バイトライダー
GWで帰省絡みの予定が中々消化できず、待たせてしまい申し訳ありません。
「シドー、これって何なんだ?」
「ああ、これは俺が元居た世界の軍隊が使っていた高機動人力輸送車だ!」
俺は昔から自衛隊内で使われている、基地内の物質輸送や人員輸送などに幅広く使われ、隠れた自衛隊の顔装備と呼べるリヤカーを召喚する。
かつてはM1A1運搬車なる某国の主力戦車の様な名前を冠したリヤカーが迫撃砲輸送の為に正式採用されていたのだが、現在では迫撃砲の大型化により車両輸送が主な為に退役したが、リヤカー自体はどの基地にも大概置かれている半正式装備となっている。
因みにそのM1A1運搬車、現役時代は演習で迫撃砲を装備する普通科がコイツに本体や弾薬を積んで、それを隊員が引く勇姿を見ることが出来たらしいのだが俺が産まれた頃には退役しており、その勇姿を見ることが出来なかった。正直見てみたかった……。
俺も教育隊時代にコイツを引いて様々な物を運んだものだな、弾薬とか缶飯とか草とかゴミとか先輩とか。
だがリヤカーは自衛隊内で正式採用された装備品では無いため、自衛隊向けに納入している業者がいない。なので基地内では隊員のカンパや部隊内予算で買ったリヤカーであり、中には手作りでパイプや木の板を繋ぎ合わせて自作した部隊や、色をオーリブドラブに塗ってそれっぽく見せている強者部隊もあるほどだ。
俺が所属していた部隊もリヤカーを装備しており、それは戦車っぽく塗装され部隊ロゴや桜章のペイントが施された気合いの入った代物だった。そして俺の配属されてた駐屯地内ではこれらを使ったリヤカーレースなるものが流行っていおり、操縦手繋りで参加したことがある。
そんな何気に思い入れのある自衛隊の万能装備を俺はこの荷物配達の仕事で使うことにし、積めるスペースを最大限使い配達依頼の届いている荷物を積み込む。
荷物の種類は様々で、送り状には魔石の詰め合わせや魔術師の装備品である杖など多種多様なアイテムの品名が書かれている。そんなファンタジー世界のアイテムを満載したリヤカーを俺は得意気な表情で腕を組み眺める。
「シドー、何を得意気に見ている? 只の小型の馬車みたいな引き車ではないか。そんなに凄いものなのか?」
「ああ? リヤカーさんナメんなよ? フィーナ、戦争で一番大切な物は何だと思う?」
「そんなの、強力な力を持った武器や兵士に決まっておろう」
「ふっ、凛々しい娘だがまだ子供のよう、フィーナちゃん」
「なっ……!」
「戦争で一番大切なのは、フィーナがさっき言った兵士に食料などの補給を行き届かせたりする兵站なんだ。特に俺のいた地域の軍隊は戦車など、いわゆる消耗品を使う装備が殆どで、これらの武器を動かす為には補給が必要不可欠だ」
「ふむ。しかし、それがそのリヤカーとやらに何の関係があるのだ?」
「ああ、コイツは人力で動かせ、尚且つ小さいから機動力も高い。なので戦車みたいな大型の車では行けない様な場所に物資を届けることも出来る、万能装備なのだ! ドヤァ」
「な、なるほど。そのリヤカーが万能な装備であることは分かった。だが配達する場所への行き方は解るのか?」
「あっ……」
リヤカーを使えば稼げると思った荷物配達だが、冷静に考えると俺はこれらの荷物を届ける場所への行き方は勿論、ギルドから宿に帰るまでの道すらまだ分からない。
「ふぃ、フィーナ、フィーナはこの送り状に書かれている荷物の届け先への行き方はわかるのか……?」
「大体はな。この町で荷物配達を依頼する所なんてたかが知れている」
「すまん……、行き方教えてくれないか……?」
「むぅ。さっき子供扱いした癖に……」
フィーナが不貞腐れる。仕方ない、一か八かで釣るか。
「……今日も昨日みたいに添い寝してあげるかr」
