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6【妹系侍女】は語る

忠誠と深秘の国、王を頂点とした国

王族・貴族・騎士・魔法使い・神官・庶民が生きる国


《3の国》といっても、さらにいくつかの国に分かれていて、そのなかでも一位の権威を誇る国っぽい国の高位貴族の妾の子として生まれた。産んでくれた母には悪いが、正直産まれてきたくなかったような立ち位置のあたし。本妻とその子供たちに虐待され、あたしは何のために生まれてきたのだろう……と何度も思ったものだ


そして父親が急死した、どうやら父は婿養子だったらしい。婿養子の癖によくもまぁ妾なんて作れたなぁなんて、別の意味でちょっと感心したものだ


家の血を引かないあたしと母は当然追い出され、スラムへと堕ちていく。ただ泣くだけの母にせめて嫡子をモノにすればよかったのに、なんで婿養子になんか身を任せちゃったワケ?避妊薬飲めばよかったじゃないと告げて、自ら娼館のドアをたたいたのだった


そしてそこでの第3の『母』との出会いが、あたしの救いとなる


どうせなら場末の娼館よりも高級そうな所にと思い、選んだ先は女将さん(マダム)の店。マダムがあたしに仕込んだのは『妹』という女の武器、男の庇護欲をそそる媚態と艶めかしく誘うギャップを。演技と言われればそれまでだが、その演技さえも演出の内だと理解して遊ぶ男向けとして


元々『妹』だったあたしには、少し舌足らずな喋り方で甘くしなだれかかる『芸』は合った様で、おじさま系の貴族様に売れっ子となった


ある程度経験を積んだあたしに、エロ侯爵家の専属侍女の誘いがあった。夜の奉仕込の侍女で、嫡子様の為の専用娼婦ということ。あたしは迷った、高位貴族なんて碌な人間ではないはずだ。けれども、年を重ねるごとに『妹』を売りにするには少々辛くなっている状態。同じ『妹』ならば、若い娘の方が新鮮で教え込む楽しみもあるだろう


ある程度お金は貯めた、思い切ってここで違う経験を積んで別の道を探すのも良いかもしれない。どうせ失敗したからと言って、元に戻るだけ。最後の『妹芸』を披露する舞台は、おもいっきり高級な場所で披露してやろう






「おにいさん、だ~れ?」

「護衛隊の新人だ。あんたが噂の『侍女』なんだな?」

「そ~だよ、夜のお供も兼任ちゅうで~す」


彼等と出会ったのはもうだいぶ前の事、護衛隊の新人と言っていたが、2人は侯爵家家臣団の下級貴族の男たち。騎士団で修行を積んで、主家である序列2位侯爵家へと帰ってきた、いずれは隊長の地位を得るだろうと言われている彼等。声をかけてきたのは、がっしりとしたいかにも戦士と言う感じの精悍な男、その隣で穏やかに微笑んでいる優男


「……どれくらいの地位になると、お前を抱けるんだ?」

「ストレートすぎだ、もっと婉曲に尋ねろよ」

「うっせ、お前だって気になるだろうが」

「まぁ、そりゃあね。男だし」


精悍な男は随分ストレートに、優男は婉曲……ではないが穏やかに告げる。でも、その事って家臣団の人間であれば知っているだろうに


「ん~、『(おさ)』って付く役職なら、お供おっけ~なんだって。新人さんじゃまだまだだよ?」

「マジか」

「もしくは家臣団上位家令息の筆おろしなら、いいって侍女長様言ってた。……むふ、おにいさん、もしかしてど~て~?それなら、あたしが美味しくいただいちゃうよ?」

「残念、上位家でもないし童貞でもないな」


じゃあ残念、なんて立ち去ろうとしたら、思わぬ爆弾を落としてきた精悍な男


「三月後には隊長になってやるから覚悟しておけよ」

「そ。じゃあね、おにいさんたち」


内心焦っているのを隠しながらにっこり笑って立ち去る。あたしの何処に目を付けたのかわからないけど、今まで相手をしていたおじさまたちとは違う、若い『お兄さん』の欲の灯る眼にゾクゾクした


