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ロボット対ゴーレム

 二体の巨人は円形の広場に移動していった。噴水の周囲で休息していた市民と観光客が悲鳴をあげて逃げ去り、エサをついばんでいた鳩が一斉に飛び立った。


「片眼鏡大佐……さっきのお返しに、リターンマッチといこうじゃねえか……」

「ボジョビーク! 鉄屑てつくずロボットを粉砕せよっ!」


「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」


 ルパート・エッガー大佐の操る軍用ゴーレムの名は〈ボジョビーク〉という。プラグセン語で〈戦士〉の意味だ。大佐の思念に反応して、憤怒の形相となり、雄叫びをあげる。そして、両手を構え、グリフェの搭乗している土木作業用ロボット〈マリウス2000〉に対峙する。

 奇しくも、プラグセンが発祥とされている二大人造人間――ゴーレムとロボット。その巨大化版の決闘が開始されようとしている。

 赤い屋根の建築物からニョキリと伸びる天文時計台が11時の鐘を鳴らしはじめた。それが戦いのゴングとなった。


 ゴーレム・ボジョビークが両手を構え、左手でジャブをくり出し、次に右ストレート、左フックをくり出す。連続パンチがロボット・マリウス2000を襲う。だが、両手をクロスして頭部と胸部を防御。だが、上腕部の装甲がハンマーで叩いたようにひしゃげてしまう。


「重いパンチだ……今度はこっちからいくぜっ!」


 グリフェはマリウスを突進させる。自動給炭機が作動し、胸部の火室で高温の燃焼ガスが発生。ボイラーの煙管を通って、蒸気が発生。シリンダー室のピストンが勢いよく動き、ピストンロッドと歯車が回転。マフラー状煙突から白煙が噴き出す。

 マリウスは蒸気機関車の音をたてて、旧市街の石畳をズシンズシンと重音を響かせて、ボジョビークに肉迫。左足を大きく踏み込んで左ストレートを決める。左手をひき、頭部をガード。下半身を回転させて、その力を腰、肩に伝動させて右ストレートをゴーレムにぶつける。

 ワン・ツーが決まり、ゴーレムの腹部が凹んで、拳大こぶしだいの穴できた。ボジョビークが後退する。マリウスはさらに踏み込んで、顎に右アッパーを炸裂! 怒りの形相がグシャリと歪む。連撃による消耗でゴーレムもふらふらした足取りだ。


「おのれっ!」

「ゴーレムもグロッキーのようだな……セコンドにタオルを投げてもらうかい?」

「とことん、ふざけた奴め……だが、貴様のはしょせん、工事用ロボット。軍事用に開発されたゴーレムの威力を思い知るがいい!」


 ボジョビークは腰ベルトに手をかけ、それを右手に持つ。それは粘土製では無く、鋼鉄製の鞭であった。重い音を立てて右手上で真っ直ぐに伸びていく。


蛇腹剣じゃばらけんかっ!」

「ほう、詳しいな……」


 鉄鞭は柄頭のワイヤーを引くことで、自在に鞭にも長剣にも変形する暗器だ。ボジョビークが長剣をマリウスの頭部、操縦者のグリフェ目がけて左右から振りかぶる。ちょっとでも当たれば衝撃でふっ飛んでしまう……

 武器など持たないマリウス2000は両手で頭部をガードしながら後退していく。赤い屋根のアパートメントに追いつめられていく。


「もう後はないぞ、トドメだ!」


 長剣状態の蛇腹剣がふたたび鞭にもどり、ロボットの両手のスキマから操縦者に剣尖を突き入れる。耳をつんざく金属音が響き渡る。グリフェは巨大蛇腹剣によって串刺しになったのであろうか……

 いや、マリウス2000は腰を180度回転させて蛇腹剣を回避した。武道でいう、半身の構えだ。剣尖がレンガの壁に激突する。食い込んで取れない。慌てる大佐。


「よっしゃ、逆転のチャンス!」


 マリウス2000のマフラー状煙突から濛々と白煙が吹きだし、ピストンロッドと歯車が高速回転。左側にステップインして、重心を落した。ボジョビークの脇腹に狙いを定める。腰のひねり回転を利用して左拳を突き上げた。

 左ボディブローが決まり、ゴーレムの胴体半ばまで腕が食い込んだ。

 ルパート大佐は衝撃で、手すりにぶら下がって落下しそうだ。


「ぐおおおおおおおおおおおおおおおお…………」


 苦痛の絶叫をもらし、ボジョビークがふらつく。そこを、マリウス2000が右手を股間に刺しこみ、左手で肩口をつかむ。右手を上げて、ゴーレムをひっくり返して抱え込んだ。そして、前方に勢いよく投げ落とした。ボディ・スラムがきまった! 衝撃で石畳が割れて吹っ飛び、ゴーレムがひしゃげて地面にめり込んだ。


「ワン! ツー! スリー! ごぉぉぉぉぉぉ~~~!!!」

 グリフェが右手を挙げ、勝鬨かちどきをあげた。


「おっと、勝利の凱歌はまだ早いぞ、グリフェ!」


 突然声がした。見れば、前方の空中にルパート大佐が浮遊している。彼の念動力は自身の体重をも持ち上げることができるのだ。そして、壊れた粘土細工状態であった、ゴーレム・ボジョビークが糸に引かれたように起き上がり、ムクムクと元の状態に戻っていく……


「なんてこった……自己修復機能つきかよ……ブルジョアめ……」

 グリフェが鍔広帽子のひさしを落して嘆息する。

巨大ロボットVS巨人ゴーレム……これは燃える対決カード。

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