「任せておけ!」
(ちょれぇ……)
出来れば別の方法で釣りたかったのだが、この際致し方ない。俺は今日も本能と理性が戦う戦場へと赴くのだった。
「さぁ、シドー! 善は急げだぞ!」
「お、おう」
俺はやたらやる気のあるフィーナに流されるがままにリヤカーの持ち手に手を掛けて引っ張ろうとするのだが……
「ふん! ふんぬ! ふんぬぬぬぬぬ!」
思いっきり力を入れて引っ張るが少しづつしか動かない。積めるだけの物をありったけ積んだリヤカーの重量は楽に200kgを超え、これを一人で全ての荷物を配達するまで運ぶのはハッキリ言って無理。かつての自衛隊で迫撃砲を積んで引っ張ってた人達パネェ。
ここに預けられている荷物は箱のサイズの割に中身の荷物の比重がやたら高い。闇雲に積んで重量の把握を完全に無視していたツケが回ってきたな。
俺は適当に箱詰めされた荷物の送り状に書かれた品名を確かめる。すると「しゅわしゅわ細胞」なるアイテムの詰め合わせと書いてあり、その詰め合わせの重量が10kgくらいあると悟る。
他の荷物も同様で、魔石の詰め合わせとか、ポーション詰め合わせとか、やたらと詰め合わせ系の荷物が多い。てか、しゅわしゅわ細胞って何だよ……。品名の欄に食料品と書かれているが細胞が食べ物なのか、この世界は?
「やたらと詰め合わせ系の荷物が多いな。まとめ買いがこの町の流行りなのか?」
「この町で荷物配達を依頼するのは小売店や武器屋、レストランなどが殆どでたまに民家向けの物があるくらいだ。ちょっとその荷物の送り状を見せてくれ」
フィーナは俺の持っていた荷物の「しゅわしゅわ細胞の詰め合わせ」の送り状を見る。
「ふむ、これは今シドーの泊まっている宿屋、スプリング・インのエティからだな。恐らく宿屋の食堂で使う食材だろう」
「……なぁ、名前を聞く限りそれって食い物なのか? 何かおぞましい物のイメージしかしないのだが」
「しゅわしゅわ細胞を知らないのか? この町は勿論、他の地域でも子供のオヤツから酒のツマミまで幅広く食べられている食材で、冷して食べるとプルプルした食感と果物の味が合わさって旨いのだ。焼いて食べる食べ方もあるが、私は冷たいままの方が好きだな」
「な、なるほど。因みにフィーナは好きなのか?」
「ああ、貧乏な家庭の出の私にとって、安く食べれるこれは今も昔もコレを食べるのが楽しみだな」
「ああ、分かった。ならこの仕事が終わったら食べさせてやる。宿屋に届けるなら、今日食堂に行けば出してくれるだろ」
「本当か!? しかし、いいのか? その賃金は冒険者手帳を作って借金を返すための資金ではないか」
「俺は下手に縛られるのが嫌いでな、ガリアンさんも稼いだ金を全て寄越さなくてもいいと言ってくれたからへーきへーき。それに食事くらい好きにしたいし、手伝ってくれたフィーナへのお礼だ」
(……正直どんなのか見てみたい)
「ほ、本当だな!?」
「ああ、だから今日は別の布団でn……」
「ならしゅわしゅわ細胞は要らん」
即答かよ。ブレねぇな、この娘。しゅわしゅわ細胞ってゼリーみたいな物か? でもゼリーを焼いて食べるとか想像できん、さすがファンタジー世界……。
俺は再び「しゅわしゅわ細胞」の詰め合わせが入った箱をリヤカーに積む。だがこのままでは引っ張れない為、俺は元居た時代の地球にあった、電動アシスト付き自転車を召喚する。
この自転車は強力なモーターを内蔵しており、ペダルを漕がなくてもボタン1つでバイクみたいに進んでくれる優れもので、航続距離は50kmにも及ぶ。充電の問題もあるが、これは召喚能力で好きに出し入れ出来る物だから、バッテリーが切れたらまた新たに出せばいいだけの話だ。
(……この能力、戦う為ではなく商売するための能力じゃないか?)
