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騎兵隊のお出ましだ!

 現実の力の差は残酷だ――ミランの熱い思いも、無慈悲な暴力の前には太刀打ちできなかった……


 一方、シロサイに変化したタートル・ピッグは荒くれ者たちに鎖や縄で押さえつけられ、身動きができない。


「うぐぅぅぅぅ……アンドレア……さま……逃げて……ください……」

「駄目よ……あなたを置いていけないわ……私の弟なんだから……」

 アンドレアは一人っ子の寂しさから、お気に入りの執事ミランを精神的兄弟として、ママゴトなどをして遊んだものだ。あの時は、そう言われて嬉しかった――今も同じであるが、心の奥底の闇の部分が少し悲しい思いを感じた……


「それこそ、駄目です。逃げて……」

「ぎひひひひひ……アンドレア、こっちに来るんだ!」


 モヒカンの賞金稼ぎが強引に彼女を引っぱる。が、男は左足におもりを感じて立ち止まる。ミランが左足にしがみ付いたからだ。


「うぜえぞ、小僧っ!」

 無法者は(こぶし)でミランの頰を叩きのめす。口のなかが切れて出血した。


「や……やめて……ミランに酷い事をしないで……」

「どけっ!」


 頭に血がのぼったモヒカン男は侯爵令嬢を突き飛ばし、鞘から山刀を抜き取り、ミランにトドメを刺そうと振り上げる。


「ミランんんんん~~~…」

 アンドレアの悲痛な叫びが雨の中の幌馬車内にコダマする。


 ――バキィィィィッ!


 鈍器で殴ったような鈍い音がした。アンドレアが恐る恐る双眸を開くと、床下にモヒカン男は顔をひしゃげて倒れていた。視線をあげていくと、そこに見知った男がいた。


「大事な依頼人に何しやがる! トサカ野郎め……」

 鍔広帽とロングコートをずぶ濡れにしたグリフェが、モヒカン男を蹴飛ばして立っていた。

「グリフェ……」

「グリフェ……殿……よかった……助かった……」

 彼の背後の、キャンバスの向こうには気絶した悪党たちが転がっていた。彼をこれほど頼もしいと思ったことはない。


「まさかこんな事態になっていようとは……済まねえ……ミラン! アンドレア!」

 あの、やさぐれて傲岸不遜にも見えるグリフェが鍔広帽子をとって頭を下げた。


「いいんです……よ……それより、タートル殿を……」

「けっ……泣かせてくれる依頼人だな……アンドレア、ミランの手当を頼んだぜ」

「はい…………」


 幌馬車を飛び出したグリフェは、相棒のタートルを捕縛した鎖術使いの賞金稼ぎを膝蹴り、踵落とし、肘打ちで叩きのめす。本来なら、こんな悪党どもは大根のように輪切りにしてやりたいが、ここは都市部であり、令嬢誘拐犯で指名手配された身だ。半殺しや気絶で我慢している。タートルが元の姿に戻って、雨に濡れる石畳にへたり込んだ。


「騎兵隊のお出ましだっ!」

「遅いぜ、グリフェ……だけど、たった一人で騎兵隊とは大きくでたな……」

「けっ……じゃあ、ロンリー・レンジャーってとこかな……」


 ロンリー・レンジャーとは、南域メルドキア共和国で少し昔に大人気となったラジオドラマだ。のちにペーパーブックや活動写真となり、プラグセン王国でも人形劇になっている。


「危ない! グリフェ!」


 グリフェの背後から、その首を目がけて、重い斧刃の一撃が飛んできた。


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