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13【新人侍女】は語る8

という訳でターゲットのご令嬢は貧乏かもしれないと、私たちは偵察に出ることとなった。まずは無難にカフェに行ってみる、主に低位貴族が使用するカフェへと。懐かしいなぁ……私もよく利用した場所、……主にバイトで


「っていうか~、情報少なすぎなのに、みつかるかなぁ~?」

「こういうところは、恋の噂が飛び交っているものです。低位貴族は高位貴族との玉の輿を狙うために情報戦を繰り広げているのですよ」

「なるほど~、まずは耳を澄ますのね~」



某伯爵家の令息がどこそこの子爵家令嬢と付き合っているとか、誰かを孕ませたとか、おいおい学生だろう君等。たしかに恋の噂を求めてきたが、そればっかりしか話していないなんて爛れていると卒業生は思うぞ~


「そうそう、奥宮の女王がとうとうお隠れになったそうよ……。知り合いの事情通からの情報」

「これでやっと陛下も安心できるわね。これからはもっといと高き方々の教育に力を入れて欲しいわ、国民として……」

「他国の教育関係の学者さんを招いていると聞いたわ。教育に力を入れるために、こちらの学費もだいぶ安くなったしね、女王様様よ」


なに、学費が安くなっている?……後で庶務に詳しい話を聞きにいかなければ!!


ここって学費プラス学生の生活費を事前に払わなければいけないのよ。以前にも言ったが、その限られた生活費を上手くやりくりして、金銭感覚を養おうと言うのだ。魔法で金額を込められた学生証を提示して買い物をするのが基本だから、現金で払う事は自己管理ができていない証拠で恥ずかしいんだよね……。小悪魔ファイブはその辺ちゃんとやっているのかね?


学費の事ばかり頭にある私に、妹系侍女さんは身を乗り出して聞いてくる


「今のどういう意味?」

「国王陛下の妹殿下の話。傲慢姫って言われてたらしくてね、昔、他国でやらかしちゃって奥宮に幽閉されたって。その後も良くない噂ばかり流れて、……通称『奥宮の女王』ってよばれているの」

「えっと~、馬鹿にしているんだよね、それ」

「痛烈な皮肉よ。だって王族として公務を一切はたしていない女王様ってどう思う?」

「……駄目駄目。しかも女王っぽいだけで、女王でもなんでもないってこと?」

「正解」


これ結構有名な話、気に喰わないことがあったら国外へ追放されてしまうんだって……。いや、むしろ私は追放の方がよかったのかなぁ


こんな感じであまり成果が無かったのだが、何もしないよりはましという事でカフェ巡りしまくりな日々を過ごす結果、お前ら何しに来たんだと嫡子様から呆れられるほど、学内カフェ通となりました。あれが美味しかったこれが美味しかったと夕食時にご報告。おそれ多くも夕食は4人で一緒に食べている、朝は時間がまちまちなので夕飯だけだけど、折角人がいるのならば食卓を囲みたいとの嫡子様のお言葉に甘えている状態です


私も久々に家族の食卓っぽい雰囲気を味わっている、実際こんな食事風景を味わったことなどないけどね……


「これ、美味いな。食堂のか?」

「えぇ。女子寮の食堂のテイクアウト品だそうです」

「あぁ、なるほど。だから食べたことが無いのか……、薄味で素材の味が際立っていていいな」


とか言いながら食事中


「嫡子様~、そろそろ例のご令嬢に会わせて下さいよ~。ずるい~」

「ずるくはないだろう……、まぁその内に……」

「こちらの受け入れ体制だって変ってくるのですから、お早目にご紹介していただけるとありがたいのですがね」

「……副執事、出すぎた真似をするな」

「はいはい、失礼いたしました」


嫡子様はサラダを黙々と口に運ぶ。やはりまだ片思いなのでしょうか……、超笑えるッ。そう思った途端に、スープが気管の方に入ってしまいました、ゲフゲフと咳をすると妹系侍女さんが背中をさすって下さいました


「ほら、新人ちゃんが嫡子様ダサ~って。笑いすぎて変なトコロに入っちゃったよ~」

「いや、ゲホゲホ、そんな事思って、ゲフ、いませんから。ゲホゲホ」

「妹系が思っているんだろう、新人の所為にするなよ。俺にだって一応考えがあるのだから……」


どんな考えなんだかと副執事さんがぼやくと、五月蠅いと副執事さんの肩辺りを、軽く拳で殴りつけた。エロ嫡子様の年相応な反応に、ちょっと和んでしまった私でした






今日も今日とてカフェ巡り


あまりの噂の無さに、本当にそんな令嬢いるのか?まさか嫡子様の妄想なんて疑いつつ、一旦寮へ帰ることとした


まぁ侯爵家の優秀な密偵が探せないものを、あっさりと見つけられるわけがなかった。妹系侍女さんとやはり尾行するしかないのか?そんな感じで喋りながら寮へと帰宅する事に。木の覆い茂った細い道を歩いて行く、ここはゴミ捨て場につながる道がある為、高位貴族は通らないし裕福な下位貴族も通らない道なのだ。私は通っていましたよ、貧乏下位貴族だからね!!