そして召喚した自転車をリヤカーに結んで多目的万能人力輸送車改め、|多目的万能自転車付人力輸送車に改造する。本当は自衛隊で使われている偵察バイクを出したかったのだが、この世界にはないエンジン音を出しながら走ると余りにも目立つ。
それに大通りには結構な人が居るし、スピードを出しすぎて通行人に当たるのが怖い。なのでゆっくり走れる自転車を選んだ訳だ。
「シドー、リヤカーとやらの前に結びつけたこれは何なのだ?」
「ああ、これは自転車という乗り物だ。荷物満載のリヤカーは流石に引くのがキツい。だから自転車でリヤカーを引く高等テク、チャリカーの出番って訳だ」
「チャリカーか……。本当にこんなので引っ張れるのか?」
「まぁ、見てな」
俺は自転車のハンドルに取り付けられた「オートラン」にモードを切り替える。すると自転車はモーター音を鳴らし、後ろのリヤカーを引っ張りながら進む。
「よしフィーナ、リヤカーに乗ってくれ。道案内頼む」
「わっ分かった。では失礼するぞ」
フィーナはリヤカーの荷台の前辺りに俺が作ったスペースに乗り込み、荷物を集積している倉庫を後にする。
「凄いなシドー。これだけの荷物を積んだ荷台を楽に引っ張るとは」
「そうか? 元居た所にはこれ以上の輸送能力を持った乗り物が沢山あるぞ?」
「なんか、頭痛くなってきたぞ……」
「はは、それは俺もこっちに来てから同じだ。しゅわしゅわ細胞ってどう考えてもヤバい物しかイメージ出来ん」
「ふむぅ、一度見せた方がいいな。おっと、積んだ荷物の送り状で一番近いのはノリエス宅依頼の「マラカイトロッド」だこの路地を左に入ってくれ」
「わかった」
俺は自転車をフィーナの指示した路地へ向かって走らせる。路地はかなり狭く、軽自動車が入るのが精一杯の細さだ。だが小回りの利く自転車とリヤカーなら楽に通れる。
「ここだ。シドー止めてくれ」
「あいよ」
俺は自転車を停め、リヤカーに積まれた「マラカイトロッド」と呼ばれる杖を取り出し、送り状の名前と表札の名前が同じことを確認してからドアをノックする。
「はーい」
「すみません、ノリエスさんのお宅で間違いないでしょうか? お荷物が届いておりまして」
「荷物? ああ、マラカイトロッドですね! ありがとうございます」
そう言ってノリエスさんは杖に貼られていた送り状に受け取り済みのサインを記入して俺に渡す。こう言った習慣があると、日本の宅急便の配達スタッフの仕事そのまましているみたいでココが異世界たという実感が沸かない……。
「確かにお渡ししました。では」
「はい。この暑い中ご苦労様です~」
俺は初の配達物を無事に届け、フィーナの指示の元、次の目的地に向かってチャリカーを走らせる。今度は「エルラート商会」の依頼品のポーション詰め合わせだ。
「ごめんくださーい」
「おう、誰かと思ったら町を救った次の日に借金を背負わされたシドー殿ではないか!」
「……え? 自分の名前ってそんなに知られてるんですか!?」
「あたぼーよ。むしろこの町の商人連中の中じゃ知らん奴はおらんわい」
「は……はぁ……」
せめて 「町を救ってくれた旅人」くらい言ってほしいものである。俺はボソボソと独り言を言いながらリヤカーからこの店の注文品である、ポーションの詰め合わせが入った来箱をフィーナと共に店の中に入れる。
「どの辺に置けばいいですか?」
「おう、オメーさんの立っている隣にある箱の上に積み重ねて置いといてくれ! お? フィーナも一緒に居るのか?」
「はい。シドー殿が道を知らないとの事なので案内を……」
「ん? フィーナはこの店を知ってるのか?」
「ああ。エルラート商会はこの町の冒険者達にとってはポーションや旅の携帯食を始めとするアイテムを取り扱っている、いわば冒険者の生命線だ。私も打倒依頼や護衛依頼をギルドから受けた後、ここで準備を整えているからな」
「フィーナはウチの店でもかなりの上客だからな。おっと、自己紹介がまだだったな。俺はこのエルラート商会を運営している「ゲルシャー」だ。よろしく頼む! しかし頼んでた物がこんなに早く届くとは思わんやったぞ」
「はい。シドー殿のリヤカーと自転車という乗り物のおかげで沢山届けることが出来るので、この仕事だけ稼ごうと思ったそうです」
