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俺は大盛り定食屋無双で成り上がる!

作者: せろり

一切の会話のない短編です。

ハッピークローバーマート月光町店、という別の物語のスピンオン的なお話でして....まさにダレトク?!これダレトク??!なそんな話です。

暇潰しにでも読んでみてください。

そして気になったらもうひとつのダレトク?!!な【ハッピークローバーマート月光町店】を紐解いて見てくださると嬉しいです

住宅街の少し外れに、ここ月光町がベットタウンになる前から、小さな商店街がある。

俺が幼稚園かそのくらいからか、まわりにマンションがばかすか建ち並び、都心から電車で小一時間程度ということもあり、あっという間にベットタウンになったんだと聞かされて育った。


昔から住んでる土地に昔からいる人達のため、と、時代錯誤の鎖国気質な【昔からの住民】と【小綺麗なマンションに住んでる他所から来た新しい住民】の軋轢も多少あったようだが、それももう随分と昔の話だ。

今は錆びれゆく商店街をどう活性化させていくか、を町の住民として考えていくのが生き残りの命題である商店街。


そんな商店街で俺のオヤジとオフクロは、小さいながらも所謂昔ながらの洋食屋レストランをやりながら俺を育てた。

昔ながら、であるからメニューも昔ながら。

一番人気は楕円形の鉄板焼皿に乗せた千切りキャベツと豚バラ肉のしょうが焼き。その横にはマヨネーズにレモン汁を混ぜて作ったポテトサラダとさくら漬けが色を添える。


他にもハンバーグやナポリタン、チキンソテー、アジフライにグラタンコロッケ。そんなメニューが定番の洋食屋だ。ちなみにスープなんて小洒落たものはない。だいたいワカメと豆腐の味噌汁がつく。

しかし定食屋、だと思うなかれ。

あくまでも洋食屋なのだ。

なぜならオヤジ曰く、白いシェフコートを着て調理場に立つから洋食屋なのだそうだ。

変わり映えのしないメニューからもお察しの通り、経営はジリ貧。

儲けもなければ赤でもない。材料費と光熱費とであっぷあっぷ....そんな洋食屋だ。

畳もうにも色んな絡みがあって畳めない。

そんな状態の洋食屋は、今年の春に歴史が動いたのだ。

オヤジがぎっくり腰で唐突に引退を決めたのだ。

お鉢が回ってきたとでも言うのか....その頃おれは人員削減の憂き目にあい、30も半ばだというのに、無sh....いや自宅警備員予備軍をしていた。

勿怪の幸いとばかりに、おれは洋食屋を継ぐこととなった。


おれはとにかく、じり貧洋食屋のままではいかん、と、渋るオヤジとオフクロを説得し、定食屋にジョブ変更することとした。


Lv1の自宅警備員予備軍からなんのレベルアップも図らないままのジョブ変更はまさに無双の序章の予感しかない。


住宅街の近所には野球と柔道で有名な高校もある。カイロなんたら整体とかいう横文字の専門学校もある。比較的大きな消防署、警察署の寮もある。よく食う連中の腹を掴めばいけんじゃね?

最近読み漁ってた異世界物じゃねーけど、現実転職で(大盛りにしときゃ)定食屋無双できんじゃね?と思ったからだ。


食材を安く仕入れる。

まずはそこからか、と仕入れ先をネットで探して変えることを考えたが、オヤジとオフクロから猛反発を受ける。

お決まりの【昔からのお付き合いがあるんだから!買い物はご近所で!】ってやつだ。


そんなときに、住宅街と商店街のほんの少し離れた所に安価で有名なハッピークローバーマートの進出出店の噂がたった。

運命はやっぱり俺に定食屋無双をしろと、そう言っている!

おれは運命の女神に感謝しながら投げキッスを送りたいくらいに舞い上がった。


騎士でもなければ魔術師でもないけど(若干魔法使いにはなりそうだけど....)包丁一本で成り上がる!

そう決めた。


そこからの俺の行動は早かった。

近所の植木屋のオヤジに泣きつき、店内のビニールクロスの壁からや、煉瓦風の壁紙を張り付けただけのカウンターを、植木屋で廃材の丸太をもらってきては、適当に切って壁に打ち付けたり、カウンターに立て掛けたりして、冒険者ギルド風とでも言おうか?

カウボーイ映画とかであるような西部のバーみたいなイメージで武骨に仕上げ、滑るビニールみたいなタイル風な床板をひっぺがして、コンクリートをポリバケツで作っては流し込み、店に大量にある古くさい皿を割っては埋め込んでみた。


ヨーロッパのどっかでそんな感じのタイルを割ってモザイク細工にしたよう床を世界の列車から的な番組で以前に見たよな覚えがあったからだ。(うろ覚えともいう)


天井からぶら下がるオレンジ色の古くさいシャンデリアは取っ払い、酒屋からもらってきた空き瓶で電球を入れてライトにした。

ますますそれっぽい!ギルドっぽい!

