5【新人侍女】は語る3
侯爵家へお手付き有の娼婦侍女としてあがって数週間。いまだ、担当先である嫡子様に会ったことが無い。会いたいわけではない、むしろ貞操的に会いたくない方だ……、会わない訳にはいかないけれどもね。いまのところ上手くスルーしていると思っていたのだが、ただ単に屋敷にいなかったそうだ。なんだよもう!!
学外学習という辺境へ行ってサバイバルする授業らしい。そういえば小悪魔ファイブも行った事があるわ、罠を仕掛けられてケガさせられたって慰謝料払わされたっけ。低位貴族の令息だったからよかったものの、高位貴族だったら首が跳んでいたわ……いや罠は誰に対しても駄目だわ。やばい、小悪魔ファイブに影響されているぞ私!!
そんな男ばかりの女っ気なしサバイバルらしいので、帰ってきたら覚悟しておいた方がいいよ~とは妹系侍女さんの談。友達になれなさそうなんて思っていた割には、結構親しくなってしまった。喋り方はアレだが、さっぱりとした人なのだ
現在、使用人食堂で朝食中。朝から濃い話をしています……
「そうとうたまっているはず~、だからなんとか手で扱くか口に咥えてイかせるかして、何回か出しておいた方が楽かも~」
「なんですか、その高等技術は。無理ですよ、見た事もしたこともないですし……」
そういう事があるって言うのは知っていますよ、前の奉公先の侍女仲間から聞いたことはあります。口で慰めるとかなんとかかんとか、でも知っているから出来るかと言われると無理ですね
「あ、じゃあ、見る~?」
ぐっさりと腸詰をフォークにさしてニコニコと指を差し、これアレねなんて笑顔で仰る妹系侍女さん。あ、はぁ、アレですね……なんて返すと、それはもうねっちょりと解説をしてくれた。あらゆる手段で舐めあげた後に、パキンと齧ってもぐもぐ食されたゴクリと飲み込み、艶めかしく唇を舌で舐めあげると「美味し」なんてニッコリ。おぉう、これがプロの技術なのか、生娘なのでちょっと引くのは勘弁してほしいです……
少し目を見開いて微妙な間が空き、瞬きを繰り返す妹系侍女さん。なんだろう、それも技術のうちか?可愛い仕草で上目づかい……、自分には出来る気がしないとか思ったけれど
「あ、本物は齧って食べちゃダメだよ」
「そんなの事、言われなくてもわかっていますよ!!」
そんな気遣い、無用です。そうだよね~と言いながら、残りの腸詰も美味しく頂いた模様。皮がパリッとしていて美味しいですよね、この腸詰は
「おい、なんつー痛そうな食い方してんだよ……」
「あ~、護衛隊長。あたしのコレ痛くないもん、知っているでしょ~!!」
話しかけてきたのは、噂の護衛隊長。護衛隊長は当主様と一緒に出掛けるので、比較的朝は遅くていいそうだ。警備に関しては副隊長が指揮を取っているとの事。まだ副隊長には会った事ないけれど、これまたイイ男だと言うのは妹系侍女さんの談
「副隊長は~穏やかそうな顔しているのに、夜がはげしいの~。ぎゃっぷもえ?」
「明け透けに夜の行為で比較するのやめましょうよ……」
朝日が眩しい、爽やかな朝なのに
「え~、だって、序列2位の侯爵家だよ~。みんな優秀なのはあたりまえだし~、それ以外で比較するって言ったら……。うん、なにがある、のかなぁ?」
真面目に悩んでいるように見える妹系侍女さん、本気かどうかは判断できない。護衛隊長は彼女の隣に座り、自分でポットから茶を汲みながら言った
「当主様から伝言、嫡子様は帰還が遅くなるらしいぜ」
「え~、どしたの?ふくじょーし?」
「生きてるよ、ちゃんと。帰りの山道ががけ崩れで通れなくなったそうだ。被害者はいなかったから、そのまま道無き道を下るそうだぜ」
「新人ちゃん残念、嫡子様当分おあずけだね」
そんなに積極的に見たい方ではないので、曖昧に返事を濁した。そして他愛もない会話を交わしていると、食堂にまた来訪者が。穏やかそうな顔に武骨な大剣を佩いている男性……、もしかして噂の副隊長ではないかと予想すると大当たり
妹系侍女さんは笑顔で手を振り、ふくたいちょ~と甘えた声をかけると、副隊長は朗らかな笑みを向けてこちらへ歩いてきた。椅子へ座っている彼女の後ろに立ち肩に手を置くと、おはようございますなんて囁き攻撃を。おはよ~と返す彼女は潤んだ瞳で見上げると、そっと唇を寄せる彼
砂糖吐くわ。朝っぱらから、ちゅっちゅと軽い口づけの応酬ですね
「隊長、そろそろ当主様のお出かけだそうです。ホールで待機して下さいとの執事長の伝言です」
「了解。……副隊長、こいつを気安く口説くな。お前も甘えんな」
嫉妬心丸出しで、妹系侍女さんにでこぴんをくらわす隊長。なんですか、ここでも三角関係ですか?多すぎません?
食堂から退出する護衛隊長と副隊長を、ばいば~いと手を振りながら見送る妹系侍女さん。いや小悪魔系なんじゃないかと思いつつ、わが家の小悪魔ファイブは元気だろうかとちょっとだけ思った。小指の先ぐらいね。