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16【新人侍女】は語る10

嫡子様は目を見開き、驚きを隠せない様子だった


「なんだと、新人の妹だったのか彼女は……」

「みたいです」


えぇ、私も知りませんでしたよ。まさか5つ子弟の中の1人が妹だったなんて……。戸籍はどうなっているのだ、庶民ならともかく貴族は貴族簿に載るはずだろう、性別だって……。そう思ったが私はそういえば1度も見たことが無かったな。授業料の入金だって入金番号を知らされて、そこにただ振り込んでいただけだった


いつの間にかに生まれていた5つ子、本当に小さい頃しかあったことが無かったから、その頃は男も女も解らないものだ。恐らく面倒で全員に同じ服を着せていたのだと推測したが、3番目に聞いたところやはりそうだったらしい


その為淑女教育もされず、まれに性質の悪い使用人に悪戯されそうになった時、必死に守ったのは他の4人の弟たち。その為に4人は唯一の女兄弟である3番目を大切に大切に囲っていたらしい


……唯一ではないだろう、私だって女兄弟だろうと思ったのだが、家にいなかったからね。仕方ないわ


嫡子様は深く考え込んでいるようだ、それを見守る私と副執事さんと妹系侍女さん。フッとため息をついて呟く


「男爵家か……、しかも没落貧乏貴族。少し家格をあげた方が……」

「もう妻にする気満々なんですか、坊ちゃん」

「よし、貧乏貴族ならば持参金をつけて買い取ろう。それならば文句はないだろう」


副執事さんの指摘をものともせずに、そう言う嫡子様。なんだろう、女は買うものとでも思っているのだろうか彼は。あ、そう言えば買っていたんだっけ当主様(ちちおや)は……エロ侯爵家め!!






そこからの嫡子様の行動は早かった。家臣団の年の合う娘さんたちをお付として、3番目を令嬢学校へと転校させた。あ、娘さんたちはもともとそちらの学校に通っていたそうだから、主家の命令で転校って言う訳ではないらしい。よかった、3番目の事で人生計画狂わせてしまったら悪いしね


淑女の立ち振る舞いを身に着けさせ、知識や芸術に触れさせ、貴族として憶えるべき人間関係を、政治を、経済を勉強させる


……まるで、高級娼婦にするかのごとく。なんて思ってしまった、普通の淑女学校なのに。侯爵家の毒されているぞ、私!!


私の感想はともかく、兄弟たちに囲まれてぬくぬくとした生活に慣れきっていた3番目は疲弊した。もともと成績も普通だったらしい3番目は、もう無理だと泣き暮らしているらしい。自分で侯爵家に上がりたいと言ったのだから、もう少し頑張りなさいな……


嫡子様は妹をどうする気なのだろうと思う、もしかしてだまされていたのを怒っているのかもと思ったが、特にだましていることはなかった事に気が付く……。思わせ振りにウジウジしていただけの、本物の女だったわけだし


そして、むしろだましているのは私だと気が付く


や、やばい……。当主様の命令とはいえ、特に男だと言っている訳でもないですけど、明らかに性別を偽っているのは私の方だった!!






町のカフェで1番目と待ち合わせをした。弟とこんなところで待ち合わせなんて、初めてだわ……。改めてじっくり見ると、母に似て美人な弟だ。ヒョロい訳でもなく、いつの間にか大人の男になっていた弟


私の視線に何を思ったか、俺は本物の1番目ですよとか言ってくる。そんなの見ればわかるわよと返すと、意外そうな眼差しを向けてきた。何故か解るのよね、どうしてかしらね?


まぁそれはともかく本題へと入った


「姉上はいつまで男装侍女を続けるつもりなのですか」

「当主様が辞めろと言うまでよ。で、爵位継承はしてくれるんでしょうね。一応母上のご実家で管理していただいている事業もあるし、いつまでも頼っていたら母上が再婚できないって手紙が来たわ……」

「あんな子沢山の年増、欲しがる家があったんですね」


爵位は1番目が継ぐことになるだろう、隠されるように大事に囲っていた3番目以外は成績が良いらしい。漠然と成績は優秀だとしか聞いていなくて、それを上回るほどの問題児だと言われていたから、不安に思っていたのだけど、ここは押し付けて逃げるに限る


今まで一緒に生きてきた兄弟なのだから、任せても大丈夫だろう


「持参金欲しさか、熟女好きなんじゃないのかしら?」

「まぁ、あの女がどうなろうとどうでもいいですけれど。卒業後は俺が爵位を継ぎますよ」

「そう。では、届けを出しておくわ。あとはあなたに直接連絡がいくでしょう、弟たちと話し合って自分たちで決めなさい」


あと少し、あと少し働いて入金すれば学費はもういらないのだ。大した事業ではないけれど、自分達で稼いで頂戴ね。食べる分は稼げるはずだと、ほっと息を吐きお茶を口に運ぶ


「3番目も淑女教育が終わったら、家に帰るから」

「侯爵家は嫁に迎えてくれないのですか?」

「解っている癖に、もう少し賢い囲い方があったでしょうに……。まぁ気が付かなかった私も大概だと思うけれどね」


3番目は淑女学校での想像以上の駄目っぷりに、取りあえず無事卒業するまで侯爵家で、金銭面などの面倒を見てくれるとの事。お付の方々もそのままお世話をしてくれることに


しかしいくら嫡子様が興味を抱いたご令嬢でも、高位貴族の家の身内として迎え入れられることはなかった。当主様はそこまで甘くなかったし、嫡子様も同様の意見だった。わかります、馬鹿な子ほど可愛いと言うのは幻想です。多くの家臣団を抱えた高位貴族の責任が果たせないですからね


「縁があったからって学びの機会を与えて下さって、ありがたいわ」

「学費の支払いが1人分減りましたからね」

「それは本当に助かるわ。これでもう少し家格の低いお屋敷でも、お給料が間に合うし。なんなら他国で職を探したっていいしね」


1番目は不思議そうな顔をして、侯爵家を辞めるのかと聞いてきた。多分辞める事になるだろうと私は答える。いくら当主様の命令とはいえ性別をうやむやにしている状況は、嫡子様に申し訳ないから


いくら嫡子様が勝手に誤解しているとしても、訂正しなかったのは私だし……。しかしあんなに女性に関して嗅覚が発達しているのに、私にはその嗅覚が発揮されないのか?


胸だってささやかながらあるのに、ある意味失礼ですよ!!

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