そして本当に三月後に隊長職へと任命されたその日に、あたしを抱きに来た男。まぁお仕事だし、いいんだけどね……。あ、1つ言っておかなければいけないことがあったんだっけ


「あのね、隊長じゃなくても副隊長でも、お供おっけ~なんだけど。……一応、言っておくね?」

「な!?それは副隊長にもお供するって事かぁ!!」

「求められれば、するよ~。だって『(おさ)』って付く役職だもん……」

「おっ前、お仕置きだ。悪い妹はお仕置きが必要だよなぁ?」


ちなみに同時に任命された副隊長とは、あの穏やかな顔をした優男。彼の親友である。主にその2人と嫡子様の夜のお供をしつつ、侍女として働く毎日だった。そしてその日常も嫡子様の私への興味が薄れる事によって、変化をもたらした




「1人1人だと面倒じゃない?私は同時の方が楽だわ……」

「う~、そりゃ侍女長様のお相手はいい年のおじさんだからじゃないですか~。あたしは若い戦闘職の男たちなんです~、体力的にむりですよ、無・理!!」

「まぁ、確かにどちらもがっつきそうなタイプよね……。ガンバッテネ~」

「うわぁん。侍女長様ったら、てきと~に言ってる~。酷くない?新人ちゃん!!」

「ガンバレ~」

「酷~い!!」


嫡子様が素人さんに興味を示し出したので、素人を雇い入れる事となった。もちろん身売りだ。彼女は手つかずの処女らしい潔癖さで、あたしの事を良く思っていなかっただろう。でも最近は慣れてきたみたいで、食事を共にしたり話をしたりしている


新人ちゃんは弟さんがいるという事なので、姉気質なんだろうなぁなんて思った


嫡子様のお供がほぼ無い状態の今、豊満系侍女様が引退の準備をはじめた。もともと彼女は当主様世代の方だから、そろそろ潮時……というか、彼女を狙っている執事長と庭師長の純愛っぷりがやばいと、皆が気付いた模様。もともと下賜する事によって、情報の漏えいを防ぐというのもあるのだろうけど、結婚適齢期も微妙に過ぎそうな彼等を一気にまとめてしまうそうだ。3人まとめて、ね


それを聞いて……あたしはどうしようかな、なんて思っている




「ね、3人でする~?」

「……誰だそんな知恵つけたのは?」

「侍女長ではないですか、あの方は複数専門ですし」


いや、侍女長は複数専門ではない。面倒だから3人でしているだけだ……、それって専門と言うのだろうか?護衛隊長はその精悍な顔を曇らせてあたしに告げる


「……お前、結婚して子供産んで、家族で暮らしたいと思うか?」

「ん~、どうかなぁ。かぞくってよくわからないもん……」

「結婚するなら俺と副隊長、どっちがいい?」

「う~ん……、どっちでも同じだとおもうかなぁ」


2人とも優しいし、同じくらい意地悪だ。彼等を侮っている訳ではないが、多分どちらもあたしを同じくらい大切にしてくれそうだ。……あ、これって2人とも好きなのに選べないよ状態じゃないか、天然ビッチはあたしの芸風じゃないのに


「家族ってわかんない、だから結婚しても上手くいかないと思うよ?」


だってあたしは妾の子、父には無視され母は泣くことしかできず、義母と義兄たちからは虐待だ。あれが普通の家族ではないことは解るし、この侯爵家だって普通とはほど遠い……すっかり慣れ切った侍女生活を終らせるほど、欲しいと思えるものなのか、あたしにはわからない。護衛隊長と副隊長は困った顔を見合わせて、そしてあたしに向き直る


護衛隊長は呆れたため息をついて、副隊長は苦笑いをしながら


「じゃあ、普通の家族じゃなくて、俺達なりの家族を作ればいい」

「本当は独占したいんですけどね、あなたが不安に思うのなら致し方ありません」

「お前と女を分け合うってのは、ムカつくけどな」

「それはお互い様ですよ」



普通の家族を知らないのならば、自分たちなりの家族の形を作ればいいなんて、なんて馬鹿な人たち




そしてあたしも大馬鹿だ、嬉しいと思ってしまうなんて!!

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