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デッド・オア・アライブ

 篠つく雨の中、御者台に座るグリフェの白目が黄色く変化。イーグルアイをつかって、声の主を突き止める。人間の視細胞はおよそ20万個。だが、鷲の視細胞は150万個あり、人間の8倍の視力を持つのだ。それゆえ、1500メートル上空からネズミを見つけることもたやすい。グリフェはその能力を自在に使えるのだ。

 旧市街地の三階立てアパートの屋根に、猿のように張りつく男がいた。出っ歯のずる賢そうな小男――情報屋ボジェクだ。


「リーの旦那ぁぁぁ……賞金首はここですぜ!」


 早耳の情報屋ボジェクはプラグセン警察がモンスター・スレイヤーのグリフェ・ガルツァバルデスとタートル・ピッグに侯爵令嬢誘拐の指名手配が出た事を知った。あっという間に、旧市街の武器屋にいるらしいと突き止めた。まず、一番のお得意先であるルパート大佐に魔法水晶式通信機で連絡したが、音沙汰がない。噂では大怪我で入院したとも、すでに本国に帰ったともいう。

 仕方が無く、暗黒街の賞金稼ぎたちにグリフェ指名手配の情報を知らせた。が、先にプラグセン警察が武器屋を包囲してしまった。しかし、グリフェ達はどうやったかは知らないが、警察の包囲網から脱走した。


「奴は……金の角亭ホテルにいた情報屋だな……耳の早い奴め……」

 雨の中、広告飛行船がゆっくりとすすみ、刷ったばかりの手配書をばら撒いて行く。一枚ひろった。


「なになに……グリフェ・ガルツァバルデスはデッド・オア・アライブ――生死を問わず、5千万ゼインか……」

「オレっち……タートル・ピッグは同じくデッド・オア・アライブ――畜生、3千万ゼインか……グリフェに負けたぜ」

「5千万ゼインも貰えるなら、俺が賞金稼ぎに転職して、つかまえたいところだぜ」

「おいおい……テメエにかかった賞金首をテメエで取りにいくトンマな賞金稼ぎなんぞ、聞いたことないぜ」


 こんな切羽詰まった状況なのに、グリフェとタートルは呑気にジョークを言って、ぎゃはははは……と笑い飛ばしていた。


「グリフェ殿、タートル殿……今はそんな場合じゃあ……」


 ミランが幌馬車ほろばしゃの入り口から顔を出して、宙に舞うアンドレアの顔写真のついた手配書をひろう。誘拐されたアンドレア・ユルコヴァーは必ず生きて、五体無事に取り戻すこと必須条件で2億ゼイン、とある。身代金の二倍の額だ。


「アンドレア様ぁぁぁ……」

 青くなったミランが幌の中にいる女主人に手配書を渡す。

「ううむ……これでは、賞金稼ぎとやらも必死になって妾を探すじゃろうな……」

「おっ、ミランの手配書は無いようだな……影の薄いのが幸いしたじゃねえか……ぎゃはははは!」

「グリフェ殿……この状況でよくそんな冗談が言えますねえ……ある意味、大物です」


 ちなみに、幌馬車の“幌”とは、馬車の荷台にとりつけた金属製の枠に、キャンバスを蛇腹状に覆いを被せたものだ。風雨や砂埃をふせぐためのもので、防水加工をされている。南域のメルドキア共和国の輸送馬車がはじまりとされ、河川の横断も考慮に入れ、ボートを参考に設計された。


 ボジェクの掛け声に呼応して、雨の中、幌馬車の前方に巨影が立ちはだかる。長身の肥満漢で、頭髪の一部以外は剃りあげ、残した髪を三つ編みにして腰まで垂らしている。東域の中原人特有の辮髪べんぱつだ。金のチョッキに茶色のズボンを穿いている。


「なんだぁ……テメエは? どかないと轢き殺すぞっ、ボンレスハム野郎!」

「むふふふふふ……我が名は賞金稼ぎのズング・リー。グリフェ・ガルツァバルデス――恨みはないが、その首いただく!」


 体重100キロ以上と見える体格なのに、重力を無視し、風船のように飛翔して御者台のグリフェにむかって右手に持つ柳葉刀りゅうようとうを閃かしてグリフェに迫る。青竜刀とは、幅がひろい湾曲した片刃刀で、柄に青竜の飾りがある。

 雨の中に火花がきらめき、美しい金属音が響きわたる。グリフェがヒンギスの武器屋で補給した大型の両手剣――ツーハンデットソードを構えて飛翔し、空中で迎え撃った。150cmの刃長でありながら、見た目に反して2.5キログラムの軽さだ。

 グリフェとズング・リーが石畳に残され、死闘が始まった。

 丁々発止と大剣を切りむすび、雨の中に火花が連続して咲き乱れる。


「けっ、こっちは忙しいんだ、遊んでいられねえぜ!」

 グリフェが右足で水たまりを救いあげ、水飛沫をズング・リーの顔面に目潰しにかける。

「わわっ! 卑怯な……」

「卑怯もラッキョウもあるかい! あばよ!」


 肥満漢の賞金稼ぎがひるんだ隙に、反対方向へ駆けだす。が、そこに青竜刀を持つズング・リーがいた。


「莫迦な……こんなに早く移動するなんて……」

 思わず、後ろを振り向く。そこに、ジャギド・ギアを刀で弾き返したもうい一人のズング・リーがいた。さしものグリフェもギョッとする。


「二人のズング・リーだと? もしかして、扶桑のニンジュツィストがつかうという、分身の術か?」


東域の果ての島国には扶桑ふそうという国があり、甲賀谷・伊賀谷にはニンジュツィストという摩訶不思議な技をつかうアサシンがいるという……


 以前、中国の武侠小説ブームがあり、書店でみかけて何冊か読んでみました。難しい漢字の必殺技が連発され、「北斗の拳」や、「魁!!男塾」に似たノリなので面白かったです。

 その武侠小説のなかで、日本は扶桑という名称でたまにでてきて、侍や忍者の技も紹介されて、不思議な感覚になりましたねえ……

「グリフェ魔爪伝」は、忍者小説との差別化のため、武侠小説のノリも導入してみようと思います。


 ちなみに「扶桑」とは、中国における日本の異称です。日本でも逆輸入されて使っているようですね。今、「扶桑」を検索すると「艦隊これくしょん」と「ストライクウィッチーズ」がよくヒットしますなあ……


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