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十一万石

 タリコナの槍隊の前進に合わせて、親父率いる蠣崎家の槍隊が雪の段差を上って進む。あんまり塹壕に近づかれると、上から集中砲火を浴びることになるから当然の動きだ。


 兵数では敵五百、味方四百五十と言ったところか。敵の弓兵が一部ジョブチェンジしたのと、味方のさっきまで木人形係りをしていたやつらが槍隊に入り、本陣に少数を残しているのでこうなっている。


 ここまではいいんだが、一方で双方の弓隊の動きが止まっている。ちょっと移動すれば味方を避けて狙えると思うんだが。

 じいさんは……首を横に振っておられるね。これはアイヌ弓兵が槍隊の戦いに手出しするのは卑怯とか考えてるんだろうか。 


「広益どう思う? 今のうちに本陣の兵を使って弓で攻撃しちゃうか?」

「それはちょっと……。いえ、いつものことですから卑怯だの外道だのというつもりはありませんが。木人形の持ち手が足りませんし、やったらやり返してくるでしょうから一射しかできませんよ。うちの兵とアイヌの兵で弓比べは御免です」


 それもそうか。

「じゃあのんびりしてようか。おーい、お前らも気張ってなくていいぞ」

「「ハッ」」 


 堅苦しいねまったく。名将(武力)が出たんだからもう戦の勝利は確定したし気楽にいこうよ。


 おっ、始まった。


「あれは痛そうだな」

「殿、即死では痛みも糞もないでしょう」


「あっ……青竜刀を木槍で防ごうとするやつがあるかあ?」

「すっぱりいきましたね」


「おっと、タリコナもやるもんだなあ。このまま進むと親父とぶつかるかな?」

「殿?」

「どうした?」

「今ならタリコナを狙えるのでは?」


 あ! 弓、どこだ!!


「私のを御使いください」

「よし! かゆいところに手が届く!」

「はい?」

「なんでもない!」


 タリコナは……まだ狙える! こういう時はなんて言うんだっけ? ……くそっ言葉が出てこない!


「南無八幡大菩薩、願わくば我が殿に御力を貸し与えたまえ」

「それだ!! ご照覧あれ!!」


 矢を放つと、世界から色も音も消え去ったような気がした。スローモーションで進む矢が、そうなるのが当然のことのようにタリコナへと吸い寄せられていく。


 そして――


 ――矢が命中するのと同時に元の世界が戻ってきた。


「「おおっ!!」」

「見たか! 俺が大将を討ち取ったぞ!!」

「はいもちろん!! 殿、ときを!」

「そうだった! えい! 鋭!」

「「応ッッ!!」」


 そして、戦場の流れが一気に変わった。親父率いる槍隊は数の差を物ともせずに奮戦していたが、本陣で鬨の声が上がったのを聞き取ってすぐに激しい攻勢に出た。アイヌ勢はタリコナが矢を射られたことが伝わり始めたようで動揺、すぐに親父の攻勢を受け止め切れなくなった。そして壊走、もはや撤退する軍勢ではなく自分が生きるための全力疾走である。


「鋭! 鋭!」

「「「応ッッ!!」」」


 鬨の声は加速度的に広がり、興奮した兵が追い討ちを掛けるために走り出す。これはもう俺には止められない。というより、鬨を上げたのは俺だし。

 この場面での鬨は突撃せよ! 了解! って意味になっちゃうからね、仕方ない。みんなお小遣い稼ぎに必死なんだよな。



 さてと、まずは勝てた。それも弓矢でってとこを除けば、大将が大将を討ち取るという理想的な勝ち方だ。追撃には親父が勝手に行ったから任せるとして、俺がしないといけないのはなにがあるかな。


「重政っ、は追撃に出たか。俺は館に戻り、館主たちに戦勝報告をしなくてはならぬゆえ、広益にここを任せる。追撃に出なかったもの達を取りまとめ撤収せよ」


 首実検なんて言葉を聞いたことがあるが、あれはこの辺ではやらない習慣だ。毛皮・武具などは仕留めた者の総取りとなっているからそれで充分な収入になるし、わざわざ死人の首狩りをやりたがる奴も見たがるやつもいないだろう。ちなみに追撃に行かず残っているやつらは、自分が仕留めた獲物に満足したやつらだ。せっせと回収作業中である。


 追撃班のやつらはもっと手柄(収入)が欲しいか、戦闘狂だろうな。彼らの場合、仕留めたやつの死体に自前の槍や短刀を突き立てたりして目印とし、後で回収することになる。


 残るは味方のアイヌの褒賞だがどうしたものか。それなりに死傷者が出てしまっているし、今後の関係を考えれば手厚く報いるべきか。



 論功行賞に頭を巡らせていたところ、名も知らぬ兵に声を掛けられた。

「殿! 負傷者を運んでおりましたら、物陰にて下国様一行が縛られておりました!!」

「なんだと?! どういうことだ!!」

「ハッ。下国様のお孫様の仰るには、酔って暴れた守護さまが基広さまに強かに殴りつけられ、護衛たちもとっさのことに対処できずそのまま縄を巻かれたとのこと! お孫様は酔った守護様を止めようとしてその場におられたそうですが、共に捕らえられた、と」


 な、なんということだ。基広めが本当にやりやがったのか……。そんなに切腹が嫌だったのか? 俺も切腹は嫌だけど、守護に怪我させないために殴って縛るってどういう神経してんだあいつ。


「そ、それで下国様は今どこに居られるのだ?!」

「殿のご命令で捕らえたのやも知れぬと思いましたゆえ、そのままそこの陰に放られておりまする」


 俺の命令だと? 確かに俺は伝令のやつにそんなようなことを言ったが、それは比喩表現というかなんというか、本当にやる馬鹿がいるなんて思わないだろ……。いやしかし、実際のところ基広に命じたのは俺な訳で……。なんだこれ、どうなる?


「……その者らについては、再度暴れる恐れありとか言って凍えぬ場所に移したら放置せよ。そうだな、勝山館でよかろう。ところで縄を解かずに俺に知らせたのは良い判断だったぞ! 名を聞かせよ」

「ハッ、有り難う御座いまする! 拙者は富田とみた広定と申します! 恥ずかしながら戦働きは不得手にて、負傷者の手当てや物資の管理を任されております」

「うむ。広定であるな、大儀であった。仕事に戻ってよいぞ」


 不味いよな、うん不味い。主家に敵対行動と思われたら潰される未来しか見えない……。

そろそろ歴史好きな方にとって、コレハナイワーな展開になると思われます。

あくまでフィクションです。

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