「……あれ?」


どこかで見たようなご令嬢が細い道を歩いている、というか……小悪魔ファイブ3番目ではないか。しかもあいつ何故女装をしている!?いや、私は男装中だけどさ。また何かの悪巧みだろうか?趣味なのだろうか?


木の陰でその様子をうかがう、どうやらゴミ捨て場の隣の倉庫へと続く道へ向かっているようだ


さらりと風になびく赤味を帯びた茶髪……母親と同じ髪色で私も同じ色だ。大人と子供の中間らしく、可愛らしさの中にハッとするような艶やかな表情を浮かべる……これまた母親に似た美人、私は父親似なので顔は似ていない


なんだ、あのけしからん完璧な女装は!!


そう憤っていると、妹系侍女さんが慌てた様子で私のそでを引っ張る。あまりの衝撃に一瞬忘れていたが、彼女も一緒だったのだ


「新人ちゃん、嫡子様が来たよ!!」

「まじか!!」


まさかまさかまさか、お相手のツンツン系ご令嬢って


「ご令嬢、今日もご機嫌斜めなのかな?」

「……」

「声も聞かせてくれないのかい、つれない人だね」


弟だった…………




緩く3番目を抱く嫡子様。耳元で囁いている所為か、内容は聞こえない。強請るようなしぐさで唇を近づける嫡子様を、顔をそらして切なそうに胸を押して距離を取ろうとする3番目。なんだお前のその女子力は……


「……」


あぁ、何を言っているのかわからないが、完全に口説いている……それもかなり真剣に。これはやばいですよ。嫡子様を惑わせるのは小悪魔ファイブ3番目でした、はい私の弟です。これは早いうちに弟達とつなぎをつけて手を引かせなければ……、後は土下座の練習か?


「新人ちゃんの家の人?」


妹系侍女さんは小声で聞いてくる、なんて鋭い人なんだ。だって髪色が同じだからって彼女は言う、そこまで珍しい色でもないのに何故わかったのだ。そう心の中で動揺していると


「むふふ、新人ちゃんオドオドしすぎだよ~。わかりやすいもん」

「左様で……」

「新人ちゃんの妹ちゃんなら話が早いわ~、嫡子様のこと聞いてあげてよ。あの様子じゃあ、脈ありだと思うし~。姉妹丼になる前でよかったね!!」


なんてにっこりされた。し……しまいどんデスカ。……弟とでも、そう言うのですかねぇ?




一時の逢瀬を終えて、3番目と嫡子様は別れる


妹系侍女さんは嫡子様を、私は3番目を追って移動する。しばらく尾行してから声をかけようとしたところ、急に後ろから腕を掴まれた。驚いた私は悲鳴をあげようとするが、大きな手が口を押さえ、フム~なんて情けないうめき声しかあげられなかった。まさかの危機に足技を繰り出そうと、振りかぶりそのまま後ろを蹴り上げようとしてのだが、あっさり防御されてしまった


私を捕獲したそれは、冷たい声で告げる


「なにしているのですか、姉上」


足を掴んでいる男に目を向けると、男はニヤニヤとしながら言う


「ねぇ、姉上ってば身売りしちゃったんだってね」

「……2番目、なの?」


あぁ、10歳の頃の面影は残っているが、すっかり男になっている弟。さらに2人、植込みの奥から出てきて私を囲んだのだった



「もうご主人様とヤっちゃった?」

「うっわ、処女売っちゃったんだ。どれくらい貰ったの、お金」

「……アンタら、歯ァ食いしばれ。お前らの悪戯さえなければ、前の勤め先で働けば十分だったのよ!!」


4番目と5番目だった、すっかり大きくなって……なんて考えている暇はない。弟たちに捕まえられそのまま胴上げされる。小柄な私は高く高く宙を舞い、こいつらはクルクル回る私を見てゲラゲラと笑う。わっしょいわっしょいと声をあげながら……、わっしょいってなんだ、オラァッ!!


その時異変に気付いて、慌てて戻ってきたであろう女装した弟3番目が声をあげた


「もう、止めて。姉上に迷惑かけるのは……、僕をかばうのはもういいのッ!!」


なんて女子力高くのたまった。

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