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ネルワルド王国

騎士が皆モテるとは限らない件

作者: 北見深

意味なし山なしですが、さらっと暇つぶしにお読み下さいませ。よろしくお願いします。

北の大陸には度々の天災に人を導いたという獣神を崇める風習があり、人々は堅実で清廉さを好むという。


南の豊かな海を抱く土地には女神が降臨し、新たな芸術を開花させたと言われ、明朗で享楽的ともいわれる。


両国に挟まれた形で、森に抱かれた王国には魔力を持つ人間が多く生まれた。


獣神も女神も顕現しなくなって久しいが、魔法は僅かに残っている。

数を減らした魔術師も、まだ多く人々に恩恵をもたらしている。


かの国の人々は穏やかな気質であるからか、築いた国は大きくはない。その時々の時代の波をひらひらと乗り越えたため、日和見であるともいわれる。



森に抱かれた栄えあるネルワルド王国。

貴族制度の多く残る国々の一つ。


その、ネルワルドの中にある細々とだが長く続く貴族の旧家。

伯爵家長男。王太子付き近衛第一騎士団、団長。次期国王の側近となる男。

アルフレッド・フィズ・ド・レヴィエは、王城の王太子執務室にいた。


ネルワルドには四季があり、今は丁度春。

花が咲き乱れる季節だ。

今季の春は北大陸ターレン地方の寒気にあてられ酷く遅かった。

十日ほど遅れて花々も咲いたから、花自体は今が丁度見頃。


見頃だが、国の行事の『花迎え』はもう終わったし、夏に向けて仕事は増える一方で、執務室には王太子、事務官、控える護衛騎士及び執務手伝い中のアルフレッドだ。

書類をめくり処理する音だけが響き渡る。

空気を入れ替えるために僅かに開いた風入れ用の窓から入る花の香も、男所帯の執務室ではあまり気分を盛り上げない。



今年の『花迎え』は王太子の三つ年下の王女が出席した。

王子に囲まれ、いささかやんちゃな姫君も、その日ばかりは淑女然としていて、エスコート役の王太子もほっとされていたようだった。

明るいブロンドに晴れた空の青の瞳。美しい顔立ちの王太子と、愛らしく初々しい王女が並ぶ姿を見て、見惚れた貴族は少なくない。

ただ、護衛として『花迎え』の為に用意された離宮会場に一緒にいたアルフレッドとしては、存外居心地が悪かった。

会場にはその日、成人と認められた男女の貴族がずらりと勢ぞろいしている。

花迎え、とは春を祝う花見の会という名目の成人男女のお披露目であるからだ。

保護者らは各々我が子を着飾らせ、ぐるりと会場を取り巻く二回会場に列席している。


王太子は十八歳で違和感なく会場の一番目立つ場所に。(寧ろ羨望の眼差しを受けている)見繕った護衛らも二十代前半・・・。


要するに、会場の中心にいる男子の中でアルフレッドが一番歳を重ねている。


あえて言うならば、三十数年生きている。ネルワルド王国においては嫁を貰い逃した男と呼ばれる年齢。

花迎えを迎えて幾星霜・・・。

自分がここに立っていられると言うことは、アルフレッドが独身だと公言している事になる。


・・・『花迎え』の会場護衛が独身の騎士だなんて誰が決めたんだ。



アルフレッドは王太子の近衛騎士を拝命した時爵位を継ぐ事を弟に譲った。

今は王太子付きの第一騎士団の団長である。

次期王の近衛であり、側近として政務に携わる事しばしば。

王国での地位も高く、金銭面でもかなりの高給取りだ。騎士を辞めれば叙爵もあろう。

そんな華々しい肩書をすでに用意された彼だが、言い寄る令嬢は少ない。


なぜなら、ネルワルドで好まれる姿をしていないからだ。

細身で整った優しい顔立ちの弟と違い、彼は蛮族と呼ばれた先祖の血が濃く現われた外見をしている。

褐色の肌、小さいとは言えない騎士団の中でも頭一つ分大きい逞しい大柄な身体。

剛毛な髪はいつも短いし焼けて赤みが強い。

顔は上品とは言い難い粗野さが滲んでいる。特に青灰色の目が獲物を捕らえる前の狼のようで怖いと、倦厭されていた。騎士の職務中などかち合った侍女に悲鳴を上げられたこともある。


