ルイナーの依頼
お待たせしました。 最近忙しくて中々投稿できるタイミングが掴めませんでしたorz
ウィスカに到着してから10日ほど経った俺は「バイトライダー」という通り名が定着し、今日も町の自警団員のフィーナとバイク便ならぬ、チャリカー便の操業に精を出していた。
フィーナは町の自警団員であるのにも関わらず、連日俺の配達業務を手伝えるのは町の治安が良く、自警団の出動する時なんて言うのは魔物の襲来の時しかなく、時間を余しているらしいからだ。
正直、未だに道を覚えれない俺にとってはフィーナの手助けのお陰で配達業務を完遂できている様な物だ。 毎日手伝いの報酬で添い寝をねだられるが、それも慣れてしまったし、出会って1週間ちょっとの美少女の、胸元がはだけたバスローブ一枚の際どい姿を見ても特に感慨することも無くなった俺の順応性の高さが妙に憎い。
今日もリヤカーに荷物を満載し、順調に荷物配達を終え殆どの荷物を配達し、最後の荷物をセラー商店と呼ばれる食料品を主に扱っている露店へと運ぶ。
「シドー、ここで停めてくれ。 向かいの店がセラー商店だ。 ここの店は様々な種類の食材を置いているし、宿屋のエティさんもここで宿泊客に振る舞う料理の材料を仕入れている。 シドーもこの町に住むなら、店主のトニーさんとは仲良くなっていた方がいいぞ」
「そうか、アドバイスありがとな」
俺は最後の荷物である、リンゴの入った木箱を持ち上げ、露店の店主であろうと思える人物の元へと向かう。
「すみません、ダニエルさんは今こちらにおられますか?」
「いらっしゃい! おっバイトライダーの兄ちゃんか! 俺が店主のダニエルだ、気軽にダニーとよんでくれ!よろしくな!」
「よろしくお願いします。 今回伺ったのは荷物の配達なのですが……」
「そうか! リンゴだよな? なら、こん中に入れといてくれ!」
「分かりました」
俺はダニーの誘導に従い、リンゴの入った木箱を露店の中に入れる。 彼の店には野菜や肉など、様々な食材が置かれており、肉の見た目は地球上の物と大した差がないように見えるが、値札を見ると「リザードホースのモモ肉」とか、なんかヤバそうな臭いがする生き物の肉が並べられている。
「バイトライダーさんよ、今活きのいいしゅわしゅわ細胞が入っているのだが、連れのフィーナちゃんと一緒にどうだい? 早く荷物を届けてくれた例に、今なら2本で4ラリの所を2ラリにまけるぜ?」
連日の猛暑の中、俺達は毎日のように汗をかきまくっているし、荷物を届け終わったので俺達はこのあと特にすることがない。 丁度何か冷たいものが欲しいと思った所だし、フィーナにも世話になった上に値段を半額にして貰えるとの事なので、彼の言葉に甘えることにする。
「お願いします。 丁度冷たいモノが欲しかったのですよ」
「毎度あり!」
ダニーは冷水に浸されているしゅわしゅわ細胞を2つ掬い、水を浸した小型の容器に入れる。 俺は代金を払い、店の向い側の大通りに路駐したフィーナの元へと戻る。
「おまたせ。 すまんが、これを持っててくれないか?」
「これはしゅわしゅわ細胞じゃないか、店で買ったのか?」
「ああ。 ダニーさんが安くしてくれたからな、それに今日の配達は終了しているし、どこかで涼みながら食べよう」
「分かった! だったらコールマン側の城壁まで行こう。 そこなら今の時間は日陰になっているから涼しい」
「あいよ~」
フィーナはしゅわしゅわ細胞を食べると聞いてテンションが上がり、俺達を乗せたチャリカーは以前ルイナーと初めて会った、戦車を停めているアクアポルトとは反対側の城壁の門の入り口の横に到着し、チャリカーを停める。
「この辺なら迷惑にはならないな。冷たいうちに早く食べてしまおう」
「うん。 だが今日はこの前みたいにフォークがない。 この場合は、やはり手で掴んで食べるのか?」
「ああ。 だが水から上げた瞬間は前に食堂で食べた時よりも激しく震える。 これは細胞が水気のある場所を探す習性があるのが原因なんだ」
「何それ? スライムは細胞単位で自立して動いているのか?」
「スライムに関してはそうだな。 コイツらは核と呼ばれる、人間で言う所の脳に値する急所を突くと本体は活動を止するが、細胞単体は活動を続ける事が可能だ。 その代わり本体の様な高い思考回路は失われるがな」
「思考回路の弱いスライムの細胞が本能的に水気のある場所を探すという事は、暑さに弱いのか?」
「ああ、奴等は今みたいな季節に活動すると干からびる。 その代わりに雨が降ると活発に動いて、人里まで降りてくるがな。 あと、塩をかけると縮む」
「ナメクジじゃねぇか……」
「ナメクジ? シドーの居た国の生き物か?」
「ああ、大きさは指くらいだがな。奴等も暑さに弱いし、塩をかけると干からびる。 だが食べようしようものなら、身体が細菌に犯されて死ぬ」
「物騒な生き物だな……」
俺は容器に入っているしゅわしゅわ細胞を掴み、口へと運ぶ。 フィーナの言う通り水から引き上げた途端、ブルブルと震え始め、落とさない様に手に力を入れる。
しゅわしゅわ細胞の表面の感触は蒟蒻そのもので、弾力は外郎に似ている。 フィーナももう1つのしゅわしゅわ細胞を掴んで、リスみたいな持ち方をして一口かじる。
「美味い! 喉かかわいていたから尚更だ!」
だが、フィーナが幸せな表情をしたのも束の間、彼女のしゅわしゅわ細胞は、にゅるんとフィーナの手からすり抜けて地面へと落ちていった
にゅるん
「あっ!」
ペチン!
