩れの賞金稼ぎである。


「はっはっ~~~まるでハイエナとハゲタカの群れだな……そういうのを、取らぬ狸の皮算用って言うんだぜ」

「なんだとっ!」

 大勢の荒くれ者たちが色めきたつ。だが、ヴィレーム、サムエル、ラデクは微動だにしない。ほかと格が違うようだ。


「ハイエナにハゲタカか……その通りよ。ひゃははは……」

「だが、グリフェとか言ったな……新聞でモンスター・スレイヤー大活躍とおだてられた御仁がよぉ……」

「まさか、美人と名高い侯爵令嬢にべた惚れして誘拐するとは、地に堕ちたな……怪物討伐人さんよぉ」

 賞金稼ぎ達がグリフェを嘲笑あざわらう。無論、本当の事情は打ち明けられない。


「誰がべた惚れだ……言っとくが、俺は侯爵家に1億ゼインで身代金を要求したんだ!」

 グリフェはアンドレアに一目惚れして、拉致したという一文が気に入らないらしい。


「盗人猛々しいとはこのことだ……まあ、お蔭でこっちは大金をいただけるんだ。そいつは礼をいっておくぜ」

「そいつは俺の首を取ってから言いな……死にたい奴からかかってきな!」

 グリフェはツーハンデットソードを左手でもって、右手で「おいでおいで」と挑発。眼帯の巨漢ヴィレームが斧刃のハルバートをグリフェに右八相から斬り下げる。だが、糸に引かれた操り人形のように背後に飛び退く。剣とハルバートではリーチの差が明らかに不利だ。


「俺にはもう一つの二つ名がある、知っているか?」

「さてね……なんだ?」

「〈歩く武器庫〉よ」

 グリフェはロングコートに左手を突っ込むと、握りこぶしの指の間に四本のダガーがズラリと並び、片目のヴィレームに投擲する。


「なんのこれしきっ!」

 巨漢はハルバートの長柄を回転させて跳ね返す。その隙を狙ってグリフェが肉迫。間合いがつまってはリーチの長さが不利になる。慌てて下段からグリフェに斬撃をおくる。が、斧刃は付け根から切断され、宙を飛び、水たまりに落下。しゃがんで左手を軸にして、体を浮かせ、右足を鞭のようにしならせ、ヴィレームの向う脛を叩きこむ。


「ぐわああああっ!!」

水飛沫をあげ、ドウと倒れた大男の鳩尾を踵で突いた。ヴィレームは悶絶して気絶する。


「よくもヴィレームをやったな!」

 赤毛のサムエルが間髪入れず三叉戟トライデントをグリフェの胸部めがけて、体重をのせて突く。が、しゃがみ込まれて空振り。今度はグリフェが脇構えから大きく回転させて、左から斜めに斬りあげる。が、刃先が三叉戟の穂の間に挟まれた!

 ニヤリと笑ったサムエルが三叉戟を、力をいれて捻る。すると、ツーハンデットソードの刃先が真ん中から折られてしまった。軽く製作されたため、強度が弱いのだ。


「なにぃぃ……くそったれがぁぁ!」

「へへへ……これで終いだぁぁぁ!」


 武器を失ったグリフェの心臓めがけて、サムエルの三叉戟が稲妻のように襲いかかった……

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