表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/18

4【豊満系侍女】は語る

忠誠と深秘の国、王を頂点とした国

王族・貴族・騎士・魔法使い・神官・庶民が生きる国


《3の国》といっても、さらにいくつかの国に分かれていて、そのなかでも一位の権威を誇る国と言われている国に生まれたわたし、本当に一位なのかはわたしごときが判断できないのですが……


性的奉仕も含む侍女となって十数年、ゆっくり次代へと代わっていくのを感じ始めたわたしは今、岐路へと立っている。今では古参の侍女、当代様にも嫡子様にも閨へ呼ばれることはなく、夜を過ごす相手と言えば筆おろしをしてあげた少年たち


……今は立派な青年となった侯爵家執事長と侯爵家庭師長


屋敷へ上がった当時にはまだ見習いだった少年たちは、今ではすっかり立派に職務をこなす侯爵家の家臣となっている。わたしも当時はまだ見習いと言っていいほどの新人娼婦で、侍女の仕事と娼婦の仕事の両方をこなすのは大変だった


今では懐かしい思い出


侍女控室で新人さんに生暖かい目で見守られつつ、わたしは執事長様に腰を抱かれながら彼の部屋へと向かった。侍女長が言っていた通りに話してみようかしら?でも、若い訳ではないわたしとの間に子供なんて欲しいかしら?


彼の私室のソファに寄り添いながら座り、わたしは口を開く


「早くお嫁さんをもらって、わたしを安心させてくれないの?」


彼の頬をゆっくり撫でて、口から出たのはこんな言葉。どうしても、『お母さん』という立ち位置から逃れられないわたし、本当は『お母さん』なんていう年の差ではないのだけれどね。2歳年下の執事様は貪るようにわたしに口づけ、苦しいほど抱きしめながら


「あなたは私の『お母さん』なんかではありません。私が妻を迎えるのならば、それはあなただ……」

「序列2位の侯爵家の筆頭家臣でしょう、執事長様は。貴方も貴族ご出身なのだから、庶民とは……」

「私があなたの事を知らないとでも、思っているのですか?」


……やはり知っているのか、わたしの事を。まぁ高級娼婦なんて没落貴族の娘か、破産豪商の娘がなりやすい職業だし。実際侍女長も破産豪商の娘さんだから、わたしも同じような境遇だと思っていると思ったのだけど


わたしは没落貴族の娘だった。生まれた時からすでに没落していて、貴族らしい生活なんて侯爵家へ侍女として入るまで、見た事もなかった。ただ、気位だけは高かった母に礼儀作法と楽器演奏だけは仕込まれていたために、ただの娼婦ではなく高級娼婦として女将さん(マダム)に仕込まれたのだった


厳しくも優しい、わたしたちを可愛がって下さったマダム。私の『母』はマダムだけだと思っている。産みの母はわたしを売って、一時派手な暮らしを味わった後、似た様な職業に堕ちたと聞く


勿論低級の娼婦。礼儀作法や楽器演奏など、私と同じことができても年齢が違う。むしろ気位が高くて厄介者だと言われて、今はどうなっているのか不明。男と逃げたとか、病に倒れたとか、噂は聞くけれどマダムがわたしを完全に守ってくれたおかげで、借金を背負わされることもなくお仕事をする事が出来たのだった


本当に感謝してもしきれない、愛する『母』


産みの母ではなくそんな『母』になれるだろうか。いつも母親ポジションを演じてしまうのは、この2人の母の影響かもしれない。わたしは産みの母の様にはなりたくない、なるのならばマダムの様に……


実際この事をマダムに言ったら、大笑いされて「馬鹿だねぇ、私を手本にするんじゃないよ。もっと良いお前の思う理想の『母』になりなよ」なんて仰る。……私の理想は貴女なのです、血の繋がらない娼婦を厳しく優しく導いてくれた貴女の様に




ひとしきり体を重ねた後に、話を切り出してみる。荒い息を整えて、思い切って彼に問う


「執事長様、後で改めて時間を下さるかしら?庭師長と一緒にお話したいの……」


そう尋ねると、執事長様は顔をしかめてわたしに再びのしかかる


「それは庭師長を、彼を選んだという事ですか……。私ではなく」

「わたしに選べる権利など無いわ、昔からそのようなものなかった」


だから2人に選んでほしいの、そう言うと執事様は渋々だが頷いてくれた






「で、どうなったんですか~?」


侍女控室でいつもの情報交換兼お茶会。目の前には妹系侍女と貧相系男装侍女(なんて言ってごめんなさいね、もっと良いあだ名をつけなければ……)が目を輝かせて続きを強請る。この2人、相性悪そうだなと思っていたのだけど、意外といいコンビとなっていた


妹系侍女は見た目通り好奇心旺盛でぐいぐいとくる感じ、貧相系男装侍女は見た目興味ありませんと言う感じだが、瞳の奥は好奇心に輝いている



「2人の子供を産むつもり……、もちろん授かれば、だけどね」

「いいんですかそれで。執事長も庭師長も納得したんですか?」

「おふたりともって、やだ~、さんぴ~ですか~?さっすが~!!」


明日からは避妊薬を飲まずに、離れの侍女となることが決まった。今、息子の為にも屋敷の侍女を減らせないと渋った当主様も、侍女長のお願いには勝てなかった模様。マダムに連絡して新しい侍女を入れる事も視野に入れていると侍女長は言う


3人で夜を過ごすことは無かったけれど、一度に済ませた方が楽じゃない?という侍女長のアドバイスに従ってみようかなと考えている。……わたし、そういう特殊プレイしたことないのよね。大丈夫かしらと少々不安は残るものの、流れに任せてみようと思う






今までだって流されてきた人生なのだから。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