「いでっ!」
ピチャ ピチャ ピチャ タン! チャポン……
フィーナの手からすり抜けたしゅわしゅわ細胞は、俺にビンタを食らわせ、水の張り巡らされた堀の橋から、水中目掛けてダイブしてった。
「「……」」
「気色わるっ!」
「逃げられてしまったのだ……」
「外郎が跳ねるとは……、流石ファンタジー世界」
活きが良いのにも程がある。 俺は目の前で起きた、外郎みたいなしゅわしゅわ細胞が魚みたいに跳ねる光景を見て、素直な感想を述べる。 フィーナは油断して、一口しか食べていないしゅわしゅわ細胞に逃げられて明らかに落ち込んでいる。
「あれ? シドー様とフィーナさんじゃないですか!」
「ん? ああ、ルイナーか。 久しぶりだな」
「お久しぶりです! 二人ともこんな所で何をしているのですか?」
「仕事が終わって一段落している所で、フィーナはしゅわしゅわ細胞に逃げられて落ち込んでいたところだ」
「あははは……。 今みたいな季節はよく暴れますからね……」
俺達に声を掛けてきた主は、食べ物が跳ねて逃げるという、非現実的な現象についても驚くことなく、普通に受け流している。
「ルイナーの方こそ何しているんだ? 工房はこことは真逆の場所にあるだろ?」
「私も仕事が終わって、日課の散歩をしていた所なんですよ」
ルイナーもよく見ると、俺達と同じ様に汗をかいていてる事が分かる。 恐らく武器工房での作業は、この前初めて会った時の話と絡めると、とてつもない汗をかく作業なのだろう。
こんな事になるなら、もうひとつしゅわしゅわ細胞を買っておけば良かった。 しばらく話をしていると、ルイナーは俺達に1つ仕事を依頼したいと言ってきた。
「シドー様、1つお願いしたいことがあるのですが、宜しいでしょうか?」
「どーした? 俺に出来ることなら良いぞ」
「今日完成した武器の配達を次の機会でいいので、お願いしたいのです。 代金もお支払いしますので」
「配達かい? 今日は早く仕事が終わったし、今からでも届けてやれるぞ?」
「本当ですか!? な、ならお願いしてもいいですか?」
「ああ。 この前、戦車で入り口を塞いでしまったしな。 そのお詫びだ」
「あ、ありがとうございます!」
ルイナーは喜びながら頭をペコリと下げた。 この子、メチャええ子や……。 フィーナも快くルイナーの依頼を受けてくれ、俺達はルイナー工房へと移動するため、目の前の美少女2人をリヤカーへ乗せる。
「二人とも、俺の手付かずのしゅわしゅわ細胞食べてもいいぞ」
「ほ、本当か!?」
「そ、そんな事出来ませんよ! 只でさえワガママを聞いて貰っているのに……」
「遠慮せんで生暖かくなる前に食べておけ。 俺の年になると、汗かいた女の子の前でこんな物食べれなくなってしまうんだ。 あと、2人で分けて仲良く食べるんだぞ」
フィーナとルイナーは、リヤカーに置かれた残りのしゅわしゅわ細胞を半分にし、リスみたいな仕草で食べる。 ルイナーも遠慮していたが、火照った体に冷たい物が入り、フィーナと同じく自然と笑顔になって行く。
2人はしゅわしゅわ細胞を食べ終え、俺達を乗せたチャリカーはルイナー工房のすぐ傍に置かれている戦車の前に出る形で停まる。
「やはり、ここから運ぶ物と言ったら武器なのか?」
「はい。 送り先は全て並平商会でお願いします」
ルイナーはシェルター見たいな工房に入って行き、今日出来たばっかりの武器を出してくる。
武器は剣士が使うような、大剣や短刀などの刃物類や弓矢の本体と矢を次々と出してきた。 武器はどれもシンプルなデザインだが、キッチリと型が整えられており、丁寧な作りをしている事が素人から見ても分かる。
俺とフィーナはルイナーが出してきた武器を次々とリヤカーに載せ、ルイナーから再び送り先を確認する。
「これで全部かな?」
「はい。 あとこれがお代になります」
「いや、お代は要らんよ。 これも入り口を塞いでしまったお詫びだ」
「それはダメです! これは依頼なのですから、ちゃんと報酬は受け取って下さい!」
「今日は十分稼いだし、こんな金額受け取れないぞ」
「それでもダメです!」
