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神様って辛いのう。

作者: 海月 くらげ

久し振りな神様じゃ。

今回もバリバリ働くぞい。

前にも話だが念の為にもう一度ワシの仕事の説明をしておくとするかのう。

ワシは死んだ者に来世を選ばせる仕事をしておる。

以後お見知りおきを。


ここまでが台本じゃ。

早速仕事に取り掛かるとするかの。

言い忘れておったがこの仕事はそれほど愉快なものではないぞ?むしろ辛い仕事なのじゃと、覚えておいて欲しいものじゃ。


今回の相手は8歳の少女じゃ。

え〜と、死因は…と、事故死じゃな。その少女が飼っている犬の散歩中にバスが歩道に突っ込んできて亡くなったそうじゃ。ちなみにじゃが、突っ込んだバスの運転手は悪気があった訳じゃない。悪気があったら殺人罪じゃがな。ただ、キツ過ぎる労働で身体が疲れておったそうじゃ。それでも人と犬を殺めたのは間違いない。


「あいなは、しんだの?」


その少女は、あいなと言う名前らしい。


「残念ながらその通りじゃ。」

「じゃあ、ここは天国なの?」

「天国…ではないがの、似たようなものじゃ。」

実際、天国なんてないらしいぞ。ワシはここしか知らんが、天国は聞いた事がない。地獄の話はよく聞くがの。


「ポチ、ポチは?ポチも死んだの?」


ポチ、恐らく一緒に亡くなった犬の事じゃろうが、こんな少女に真実を伝えてもいいのじゃろうか?

あぁ、でも真実を伝えるのがワシの務めか…。


「お主と一緒にな。」

「そんなぁ…ポチぃ…死んじゃやだよぉぉぉ!」


少女は泣き叫んだ。無理もなかろう。

ワシは慰める事しか出来なんだ。

生き返らせる事なんてワシには到底出来ん芸当じゃ。


少女が泣き止むまでかなりの時間を要した。

泣き止んだのでワシは本題に入る事にする。


「お主の来世を決めよう。」


少女が目をパチクリさせる。


「らいせって何?」

来世から説明せんといかんのか…骨が折れるわい。

説明しないと始まらないので簡潔に説明した。


「簡単に言うとじゃな、生まれ変わりみたいなものじゃ。」

子供に説明する時はよく使うセリフじゃ。


「じゃあ、あいなはポチになりたい!」


い、犬になりたいとはまた変わった事を考えるのじゃな、人間とは。


「いいのか?他の人間にもなれるのに、犬で。」


「うん。あいなはね、ポチと暮らしてね、楽しかったんだ。ポチにありがとうって言いたい。ウチに来てくれて、ありがとうって。あいなと居てくれてありがとうって。でもね、ポチはそう思ってくれてるか分かんない。分かんないからね、次は私がポチになって、あいなと居て楽しかったか知りたい。」


「それでいいのじゃな?」


「ワン!」


少女はまだ犬になっていないのにワンと鳴いた。


さっきはあんなに泣いてたのに。今度は鳴いた。


でもまだ目は腫れていて、やっぱり目が赤くて、少女は少女なりに頑張っておるのが目に見えて分かって、ワシは辛かった。


何故こんな優しい子が、こんな若くして死なねばならんのじゃ?何故そんな辛い仕打ちをするのじゃ?本物の神様がいるならば救ってやって欲しいわい。


「よし、じゃあワシが責任を持ってお主をポチにしてやろう。」


「ワン!ワン!」


「今のお主とは2度と会う事は無かろう。これでさらばじゃ。」


「ワン!」


ほら言ったじゃろうに。この仕事は辛いだけなのじゃよ。


☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆


今日はもう一つ仕事があるのでこのまま付き合ってもらうとするかのう。

おっと、逃がしはせんぞ?


では今回の来世選択者の登場じゃ。


「ワン!」


犬か…犬も別に珍しいが今回が初めてではない。

この犬はさっき来世選択者である、あいなの飼い犬で名前はポチ。


「さて、お主は死んだ訳じゃが。」


「ワン!」


何故かワシは犬語が分かるらしい。今のワン!は、知ってるって意味じゃ。


「お主は来世を選べる権利があるのじゃ。」

「クゥーン?」

(来世とは?)


お主も分からんのか…。そらそうじゃな。


「いわゆる生まれ変わりじゃ。」

先程と同じ説明をした。

「クゥーン。」

(なるほど、理解した。)


ほう?口調だけは一丁前じゃのう。人間に例えると30歳程度なのじゃが、厨二臭いのう。

とにかく話を進めるとするかのう。


「話が早くて助かる。では誰になりたい?何になりたい?」

「ワンワンワン!」

(自分はあいなになりたい)


飼い主と同じ事を言う。


「それは何故?」

「ワン、ワンワンワン」

(自分はあいなに飼ってもらえてそれはそれは幸せだったのだ。一緒に居てくれるだけで嬉しかった。楽しかった。自分はなんて良い人に飼ってもらえたのだろうと、よく考えたものだ。自分はあいなに言いたい。自分はあいなと居られて最幸だったのだと、自分より幸せな飼い犬などいないと。でもそれは自分だけかも知れない。自分の散歩に行った所為であいなを死なせてしまった。自分がいなければあいなは死ななかったかもしれないのに。自分はあいなになって、自分と居て本当に幸せだったのか、本当に楽しかったのかを知りたい。)


最期の最期まで飼い主と同じ事を言う。


「大丈夫じゃ、お主の飼い主は先程お主と全く同じ事を言っておったわ。」

「ワン!」

(そうか、それは素直に喜べることだ。)


「これでお主が、お主の飼い主に生まれ変わる理由が無くなったのじゃが、それでもお主の飼い主になりたいのか?」

「ワン。」

(無論だ。)


「そうか、ならばワシも止めはせん。今のお主とは2度と会う事は無かろう。さらばじゃ。」


「ワンワン。」

(世話をかけたな。)


「この程度世話などと言わんわ。」


「ワン…。」

(そうか…。)


そう言ってポチと言う犬は去って逝ったのじゃった。



ふう、今日はいつにも増して辛かったの。

これがワシの仕事じゃ。

辛くなるのもワシの仕事。


ただ、まぁ、若い者が来るのは極力やめて欲しいものじゃ。ここは死後なんじゃから、歳を重ねてから来て欲しいわい。


こんな愚痴を零すのもワシの仕事。

どうもですです。くらげです。

犬語いいですね。ワンしか言わないのにあのセリフ量。ズルいです。

今回は少し感動する感じにしてみました。

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― 新着の感想 ―
[一言] このシリーズ好きです^^ 次も楽しみにしています。
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