馬と戦車
パカラっパカラっパカラっ
カタカタカタカタ……
ラティーナ平原に響く、近代文明の生み出した軍馬と魔法世界の軍馬の足音。有りそうで無いような画で俺達はウィスカへの帰路に着いている。
フィーナは馬を駆り、ルイナーは俺の戦車に取り付けられた機関砲台に掴まりながら座り、フィーナと共に新たに召喚したバリバリ君を片手に持ちながら喋っている。
町までかなりの距離があり、馬に合わせて徐行ペースで走っているため、暑さを凌ぐために俺が再び出してあげたのだ。 二人とも一度氷水を飲んで体感した感覚を再び起こさないために警戒したのか、一気にカジらず、チビチビと舐める形で食べている。
「フィーナさん、正直に言ってシドー様の事をどう思っているのですか? 今までのフィーナとは全くの別物だとガリアンさんが言ってましたし、この事は自警団内では話題になっているそうですよ」
「そうだな、何と言うかシドーは私の父親に似た雰囲気があるからな……、自分で言うのも恥ずかしいが、私はもっと父親に構ってもらいたいという願望があるのかも知れない」
「フィーナさん……」
「シドーは他所から来たと言うのに、赤の他人である私を助け、町の危機まで救ってくれた。 それに人種違いでであるエティさんを見ても卑下するような顔や言動は一切取らなかったしな、まるで絵に描いたようなお人好しだ」
「ウィスカは差別が余り無いと言う、極めて珍しい町ですが、他の地域は酷いですからね……」
「ルイナーは特に酷い仕打ちを受けていたからな……」
「はい……、でもシドー様になら、いつか私の本当の姿を見せようと思います」
「本気なのか? 例えシドーがお人好しでもルイナーの姿を見た途端に卑下する可能性はゼロではないのだぞ?」
「分かっています。 ですが彼の好意に甘えて、このまま自分の事を隠し通すなんて出来ません。 それに私、シドー様を信じていますし……」
「……分かった。 その時になったら私が予めシドーに話をしておこう。 まぁ、彼の性格ならルイナーも受け入れてくれるさ」
「ありがとうございます、フィーナさん」
「……」
(全部聞こえてるんだよなぁ……)
戦車に搭載された収音マイクが二人の会話を拾い、車内に伝わってくる。この装備は敵の出す音を拾い、位置を把握するために付けた物なのだが、スイッチを切っていなかった為、二人の会話がモロに聞こえてきた。
このような場合すかさずスイッチを切るべきなのだろうが、二人が本音(?)を話始めた為、そのまま聞き入ってしまった。
しかし、ルイナーが話していた隠し事とは何なのだろうか? フィーナは彼女が酷い仕打ちを受けたとか言っていたが、やはりルイナーも宿屋のエティと同じ別種族なのだろうかと思う。
この事はデリケートな話題になりそうだし、ルイナーもいつか俺に秘密を打ち明けると宣言していたため、ここは知らないふりをしておこう。
「あっ……」
「どつしまし……きゃ!?」
車内取り付けられたスピーカーから女の子の悲鳴が聞こえる。 俺は反射的に車外へと身を乗り出し、二人に何が起きたのかを尋ねる。 どうやら話に夢中でアイスが溶け、棒から滑り落ちてしまったようだ。
フィーナのアイスは地面に落ち、ルイナーのアイスは戦車の鉄板の上に落ち、直射日光で加熱された鉄板はアイスの残り部分を瞬く間に溶かして行く。
「ごめんなさい! 今すぐ拭き取りますので!」
「ばっちぃし、ベタベタするから触るんじゃない。 さっき頭がキーンとなったからチビチビと食べてたのか?」
「そ、その通りだ……」
「全く、次は早めに食べるんだぞ? 外は暑いからな、直ぐに溶ける」
「申し訳ない……」
俺は再びバリバリ君を召喚し、二人に渡す。 割と物を召喚した後だと、武器のレベル制限の他に召喚可能な物の数量にも制限が有るのではないかと不安になってくる。
今度は俺の注意が効いたのか、何も話さず二人はアイスを頬張っている。 ちゃんと食べるペースを掴んだ二人は、暑さと初めての味と相まって、自然と頬が緩んでいる。 やはり可愛い女の子はこうした表情を見せてくれるのが一番だ。
二人がアイスを食べ終わったあと、ルイナーは戦車内に戻ってきた。 フィーナがギルドへ報告するために馬を走らせると言ってきた為であるからだ。
「シドー、ウィスカまでまだ距離がある。 そこでそのセンシャと競争してみたいのだが、構わないだろうか?」
「いいぞ。だが戦車で巻き込むと、フィーナも馬もミンチより酷くなるから距離を取ってくれ」
「わ、分かった」
フィーナは俺から距離をとり、馬に鞭を入れ駈足で走り始める。 ファンタジー世界の馬なんて言うからてっきり空を飛んだり、角が生えたりしているものかと思ったが、見た目は地球上の馬と大して遜色がない。
強いて珍しい所と言うならば、体の色が白い事くらいだ。 俺も馬が走り出した事を確認したらスロットルを空け、造速させる。 加速時の瞬発力は馬の方に分があったが、直ぐに差を詰め、フィーナを追い越す。
「お先~。じゃ、そーゆー事で~」
グォォォォォ! ガタガタガタガタ!
