17【侍女長】は語る2
時を少しさかのぼって、嫡子様のお休み2日目の夜の話よ
忠誠と深秘の国、王を頂点とした国
王族・貴族・騎士・魔法使い・神官・庶民が生きる国
《3の国》といっても、さらにいくつかの国に分かれていて、そのなかでも一位の権威を誇る国?の庶民として生まれた私は、現在序列2位侯爵家の侍女長である。『侍女長』と『当主の愛人』と『当主の弟の愛人』を兼任して、『嫡子の産みの母』であったりする波乱万丈な人生だ
それは、あのバカ息子が素人に興味を持ったことが発端だった
なんて心の中だけで思う。私はあくまでも産んだだけ、母と名乗る資格など無いのだ。いや、嫡子様も私が産み親だとは知っているけれど、けじめとして
嫡子様が気になっている例のツンツン系ご令嬢との交流はまだ健在らしい。一体誰なのか、まだ報告が上がらないと言う謎人物。侯爵家の敵対勢力なのかもしれない……そんなものがあればの話だが
「うちは政治にはそれ程かかわっていないからな。同じ経済系の序列4位か、借金抱えている某伯爵家か、豪商の何処かか……」
「敵が多いのねぇ……」
「それはしかたない、当主は女狂いのエロ侯爵だが、金儲けには異様に鼻が利く男だからな」
「自分で言ってしまうのね、エロ侯爵」
人肌依存症のエロ侯爵様こと当主様は、いまだに私を閨に呼び肌を合わせる。この屋敷に迎えられてからは、何故か当主様の弟君も一緒に複数プレイ。没落豪商の娘で、高級娼婦の私を取り合うアホ兄弟である
一応当主様に雇われた身なので兄優先となるのだが、それでもかまわないと弟は口説く。なにより侯爵家と兄に忠誠を誓っている奥ゆかしい弟の唯一の我侭だという事で、同衾を許されたという経緯
我侭で済まされる問題なのかと思うが、まぁお仕事だと思ってお供中
「あぁ、そう言えば侍女たちが嫡子様の学生寮へお供したいと言っていましたけど」
「神聖な学び舎に娼婦をか?……さすがに、なぁ」
「可哀想だから恋のお手伝いをしたいそうです。打つ手がない今、それもアリかなと思われますけど?」
「う~ん」
さすがに自分が世間にどう言われているか知っている当主様は、難しい顔をするのだが、私を挟んで反対側にいる弟君が
「執事の誰かとあの男装新人ちゃんと侍女1人……なら、新しい家具の搬入とか言って何日か入れても、構わないんじゃないでしょうか?」
「家具の搬入ね……、たしかに高位貴族にしては部屋の付属家具しか使っていないからな、息子は。さすがに壊れたとか、あぁ、それよりも寄付の方が良いな。もうすぐ息子も卒業だ、うん、もうそんな年なのか」
当主様はその計画を弟君に託し、新しい家具と副執事と妹系侍女と新人ちゃんを学校へと送り込んだ。何かわかるといいわねぇ……
それと同時に当主様は何か計画を思いついたようで、先代執事長様と執事長と3人でひそひそ企み中だわ。人手が少し足りなくなった為に、間者こと清楚系侍女を当主様の部屋付に一時的に召し上げた。完全に餌をちらつかせて罠にはめる気だわ
そしてわかりやすく、ある日忽然とあのこは消えた
「何を餌にしたんでしょうね。あのこ、もういないかもしれないわよ……」
どうせどこの間者か知っていて、まるで先代執事長の亡くなった妻の様に、あえて内に入れたんでしょう?
「どうかね、妾ぐらいにはなれるんじゃあないかな。見た目はまあまあだし、それほどひどい結果になるような”餌”でもないし……」
「あのこの雇い主もわかるし?」
「それは既に解っている、上の家だよ」
くすくすと笑う当主様、上って事は序列1位の侯爵家のところなのね
「まぁ、そんな事より面白い話があるよ」
「私が聞いても良い話?」
「勿論、君に聞かせたい話なんだ」