ルイナーは強引に代金である、300ラリを渡してくる。 正直、沢山運ぶものが在るとは言え、全て同じ場所に運ぶからそんな大金受け取れないのだが、ルイナーは一歩も引かず、俺は渋々と代金を受け取る。
「じゃ、行ってくるよ」
「はい。よろしくお願いします!」
俺はチャリカーを走らせ、フィーナの指示の元、並平商会へと向かって進む。
「今から行く並平商会の店主である、並平おじさんはちょっとした変わり者でな、気を付けてくれ」
「どんな風に変わっているんだ?」
「まず騒がしいし、変な口調で喋る。あと、普通に対する拘りが異常なまでに強い。まぁ、イラついて剣で斬りかかったりはしないから安心してくれ」
「いや、何かの拍子で斬りかかったらキチガイだからな!?」
ひとまず危ないカテゴリの人間ではなくて安心した。 ルイナー工房から並平商会の距離は割と離れており、到着するのにしばらく時間が掛かった。 フィーナの言う通りの場所に自転車を停め、それっぽい建物を探すが、どれも似ている建物をばかりで、何処にあるかが解らない。
「なぁ、並平商会ってどこにあるんだ?」
「えーっと、ここだな」
フィーナは自転車を停めた斜め前にある建物に取り付けられた、表札サイズの板が貼られた建物の前まで俺を誘導する。 確かにその建物には「並平商会」と書かれていた。
「おい、ここが本当に武器屋なのか? 単なる民家にしか見えないぞ……」
「言っただろう。 ここの店主は普通に対する拘りが強いと」
「いや、普通気付かないからな!? 店までこんなに目立たなかったら、誰も見向きもせんぞ!」
「武器も普通なら、店も普通にしないといけないという拘りらしい。 それに、この町の者なら誰でも知っているぞ?」
「この町の住人はなんかの特殊能力を持っているのか……? それにここまで拘るなら、普通を通り越して異常だからな?」
この店って本当に儲かっているのか? そんな会話をフィーナとしていると、店から一人のバーコードヘアのオヤジが出てきた。
「なんや? 冷やかしならお断りやぞ」
「すみません。 並平商会を探してまして、本当にここで合っているのかと思いまして……」
「ここがそうや。 店の札に書いてあったやろ? そいで、ワシの店に何か用なんか?」
「はい。 ルイナー工房から預かった武器の配達に伺いまして」
「やっと来よったか。 ほな、武器は中に入れてといてや」
「はい、分かりました」
俺は関西弁みたいなしゃべり方をする、店主の指示に従い、フィーナと共に武器を入れる。
「ご苦労さん。 アンタ、最近ここに来たシドーとかゆうモンか?」
「はい」
「ワシはチャップリン並平や。 この並平商会を切り盛りしてるCEOをやっておるモンや」
(チャップリン並平……)
「なんや? ワシに何かついとんのか?」
「い、いえ。 よろしくお願いします」
チャップリン並平は、簡単に自己紹介を終えると俺達が運んだ武器を陳列し始める。 店に置いている武器や防具は全て典型的な、まさに絵に描いた様なシンプルデザインの武器しかないが、様々な種類の武器が置かれている。
武器を運び終えた俺達は、並平商会を後にし、かいた汗を流すために宿屋への帰路につく。
「チャップリン並平って……」
「分かるぞ、シドー。 何で並平って最後に付けるのかが謎なのだろう?」
「ああ。 だがこの国にも最高経営責任者って単語があるんだな」
「最高経営責任者? そんな言葉、この国にはないぞ。 シドーの国ではどんな意味があるのだ?」
「CEOってのは、Chief Executive Officerの略だ。まぁ、分かりやすく言うと、企業のトップだな。 ウィスカに来てカルチャーショックを受けまくった俺にとっては、聞き慣れた単語を聞いて安心したのだが……」
「ちーふえぐじぇくてぃ……、シドーの国には難しい言葉があるのだな。 少なくとも、さっきシドーの言った、最高経営責任者の略ではないぞ」
「……じゃあ、何の略なんだ?」
「ああ。 超偉いおっさんの略だ」
「は?」
俺はフィーナの話を聞いて、改めて実感した。しゅわしゅわ細胞しかり、この世界では地球上の常識は通用しないのだと。
前回の後書きで、この話を並平商会でのやり取りにしようと思ったのですが、次になりそうです……




