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14【3番目】は語る

微弱なBLを感じるかもしれません、ご注意を。

忠誠と深秘の国、王を頂点とした国

王族・貴族・騎士・魔法使い・神官・庶民が生きる国


《3の国》といっても、さらにいくつかの国に分かれていて、そのなかでも一位の権威を誇る国の男爵家の五つ子の1人として生まれた僕、本当に一位かはこの国を出たことが無いから知らないけど


両親は不仲で物心ついた時にはすでに冷え切った夫婦だったし、年の離れた姉は学生寮へと入っていたので、ほとんど顔を合わせたことはなかった。僕の家族は2人の兄と2人の弟だけ、わずかにいた使用人にいやいやながらも育てられたという環境で、信じられるのは一緒に生まれた兄弟たちだけだった


成長し学校へと入学すると、何もしないくせにやかましい母の監視がなくなって、僕たちは学生生活を満喫した。悪戯で物を壊しておいて触れた人を驚かせたり、虫を集めて女生徒を驚かせたり、穴を掘って教授を落としたり……。常に5人でつるんで遊びまわっていた


その所為で姉に金銭面での迷惑をかけていたのだが、僕はそこまで気が付かなかった。恥ずかしながら学校での食費や生活用品などの必要経費は、国庫から提供されているものだと思っていたのだ。だってお金がかかるなんて、誰も教えてくれなかった……、そして愚かな僕は知ろうともしていなかったのだと気が付いた


そのきっかけをくれたのは、女生徒用の制服を着て歩いていた僕に声をかけた序列2位侯爵家の嫡子さま。まるで騎士の様に髪を短くしていて、珍しい人だなと思ったのが第一印象


「見かけない顔だが、新入生なのかなお嬢さん」

「……はい」


全然新入生ではないのだけれど、この人もしかして全女生徒の顔を憶えているのだろうか?


「少し髪が傷んでいるな、折角可愛いのにもったいない。少々値は張るがオイルを使って手入れをしてみろよ、なに、ちょっと甘いものを我慢すれば買える値段だ。下位貴族ならば、余計気を使った方が良い。その内高位貴族が頼まれもしないのに貢いでくるぞ」


そういって笑って去って行ったあの方。ちょっと興味を持って購買部で買ってみようとしたのだが、店員さんが僕の学生証を見て言ったことに衝撃を受けたのだった


「この学生証では入金額が足りていなくて購入できません。現金を用意するか、学費ランクを上げるよう総務に手続きをしていただき、差額を入金していただくようお願いします」

「学費ランク?」

「失礼ですが、学費は最低ランクでのご入学となっていますね」


ランクごとに1ヶ月で使える金額が決まっているそうだ。それは食堂での飲食や文具や参考書など、学校内での買い物に使える合計金額。タダだと思ってちょっといいメニューを頼んでいたのだが、どうやらそれを購入するには上限に引っかかってしまうらしい


……あぁ、だから甘いものを我慢しろって言ったのか。学生証での買い物は、限られた予算をどう使ってくかという試験なのだと教えてくれた店員さんは続けて言う


「学校は小さな社会を経験するために全寮制となっています、自分の使うお金の管理をちゃんとしていますか?今は練習期間です、失敗してもある程度は大目に見てもらえます。私達事務員がご忠告申し上げることができますが、成人し実際の社会に出た時、忠告なんて誰もしてくれません。むしろ金を多く使わせ、返せなくなるほどの借金を抱える事となるかもしれません。その時売るのはあなたの命かもしれません」


衝撃だった。総務に行って詳しい話を聞いたところ、学費ランクは最低ランクで申請してあった。しかもその入金元は家が半分、姉が半分支払っていたのだ。家は事業を展開していて、そこまで不自由していないはずなのに、何故姉から半額入金されているのか。姉は家の事を何もしないと思っていたのだが、内情は姉が働かないと僕らの学費が払えなかった……休んでいる暇など無かったというのが真実


兄弟たちはそれを知っているの?僕だけ知らなかったの?


