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十七万石

 厚谷重政。当家指折りの武人であり、俺の姉を正室としているので義兄でもある。忠義に溢れ、目下めしたの者達とも分け隔てなく接する、次の比石館主となるに相応しき男。それが目の前で身体を小さく畳んで頭を下げている。


「それで、なにがあったのだ。先の海上封鎖の件であれば、押し通ろうとした船を沈めたとの報告を既に受けたぞ?」


 伝令より報告を受けていると言っても頭を上げようとしない重政に、こちらまで不安になってしまう。 


「それで終わりでは無いのです。確かに数隻は沈めましたが、恐らく本命の使者が乗っていたと思われる一隻が進路を変え、こちらも追おうとはしましたが他の船に足止めされ、まんまと下北半島の方へと逃げられてしまったのです」


 ぐぬぬ、つまり御屋形様のところへ当家以外から事情が伝わってしまうということか。しかし既に当家の使者は戻ってきておるから先手は取れたし、真実が伝わること自体は時間の問題に過ぎなかったのではないかな。


「構わぬ。どうせ陸路では御屋形様のところへ着くのも遅れるであろうし、既に広定が使者の役目は果たしたのだからな。そも、下北半島といえば根城ねじょうを構える八戸氏の領土であろう? そちらまで追いかけておったら今頃は八戸との戦が始まっておったやも知れぬだろう」


「寛大な御言葉、感謝致しまする」


 心底ほっとした顔で、重政は俺の借りている部屋から退出していった。


 なんだろう。これという言葉で表現できないが、なにか不自然さを感じる。広定にしても重政にしても、随分と俺の顔色をうかがっていた気がするのだ。


「すまんが、広益を呼んできてくれ」

 部屋の前で待機する執事衆に声を掛けると、返事をするやドタドタと一目散に走っていった。


 やはりおかしい。


 部屋に入った広益に最近の出来事を話してみた。

「~と、万事ばんじがそういう調子でな。なにやら俺の知らぬたくらみでもあるのではと思ってしまうのだが」


「ふっ、くくっ。まさかそんな事を御思いとは」


「なっ?! なにがおかしいというのだ! 俺は切実に悩んでおるのだぞ」


「ふふっ、いやあ、これは失礼仕った」

 まるで真面目な顔して聞いていて損したとばかりに足を崩すと、昔のように気軽な口調で話し始めた。


「殿は……いや。若様は幼少の頃より、武芸よりも蔵に収められた品や湊での商いの様子、帳簿を自ら作っては眺めているのがお好きだったでしょう? もちろん人並みの武芸を修めておられたのを私は知っておりますが」


 うむ、そうであったな。蝦夷の暮らしを良くできる品はないのか、本州の商人の不平等な取引を正す方法はないのかと思案しておったが、それがなんだというのか。


「家臣達はみな、そのような不思議なことに興味を持たれる若様を知っておられるのです。普通のわらべというのは、木の棒でも振り回しながら元気に走り回っているものですから、さぞかし奇異きいに映るでしょう」


 言われてみればそんな気もするが。

「しかし、広益も一緒だったではないか。そなたも変な童であろうか?」


「私は武芸にも努めておりましたから、そんな風に思われたことはないかと存じますが」


 クッ、俺だけが浮いていたというのか……。


「まあ、そのようにおとなしい童であった若様が跡を継がれるのは、現状維持を望む家臣一同が賛成しておられたはずです。せっかくアイヌとの関係が良くなってきたのですから、放っておいたら次々と戦を始めそうな基広殿よりもよっぽど跡継ぎに相応しいということですね」


 ですが、と続ける。


「若様が当主になられると、家臣達の予想を遥かに超えて就任の宴の最中さなかにいきなり戦が始まってしまいました。危ういと思ったのもつかの間、結果は圧勝に終わりタリコナを自ら討ち果たした若様は頼りになると口々に噂していたのです」


「ここまで聞くと俺が随分と評価されているようだが?」


「ええ、その通りです。問題は……下国様の一件でしょうな。状況と三人の証言を聞いてとりあえずその場は頷いても、まさかあれを真に受ける者などおりますまい。そして渡島統一を目論む強い野心も透けて見えたはず。ならば家臣たちはこうも感じたはずです、若様は代々の当主様方にも勝るほど苛烈かれつな御方であった、と」


「なにそれマジか……」

「マジですぞ」


「つまり、怖がられてる……?」

「間違いなく」



 フレンドリーな領主を目指す俺は、師季君に兵達を慰撫いぶするのも立派な守護の役目とかなんとか言って蔵を開けさせて、このあと滅茶苦茶呑んで騒いだ。

家臣達に見せ場(土下座)を作るスタイル。

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