赤と白のチェック柄のビニールクロスもなんだかよくわからん小さな花瓶の造花も全部取っ払った。


テーブルと椅子は....昔からので諦めるか、と思った矢先に商店街の酒屋のおっちゃんがどデカイワインの樽を3個も持ってきた。

商店街の工務店のおやっさんが「廃材で自分で内装やってんだって?偉いな!坊主!祝い変わりだ、使え!」といいながらパイン材の板を持ってきた。

それからの俺の仕事は早かった。

ワインの樽を半分に切り、板を打ち付ける。それをテーブルに。

丸太を切っただけのをひたすらやすってつるつるに仕上げ、椅子とした。

テーブルは四人掛けで6テーブル。カウンター席も6席。

まさに俺が思い描く冒険者ギルド風な食堂の完成だ。

一人で切り盛りするには丁度いい。

そして男っぽい!むしろおとこっぽい!

黒いシャツにカウボーイブーツ、そしてギャルソンエプロンにしよう。

まずは形から。

メニューも壁に黒板をデカイのを掛けてそこに書くだけにしよう。

ワクワクしながら、俺は定食屋無双を思い描く。


そうだ、メニュー。

看板メニューは肉だ!

冒険者ギルドといえば荒くれ者の集まり。

それなら肉だ!

まずは定番はカツ。カツはオニオンフライ乗せてデミグラスソースに目玉焼き、はたまた甜麺醤風味噌にナッツでも砕いて散らして歯応えガッツリ系。ウスターソースは王道過ぎて俺の無双には邪道だろう。

ああ、考えだすとたまんねーな!

肉メニューを充実させて、ちまちましいサラダなんかは排除だ。

オープンまであと数週間。

毎日毎日ほぼ寝る暇も惜しんで内装とメニュー開発に取り組んだ。

人生でこんなに没頭したのは初めてかもしれないくらいだ。

ようやく形が出来たのは、ハッピークローバーマートのオープンの噂があと3日と迫った日だった。


仕入れ先を確実に確保したい。そんな思いで、俺はオープンの噂を確かめるべく、ハッピークローバーマート予定地まで愛車の自転車チャリに跨がり....まぁ下世話に言えば野次馬にいったんだ。まぁ、残念だが噂が噂でしかなければ、商店街から割高の仕入れを少しずつ減らしながら、徐々にオヤジを説き伏せつつ安めのネット仕入れに変更していくつもりだったが....


ハッピークローバーマートが、そこにあった。


まだ入り口には店の名前が印刷された布が目張りのように張り巡らされている。

よっしゃ!!!ラッキー!!

某日曜の戦隊ヒーローの台詞じゃないが、思わずガッツポーズをしてしまう。

店の周りはトラックがどんどんと横付けされて台車がバンバン降ろされていく。まさにニューオープンの為に「店」というダンジョンの中がお宝で埋め尽くされていく瞬間だ!!


いいね!いいね!テンション上がってきたぜ!


眺めている俺の前で、ハッピークローバーマートの正面入り口がちょっとだけ開けられ、中から制服とエプロンをつけた数人の女性たちが手に手にチラシを持って出てきた。



「こんにちは!ハッピークローバーマート月光町店です、よろしくお願いしまーす!!」


笑顔で手渡されたチラシ。

これがまさに俺を幸運へと導いてくれる地図となった。





数ヵ月後、俺は大食いタレントのテレビの取材を受けた。

そこからはあっという間に有名店になったんだ。

雑誌....ニュース特番....いろんな取材が押し寄せて、それにともない客も増えた。

俺の店のコンセプトはギルド風漢おとこ飯。

女の客はあまりの大盛りにほほ来ない。

山と盛られた飯に立ち向かう勇者が客だ。


おかげで商店街に客足が増えた、と商工会議所のじいさん達からは喜びに咽び泣かれ、ばあ様達からはよくやった、と飴ちゃんを貰った(なぜ、飴にちゃんをつけるのか、そしていい年をしたオッサンの俺になぜ飴なのかは大いなる謎だ)。

ハッピークローバーマート月光町店。



俺の定食屋ギルドの為にきっとどこかの女神とか神とかが遣わせたに違いない。

そう俺は思っている。





まあ....あの店が夏以降、本当にダンジョンみたいな店にたまになることをこのときの俺は知らなかったのだが....。





Fin.

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