通常は入学前の案内冊子で知る、基本中の基本らしい。全然知らなかったのは教えるのを忘れたのか、故意なのか


「どうした、髪の手入れよりも甘いものの誘惑に勝てなかったのか?まぁ、それもしかたがないな。女性は甘いものにめっぽう弱い、そして男はそんな女性にめっぽう弱いものなんだぜ」


ぼんやりとたたずむ僕。授業以外では女性用制服を着てうろつくようになった。そしてたまに声をかけてくれるようになったあの人。彼は笑って僕の手に瓶を握らせる、それはあの時買えなかった髪用のオイル。確かに少し高価な品物だったが、貴族ならば決して買えない値段でもなかったのに


でも僕は買えなかった、何も知らないで好き勝手にふるまっていたから


彼は女性の髪の手入れにまで詳しかった。どんな香りが好きなのかわからなかったから、微香の物にしておいたと彼は言う。自分で買うときは好きな香りの物を選ぶと良いと、アドバイスまでしてくれた。彼の大きな手が僕の髪に触れる……、なんだかむず痒い気分になった






「3番目、最近女子生徒の服で序列2位侯爵家の嫡子に会っているんだって?随分面白そうなの引っかけたな、さすが俺たちのきょうだい。あの女好きで有名なエロ侯爵家嫡子もメロメロかよ」

「女好き?」


なんだ知らねぇの?と2番目が言う。2番目は生徒の事情に詳しい、誰にどんな悪戯をするか計画するのはいつも2番目


「このまま焦らして見ろよ、悲しそうにうつむいて、たまに微笑むんだ。それ以上進んだら駄目だぞ、下手に正体知られてしまったら、向こうは序列2位侯爵家だ。あっという間に潰されるからな……」

「そんな事しなければいいじゃない、あの人に失礼だよ」

「ばっかだなぁ3番目。あいつんち本邸に専用の娼婦を飼っているんだぜ、普段女を好きにヤり放題で遊んでいるんだから、たまには新鮮な娯楽を提供してやるんだ。あいつだって思い通りに行かないヤツをめずらしいと思って楽しむだろうし、それを見て俺達も楽しむ。持ちつ持たれつってやつだ」


違うと思う。けれどあの人に会うのは少し嬉しかったので、騙しているつもりはなかったけれど逢瀬を続けた。あまりしゃべらないで、彼の話を聞いている。たまにじっと見つめると


「誘っているの、可愛いひと?」


そう言って笑う。この人は2番目が言う様に、飼っている娼婦とやらにも同じことを言っているのだろうか?


それを……悔しいと思ったのは、どうしてなんだろう






そして父が事業の失敗で愛人と逃げ、母が実家に戻ったという。男爵家は当主が空位となり、僕たちの誰かが継がなくてはいけなくなった。それよりも学費の支払いはどうなるのだろうか、まさか全額姉が支払う事となるのだろうか?


それなら、僕は学校を辞めた方が良いのかもしれない。しかし僕に何ができるのだろうか、成績は普通、いつも兄弟たちに保護されていて、僕自身何もできない。前に店員さんが言っていたように、ここは小さな社会、ここで何も出来ていないのなら、本物の社会に出たら?


「姉貴が新しい仕事を探し始めたよ、あちこちの侍女世話人に繋ぎを取っていて……」


外の情報に詳しい4番目が言う。やはり姉が学費を払うつもりなのだ


「おそらく序列2位侯爵家に奉公することになったらしい」

「マジかよ、姉ちゃんとうとう身売りか?エロ侯爵家嫡子の専用娼婦かよ、うっわ、人生捨てちゃったね~」

「あの侯爵家で奉公していたと知れたら、まともな嫁ぎ先は無いな。俺達にまとわりつかれても面倒だし、早めに縁を切っておくか……」


5番目がまるで人事の様に言うと、1番目が酷い事を言う。姉があの方の……、そう思ったら涙があふれてきてしまった。口に手を当て嗚咽を抑える、僕は姉を思って泣いているのか、彼を想って泣いているのか、判断が付かなかった


もう会ってはいけないと思った。学外学習で遠くの山にサバイバル演習へと行くこととなり、これを最後の逢瀬にしようと思った。サバイバル荷物の中に女子生徒用制服を入れていくのは、凄く変だと思いつつ……。体力の少ない僕はサバイバル中、兄弟たちに守られながら演習をこなす、時には悪戯で目立って駄目な僕を隠してくれたり。兄弟たちの悪戯は僕の為なのかもしれない、という事は遠回しに姉に負担をかけているのは、僕の所為だ……今更気が付く馬鹿な僕


「綺麗な……星空ですね」

「こんなところに、何故?」

「……会いたくて、……ごめんなさい」

「謝ることはない、こんな遠くまで。……少しは期待してもいいのかな」


返事はしないでうつむいた、だって答えられるわけがない。心の中でごめんなさいと謝り続けたのだった、やはり離れたくない。少しでいい、お会いしたい




こんな中途半端で未練ばかりの僕の事が姉にばれるまで、あと少し。

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