「ほぅ。変わった場所から来たと聞いていたが、この仕事を専門でやろうとは変わってるのぅ……」
話を聞くと、この世界の町中の物流というものは、事前に頼んだ物を倉庫に集積してから配達されるという所は地球の物と似ている。
だが運送会社という物は町中にはなく、冒険者がその日の酒代や食費を出したり、仕事に行く人らがその職場まで向かう道線上に配達先がある時に寄り道がてら届けるという物らしく、俺みたいに専門でやろうと考えた人はまず居ないらしい。
なので依頼した次の日の朝に届くこともあれば、1ヶ月以上掛かることも有るそうだ。その為、この町の人々は基本的に品揃えの豊富な小売店や露店で食料品や生活雑貨などを買っているそうだ。
だが例外として、他の地域から取り寄せた物は民間でもこの様な形で配達されるという。これ等の荷物の大半は商人やレストランのスタッフが売り物に加工したりするための素材や他地域の名産品が占めるらしい。
「自分は川端士道と申します。改めて宜しくお願いします、ゲルシャーさん」
「おうよ! オメーさんは聞いた話では冒険者手帳の存在すら切らないらしいな。だったらこっちで分からんことも沢山あるだろう。その時は遠慮なく俺に聞いてくれ!」
自己紹介を終え、俺はさっき届けた荷物の中身であるポーションについて教えて欲しいと思った。この店が冒険者の生命線となっているなら、この店で売っているアイテムについて教わる事は今後俺が冒険者登録を終え、旅に出るときに有益な知識となるだろう。
「ありがとうございます。なら早速1つ聞いてもいいですか?」
「おう、なんだ?」
「今届けたこのポーションって何に使うんですか?」
「そんなことか。だったらこっちに来てくれ」
俺はゲルシャーに案内され、恐らくこの店で厨房として使われているであろう場所に案内される。そして彼は包丁と何かの液体が入った青い容器を取り出し、包丁で自分の腕を切りつけ、傷口から血を流し始める。
「ゲルシャーさん!?」
「まぁ、見てなって」
そんな驚く俺を見ながら彼は例の青い容器のキャップを開けて傷口にかける。すると彼の血まみれの傷口がどんどん再生され、あっという間に元通りになる。まるでガマの油みたいだ……。
「こいつはさっきみたいな切傷やかすり傷を治してくれる物でな、この他にも飲めば多少の体の不調は治るな。まぁ冒険者連中はもっと派手な怪我をする事が多いので、コイツより強力な「マナ・ポーション」をメインに使っているな」
「すごいですね! 私の居た地域では人間の持つ回復力に依存する方法が主に使われてますから」
怪我だけではなく飲めば軽い病気も治してくれるとか、地球ではチートアイテムもいいところだな。てか、それもうポーションじゃなくて万能薬じゃん。
「そこのフィーナも職種的に怪我をしやすいからな、依頼を受けた時はうちで必ずポーション系の物を買っているぞ。何時でも買える珍しいモノじゃねぇからオメーさんも冒険者になったら備えで持っておくことをオススメするぜ」
「教えて頂きありがとうございます。その時は世話になります」
そいやフィーナと混浴させられたり、添い寝させられた時も思ったが、彼女の肌はとても剣士という如何にも敵のど真ん中に突っ込んで体が傷だらけになりそうな職種とは思えない程綺麗なのはこのアイテムのお陰だと認証する。てか、こんな便利アイテムが何時でも買えるとか、便利すぎはしないか?
「……シドー、そろそろ行かないと日が暮れるぞ。まだ二件目の荷物しか届け終わってないのに、話ばかり聞いていると日がくれるぞ」
「っ!? もうそんな経ったのか!? すみません、まだ仕事の途中なのでこれで失礼します!」
「おう、きぃつけろよ!」
俺はゲルシャーと別れフィーナと共にチャリカーへと飛び乗り、次の目的地へと向かう。寄り道で時間を食ってしまったが、ウィスカの人々の温厚さから配達業務の滑り出しは好調で、順調に荷物を届けていくのだった。
そして後に人々は俺の荷物配達をする姿を見て、こう呼んだ。「バイトライダー」と。
現在序章改訂で話数を削るか難儀しています。なので本編の投稿ペースの方が上がるかも知れません。




