グリフェは武器屋にいる
グリフェはミアーチェの旧市街にある武器屋にいた。扉をひらいて入ると、頑固そうな店主がメガネのつるに手をかけ、ジロリと彼をみた。
「儂の店じゃ、犯罪者には武器は売らないよ……」
「おいおい……俺は〈EGG〉のモンスター・スレイヤーだ。身分証明書をみなよ……」
「ほう……確かに……特注品の武器・武具は届いているよ……」
実はここは〈EGG〉御用達の店であり、グリフェの使う特注品の取寄せや、修理もおこなっていた。店主のヒンギスは小柄な老人で、目端がきく。
グリフェはダモレス川で妖鳥ブルーカとの死闘で無くした鬼裂車、銀の弾丸、弾倉、大型剣、短剣などの武器を補給した。まだ、〈EGG〉への退職届を出していないので、ギルドのツケ払いにした。グリフェとは、そういう男だ。
そこへ、食糧店や雑貨店に買い出しにいっていたタートル・ピッグが二頭立ての古びた大型幌馬車の御者台に乗り、手綱をあやつってやってきた。
「中古だが、頑丈そうな馬車だな……」
「へへへ……これならプラグセン西部までの街道でも目立たないだろ?」
「旅の必需品は?」
「そいつもバッチリ。ただ、必要最低限だから、旅の途中で必要になった品は買いもとめよう……」
あのあと、ギャリオッツの軍用馬車を乗り捨て、辻馬車をひろい、三度も乗りかえて旧市街地西区までやってきた。万が一の尾行を警戒してのことである。ここで四人は二手に分かれて、早急に旅立ちの支度をすることになった。
アンドレアは目立つ美貌のため、真紅のドレスを脱ぎ捨て、古着屋で買った、田舎の頭巾をかぶり、ガーゼマスク、みすぼらしい短衣とスカートで変装した。
「けけっ、高慢ちき令嬢も、まるっきり田舎娘の格好だな。まさか、侯爵令嬢だとは気がつくまいよ」
「なによ……あなたに言われると、何故か腹がたちますわ……それに、妾を高慢ちき娘というのはやめてちょうだい!」
少年執事ミランはオロオロと女主人をなだめる。
「アンドレア様……グリフェ殿はギルドを退職してまで、お嬢様を守ってくれるのですから……」
「……それは、わかっていますが……」
頬をふくらませ、ジトっと銀髪のモンスター・スレイヤーを見つめる。グリフェは右手で鍔広帽子をさげて肩をすくめる。
「……へいへい……アンドレア様と呼びますよ……気が向いたときに、な」
「まあ…………」
そこへ、ミアーチェ警察の蒸気式パトロール車両が三台やってきた。警官たちの先頭には、トマシュ・ドロブニー警部がやってきた。グレイのソフト帽とコートの恰幅のよい中年の男だ。
グリフェは昨晩の夜、プラグセン橋で連続殺人犯として、怪鳥の死骸を引き渡し、事情聴収にも応じている。しかし、その表情はけわしい顔つきだ。
「おいおい……警部、まさか連続殺人のモンスターを三体も倒した俺を、怪物殺人罪で逮捕しようというジョークじゃないだろうなあ?」
「ジョークなら良かったが……ミラン・ヨハーク……グリフェ・ガルツァバルデス……そして、タートル・ピッグ。きみたちをユルコヴァー侯爵令嬢誘拐の犯人として逮捕する」
「なにぃぃぃぃぃ!?」
まさに青天の霹靂。予期できなかった展開だ。グリフェとタートルは、「そうきたか……」と顔をあわせる。
「なにを言うのじゃ、警部! 誤解じゃっ、妾は誘拐などされておらぬ。この者たちは妾の買い物につきあってくれた執事と……その友人じゃ!」
「……いえ……それが、侯爵家より正式にされたとの訴えが署にきております……グリフェとタートルなる無法者が令嬢に一目ぼれし、不埒にも誘拐したとか……まずは、詳しい事情を訊きたいので、みなさん署まで同行お願いいたします……」
ドロブニー警部は苦虫をかみつぶしたような顔をしている。
「もちろんです! 妾が誘拐されたのではないと証明いたしましょう。さあ、皆も一緒に……」
「いや……俺は断るぜ!」
「何をいうのじゃ……グリフェ! このままでは皆は誘拐犯にされてしまうのじゃぞっ!」
銀髪のタフガイは侯爵令嬢に近づき、彼女の右手を後ろ手にまわして盾にした。そして、拳銃の先をアンドレアの脇腹に押し付ける。
「なっ……何をするのじゃ!」
「アンドレア様っ!」
悲鳴をあげるアンドレアと、それを心配するミランが駆けつけようするが、タートルに背後から押さえられた。
「おっと……動くなよ、警部。それと警官ども! 下手に動いたら、この娘っ子のドテッ腹に穴が開くぜ!」




