始めます!
今日から私(宮地志帆)は高校生です……
桜舞い散る4月の上旬、今日も剣道部の道場からは激しい竹刀のぶつかり合いが聞こえていた……。
「おーい、葵ちゃん! もっと激しくあたりに行って」
剣道部には部員が4人、しかも全員女子というなんとも珍しいこの高校、県立竹森高校は男子7対女子3の割合で男子校から共学に変わってまだ3年だ。その中でもこの剣道部は昔から続く伝統的な部活だったが、3年生が卒業して女子が4人というとても少ない人数となってしまった。
「雪ちゃん、もっと動き早く! 」
この打ち合いの稽古を行っている二人、雪風佳奈と蒼風葵は同じ二年でどちらも竹森の二大美女と言われている。
雪ちゃんは肌が白く目鼻立ちがよく、ショートヘアで高身長とモデルのような風貌、それにこの竹森高校の理事長の孫だ。一方葵ちゃんは身長にはコンプレックスを持っているがこちらも目鼻立ちが整っていてツインテールの美少女で、結構おてんばだ。ちなみに今教えてくれているのはコーチの春川祐美さんだ。
「お前たち、これからもがんばれよ……」
この元気のない言葉を発した先生、小室蓮二は高校全国三位の実力がある短髪のイケメンでもないかブサイクでもない普通の先生だ。
「あれー? むろりんもう戻ってきたんだ 」
「校長先生はなんておっしゃっていましたか? 」
気の抜けた葵ちゃんの言葉といかにもお嬢様の話し方の雪ちゃんは顔が青ざめていた先生に質問してみた。
「俺、学校やめなきゃならないかも……」
「……昨日の夜、スーバーに買い物に出かけたらいつの間にか迷ってしまって、なんとかスーパーに辿り着いたと思ったらヤンキーにからまれてしまって、殴られそうになったから近くにあったプラスチックの棒で対処してそのまま帰ったんだよ。」
「突っ込みたいところはあるけど、とりあえずそこまでの話なら別に問題ないじゃん」
もっともな意見を言った葵ちゃんに、すごい形相で先生は叫んだ。
「その時に倒した相手が隣の高校の理事長の息子だったんだよ」
広い道場の隅で先生が嘆いているときに、男子新入生が二人、見学に来た。
「こんにちは、ここって剣道部で合っていますか?」
コーチはとりあえずその二人に道場の中へ入ってもらい、その間に先生に質問した。
「あの、向こうの新入生さんになにをすればいいんですか? 」
とても暗い雰囲気の先生は少し不気味な笑みを浮かべながら、
「それなら、あの二人に実践を見てもらおっか 」
暗くどんよりとした空気の中に甲高いコーチの声が割って入っていった。
「雪ちゃんと葵ちゃん、防具つけて試合してくれない?」
笑いながら二人はオッケーサインを出して道具部屋に入っていった。
程なくして戻ってきた二人は、なんだか別人のようにみえた。
「なんだか、気合い入ってるな 」
新入生二人、神崎俊と石田祐介は少し緊張した様子で戦いを見ようとしていた。すると不意にコーチが話しかけた。
「二人とも、剣道やったことある? 」
「はい、中学の頃三年間剣道部に入っていました」
こう答えたのは俊だった。割と身長が高く眼鏡をかけた、どちらかというと勉強の方で生きてきたような顔立ちだ。
「僕も、二年生からだけど剣道部に入ってたよ」
なんとも間の抜けた祐介は身長が低く155センチしかない。目鼻立ちもなんかふんわりしている。
「あんたたちの先輩の動き、しっかり見ときなよ」
コーチの声に従って二人の緊迫した雰囲気の試合の方へ目を向けた。
「審判は私がするから、どちらかが一本をとったら勝ちよ」
コーチの審判とともに、二人がお互いを見合いながら開始の合図を待っていた。
「これより、雪風対蒼風の試合を始める。時間は3分間、よろしくお願いします」
大きい力強い声でコーチがスタートを切ると二人の竹刀がぶつかる激しい音と道場に響き渡る声で始まった。
「テヤァァァァ!」
その瞬間、二人の気迫で道場全体が凍りついた気がした。
「やっぱり強いね 」
佳奈がつぶやくと、葵も少し怒りも混じった笑みを浮かべながらつぶやいた。
「この部最強はあなたでしょう 」
「なんかあの二人の周り黒いもの見えない? 」
祐介が俊に話しかけると、俊はあまりの二人の気迫に圧倒されて声が聞こえなかった。我に返った俊はあまりの凄さに少し笑ってしまった。
「先輩ってやっぱりすごいね 」
打ち合いが長く続き佳奈の集中力は尽きかけていた。集中力が揺らいだ一瞬をついて葵は面を打った。
「メェェーン! 」
「面あり、一本! 」
新入生二人は、たった3分間の試合がとても長い時間に感じた。試合が終わった二人の面を外した姿はとても凛々しく見えた。