「なっ!? ええい! 待て、シドー!」
「はぁっ!」
ドドドドドっ!
フィーナは自分が乗っている馬に襲歩の指示を出し、戦車に追従する。 地球上に存在する平均的な馬の最高速度は大体時速40~50km位で、俺の乗っているSタンクとほぼ同等の速度で走れる。
だが、今のフィーナはギルド貸出しの鎧を着込んで重量増加しているの為、本来の速度を出せていない。 戦車と馬の距離は離れる一方だ。 そして馬の体力切れで馬と主力戦車によるちょっとしたレースは幕を閉じた。
「しかし、戦車の音や振動でも全く動じない自警団の馬は凄いな」
「ああ、この馬はしっかり訓練された軍馬だからな。 あらゆる事が起きても動揺することはないな」
「なるほどな。 まぁサラブレッド相手なら最高速では勝てないだろうがな」
「因みに最高速はどのくらいなんですか?」
「そうだな、フィーナが乗っている馬くらいの速さだな。 最高速が伸びない代わりに、押す力と引っ張る力が物凄く強い。 目安として言えば、体当たりだけでギルドの建物の壁を苦もなく突き破るくらいだな」
「すごいな、あとずっと走ってても息切れしないのだろう?」
「ああ。燃料という、人に例えるなら体内の魔力の源?が無くならない限りはずっと走れる」
「その燃料が尽きるまで何ラングほど走れるのですか?」
「そうだな、条件にもよるが1時間で25ラングのペースで走った場合、250ラングは走れるな」
「……シドーの国って本当に魔法が存在しないのか?」
「ないぞ? そんなに何かの魔道具に見えるのか?」
「当たり前だ! これを人間が作り出したなんて信じられん! シドーはハーゼシビリアンやエルフを空想の産物と言っていたが、私達にとってはセンシャの方がよっぽどファンタジーだ!」
確か中世の頃の人と馬の一日の平均移動時間は、人が30キロ、馬でも調子が良くて80キロほどだったか、そう考えると一日でそこまで動ける乗り物は空想の産物としか思えないのだろう。
俺達は途中で全力疾走した事もあってか、ウィスカの城門の前まで来ていた。 俺は橋を戦車で渡り、ルイナー工房の前に戦車を停める。
別の所へ停めようとしたのだが、ルイナーが「目印になるから」と言ってここに置いて欲しいと言ってきたため、ここに停めることになった。
「ふぅ、やっと着いたな、お疲れさん」
「お疲れ様です。 今日は本当に楽しかったです! ありがとうございます!」
「また機会があったら乗せてあげるからな。 あとこれ、良かったら飲んでくれ」
そう言って俺はアクエアリスの24本入の箱を召喚し、ルイナーに渡す。 彼女は武器工房で働いていると言う職業柄、大量の汗をかく。 なのでこういったスポーツドリンクはそんな彼女に最適と言える。
ルイナーはそんなに受け取れないと言ってきたが、俺が何個でも出せるし、年下の女の子が遠慮してはいけないと言って強引に受け取らせる。
本音はフィーナとの対話を盗聴してしまった事へ対するお詫びであるのだが、彼女はフィーナが移動中に言ってた事と照らし合わせると辛い過去があったのだろうと思う。
そんな過去があったにも関わらず、ひねくれた性格をせず、健気に頑張っている姿を見ると、年の離れた俺にとっては保護欲を全開にする要素が満点なのだ。 それにルイナーみたいな女の子には笑顔こそが相応しいし、見ている俺の方も癒される。
(やはり俺はオッサンの階段を上っているのだろうか?)
俺はアクエアリスの箱を抱えたルイナーと別れ、ギルドでの報告を済ませたフィーナと合流し、宿屋へと戻る。 そんな中俺はフィーナって毎日俺の部屋で寝泊まりしているが、本来どこで寝泊まりしてるのだろうか?と疑問に思ってしまった。
そんな質問をフィーナに振ると、本来は自警団長であるガリアンの家で宿泊しているらしい。 ついでにガリアンは長年独身であるそうなのだが、そんな彼にとっては娘みたいなフィーナを見知らぬ男と一緒に寝かす事について何の抵抗も無いのだろうか……?
俺達は宿屋に到着し、いつも配達稼業を済ませた時のように宿屋の入り口から入るために扉を開ける。
だがいつもと違う、焦げ臭い匂いがしており、その匂いは昔俺がイギリスに家族旅行で行った際に現地で食べさせられたウサギ料理の肉と似ていた匂いが僅かにしており、 床に看板娘のエティが気絶している光景が目に入った。
「……何でエティさんは上手に焼かれているんだ?」
「おかえりなさいませ、シドー様。 お見苦しい所を見せてしまい申し訳ありません」
「い、いえ……。 所で何でエティさんは焼けているんですか?」
「ええ、実はですね……」
この日、配達スタッフから生産職へと転職するキッカケが生まれ、宿のガルフさんが見かけによらずえげつない事をやってのける人であることを学んだ。




