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五万石

 やばいです。

 日間一位に手が届きそう……えぇい、ままよ! 投稿してしまえ!! 感謝の気持ちだ!!

 城下町は突然の当主交代に沸いた。例によって例の如く、肝心の謀殺うんぬんに関しては公然の秘密とされ、全盛期をとうに過ぎた親父に代わり二十七歳と武者盛りの俺が蠣崎家の当主となったことは、喜ばしいニュースとしてすぐに広まった。実際に見物していたのは領民全体からすればごく一握りであるし、その多くが身内同然であったから、勝ちを得た方法についてとやかく陰口を叩かれることもあるまい。


 俺と同様に当主に切っ先を向けた広益であったが、親父の降参の言葉とともに刀を下げ一礼すると、俺の元へ向かってきてにこやかに「御見事な勝利に御座います」と言い放った。

 俺ができたことと言えば片目を潰して視野を狭め、立ち位置を調整して広益が親父の背後を取れるようにしたこと、大声で命乞いをして注意を逸らしたことだけだ。お前の手柄だよ広益。


 それにしても。

 なにも言わずとも、伝家の宝刀を使うことになるやもしれぬと察して動く。これぞ忠臣というものであろう、主として鼻が高いぞ。

 いや、ほんとは俺が一太刀入れて綺麗に勝ちたかったのだが、勝てば良かろうなのだよ。


 その後、俺と親父でふたたび話し合いの場となったのだが、その際に改めてきっぱりと家を任せると言ってくれた。俺が当主となり広益が寄騎ではなく直臣となるので、前当主に刀を向けた罪を問う訳がない。むしろ功一等と言ってやりたいくらいだが、秘密扱いなので公の場では褒めることもできなかった。


 親父と二人で話し合った結果として、まずは当主交代を周知させる必要がある。よって、これを知らせるべき順に並べてみる。


 一.檜山安東家に当主交代の挨拶に出向かねばならない。

 二.渡島十二家や商家にも使者を出してやらねばならない。

 三.諸アイヌ衆にも通知する。

 

 一は歓迎すべきことだ。相応の上納金を持っていくことになるが、当主の目線で海の向こうの偵察を兼ねられれば上出来だし、上手い飯をたらふく食える。若い衆を連れて行って見識を深めてもらう良い機会だろう。いっそのこと大人数で行って食費で懐を圧迫してやってもいい。


 二は面倒だが必要だ。渡島12家の中で最大勢力といえる蠣崎家の当主交代で、しかも下克上みたいな面もあるから、俺の対応が早すぎると脅威と見られたりいらぬ刺激をするかもしれない。逆にもたつきすぎるとこの機に離反しようという家も出かねないし、下国守護が増長するのも許せない。できれば並の評価を貰えるくらいを目指す。あ、もちろん商人に舐められるなどもってのほかである。


 商人について話しておくと、意外と蝦夷にくる本州の商人は多い。基本的には安東水軍の支配が強力でそれゆえ通行証さえ買っていれば安全度の高い日本海側の商人が主で、近場だとそれこそ対岸の十三湊とさみなとからくる地元商人に、遠いところだと琵琶湖の北らへんにある敦賀つるがみなとから輪島、直江津、酒田、土崎湊などを通ってわざわざ来る物好きの近江商人もいる。


 当然彼らはそれに見合った利益を見込んでいるのだろうけどね。十三湊、直江津、土崎湊は七湊に挙げられているくらい活気もあるようで羨ましいかぎりだ。遠くない内に、松前湊を発展させ十三湊も支配して、日ノ本八湊のうち蠣崎家が二湊を支配している状態にしてやりたいと思う。


 商人ついでに銭の話といくが、俺は決め付けにより一文が平成の世の百円相当と考えている。となると、一文銭を千枚束ねた一貫は十万円相当となるのだが、これを大量に運ぶのは重量や置き場所の問題がある。そこで商人なら一貫を小判一枚、つまり一両に両替して持ち運ぶのだ。


 蠣崎家の懐事情の方は、渡島十二館の内、当家が支配しているのが六館であるのはご存知の通り。そして当家が商人から徴収している運上金の年間総額がおおよそ六百貫(六千万円相当)である。当家ではこの内の最低でも五割を主家の檜山安東家に上納する約束で松前守護を名乗ることを認めてもらっているので、手取りは三百貫となる。三千万円といえば大金な気になるが、渡島の半分の支配者としてはかなり少なすぎる気もする。他にも領民からの税の取立てもするが、こちらは米が獲れない以上すずめのなみだ程にもならないのだ。 



 話を戻して、三は急ぎではないが諸アイヌ部族と手を結ぶ切っ掛けにすべきだろう。これこれこういうことがあって、アイヌ刀のお陰で勝てましたとでも言えば喜んでくれるはずだ。


 まず俺が手を結ぶつもりでいるのは、北西部の花沢館の北と東を流れる天ノ河、ここより北を支配しているハシタインという族長で、うちの先祖の時代には争いも絶えなかったらしいがじいさんの代からは比較的友好関係が続いている。そのおかげでじいさんは北を手薄にして南に戦力を集中させることができ、この徳山館を獲れたのだ。彼は妖刀イペタムの元の持ち主でもあるし、好意的に接してくれているからこの機会に正式な同盟を結んでしまいたい。


 次の候補は渡島中部の脇本館付近(知内辺り)に影響力の強いチコモタインという族長だ。当家の領地よりやや東に外れるということもあり、こことは今まで大きなやり取りもなかったため、少なくとも悪感情はもたれていないはずである。下国派を分断するのにうってつけの位置だから今後仲良くしていきたいと思う。


 そして期待の星と言えるのがニシラケアイヌ首長しゅちょうで、こいつの本拠地はなんと牡蠣の産地である厚岸より更に北東へ進んだ端の端、メナシというところなのだという。

 なぜこんな遠隔地の部外者を、と思われるだろうがこの男の率いる武装商船団は常時二十隻以上に及び、不確かな噂によれば彼の号令一つでアイヌ刀を携えた戦士を満載した舟百隻が集結するとのことで、蝦夷で最大・最強の商人として名を馳せているのだ。


 正直言って、こいつさえ完全に味方につくなら今すぐ安東家に攻め込んでも勝てるのではと思っている。


 最後に同盟の目がまるでないと思われるのが、西部の内陸部で影響力の強いタリコナ族長である。彼の妻の父(舅)こそ、かつてこの徳山館に攻め込んできたアイヌの族長・タナサカシであり、俺の親父による和議からの謀殺の被害者だからである。

 タリコナ族長は入り婿の立場であるから嫁には強く言えないと思うし、嫁さんは父親を謀殺した蠣崎家を許さないだろうという想像である。


 更に想像を広げれば、嫁に背を押されているタリコナが当主交代を好機とみて攻めて来るのでは、というところまで見えてくる。これもやり方次第ではこちらの好機といえるかもしれないな。

 こちらが防備を整えたところに攻めてきてくれるなら、最小の被害で不穏分子を潰せるのだから有り難いことだと思う。 


 余談だが族長はそのままの意味で、数箇所の村や集落に分かれている一族をまとめる規模の長であるのに対し、周辺の族長をまとめた上に君臨するのが首長と考えてくれればいい。


 そんな理由から主家にはいち早く挨拶に行き、他家と商家にはこいつまあまあ出来るなと思われる程度には早く通知し、諸アイヌ衆には頃合いを見計らって接触を試みるという方針となった。

金銭については、簡易なものとしております。

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