だから、比較的婚期の早い貴族の中で、アルフレッドは三十過ぎた今も、断トツのぶっちぎり独身を爆走中であった。

周りは彼がもう結婚を諦めたと思い、両親ですら何も言わない。

アルフレッドが結婚を諦めた訳じゃないと知るのは、親しい数人だけである。



跡取りだったアルフレッドは優秀な頭脳をしていたため、王太子が護衛としてでなく補佐役として時々執務を手伝わせる。今日も一応貴族らしい出で立ちで出仕してきた。

動きやすい騎士の服と違って窮屈で、ため息も増える。


執務室は王宮の奥の間に設えられている。王太子が十歳の頃、政務こっそり手伝い始め、今もそのままの場所で政務を執り行っている。


王太子殿下の横顔をみる位置で、書類整理をしてるアルフレッド。眉間に皺を寄せ口を真一文字に結び、書類を握りしめている。

書類を射殺さんばかりの表情で、かなり怖い。


王太子がにこやかにしているから余計。


「おめでとう。リンネル。新婚旅行はどこへ?」


誰もが見惚れる優しげな笑顔。親しく部下の騎士の名を呼ぶ王太子。若くとも立派な為政者の姿だ。

軽く頭を傾げる仕草で木漏れ日色の髪が目にかかり、手で払う。覗いた瞳は緩やかに細められた。


彼の造形は女神が精魂込めて創ったかのように整っている。

絶対女神に贔屓されている。


「は!海洋都市コライユに。」


直立不動のリンネルの顔は自然に笑みの形になる。

新婚だ。当然だろう。


「そうか、永遠の愛を約束する女神像が有る所だ。ゆっくり休暇を楽しむといい。」

「・・旧時代の海底都市があるな。獣神の怒りで沈んだってやつが。」


王太子の隣からぐるぐる唸り声が聞こえそうな低い男の声がかかる。


可愛そうにリンネル・シモン小隊長は青ざめている。結婚した隊員が少しばかりの長期休暇を取って旅行にでかけるのは、騎士の権利でもあるのだが・・・。

俯いたままのアルフレッドに目をやる王太子の顔は少々呆れを含む。


自分が抜けることで皆に迷惑をかけるからと、真面目なリンネルは休暇も最短で取っている。


「こらこら、レヴィエ団長。おめでとうぐらいいったらどうかな?若手の有能な隊員が抜けたら少々調整に難が出るだろうが、これは慶事だ。隊員の権利であることだし。」


横で執務の手伝いをしているアルフレッドは不機嫌さを隠しもしない。

赤茶色の短髪があちこち跳ねたまま放置。

それをがしがし掻いて獣くさい仕草だとも気付かずに、アルフレッドはリンネルを見ようともしない。


(子供か)

自分より年上の部下の態度に呆れつつ、王太子はリンネルに退出を促してやった。自責の念で、休暇を撤回しかねない顔をしていたから、言い出さぬうちに。


リンネルと入れ替わるように護衛が交代した。長年、第一騎士団にいるロージス。無駄口をたたかないタイプで、無言で敬礼し、無言で控えた。


「おめでとう位言えるだろうに」

ぽつりと零せば、アルフレッドが書類をどさりと音を立てて下ろした。

紙に皺がついている。王太子相手に目つきが剣呑だ。


今まで空気だったアルフレッドと反対側の机に座る事務官がひっと小さな悲鳴を上げた。


「・・・めでたい?ああ。実にめでたい。政務官のジジイ共は結婚は墓場だと言ってたな、殿下。俺は祝っておりますよ。ちゃんと、無事を祈るぐらいには。」


「お前・・・、今回は酷いな。」

リンネルは気持ちの良い男だ。毎度、祝うばかりのアルフレッドには苦いことだろうが、何をそんなに卑屈になっているのかと、横目で睨めば思わぬところから声が入った。

「リンネル殿の嫁は団長のお知り合いでしたよね?」

「うっ!」

アルフレッドが呻いた。

ああ、そうか、王子は納得する。

「また、ダシにされたのか。」

「団長。何回目でした?」

とぼけた風を装ってロージスはアルフレッドがまたも呻くのを楽しそうに見ている。ロージスという男は、無駄口をきかない代わり抉り込むような事をサラッと言う。


また、


アルフレッドが騎士団員目当ての女性から親しげに声を掛けられ、

気付かずに団員を紹介してしまい、

振られたのだ。


この頃では、事情を知らない若い騎士からアルフレッドは良縁を運ぶ縁結びの神の如く扱われている。

気の毒に。

王太子はそっとアルフレッドから目を逸らした。


続きはあるので投稿するかもしれません。かも、ですが。

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