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12【新人侍女】は語る7

「はぁ?いらねぇって言ってんのに……」

「当主様のめいれいで~す」

「です」


嫡子様の休日が終了し、学校の寮へとお戻りになる日が来ました。私と妹系侍女さんと副執事の3人が一緒に出向することとなりました。表向きは卒業近い嫡子様の寮部屋の、寄付代わりの家具一新の雑務に行くのですが、真の目的は例のツンツン系ご令嬢の恋路を応援するためです


私の操の為にも頑張りましょう……ではなく恋の応援です


嫌そうな嫡子様に病弱系侍女さんは、申し訳なさそうに声をかける


「わたくしもついて行きたかったのですが……、不忠をお許しくださいませ」

「お前は仕方がないだろう。屋敷から出ずに、おとなしくじいやと共に居ろ」


何でしょう、いわくありげな風情ですがスルースルー。学生寮といってもうちの小悪魔ファイブとは違って、特別寮と言う広めの部屋に住んでいるらしい。しかも1人部屋。通常は2~3人部屋で小悪魔ファイブは2人と3人で別れているらしい。実際には見た事ないけど、母からそう聞いていた。そう言えば全然会っていないな、あの年頃の男の子はちょっと会わないだけで、凄く変わったりするのだろうか……


私が憶えている小悪魔ファイブは、10歳ごろかな。本当に会っていないな、見ても気が付かないかもしれない。そう考えると酷い姉だわ、金だけ渡して……いやいや、金を稼ぐのだって大変なんですからね


アイツらも十分酷いし、主に弁償代とか、賠償金とか、弁償代とかッ!!




そして嫡子様と共に学校へと着いた。もちろん私も卒業生なので、校舎の配置など大体知っている。そして何故か妹系侍女さんは女子学生の制服を着ていた……何プレイ?


「学生服なんて初めて~。嫡子様、どうかしら~?」


くるりんとまわってスカートをひるがえす、可愛いけれども妹系侍女さん、あなた年齢が……。同じように思った嫡子様が一言


「阿保か、隊長と副隊長に見せてやれよ……」

「もう見せてきたもん、激しくされちゃった~」

「あいつら、獣か……。じゃなくて、寮専用のお仕着せがあるから着替えてこい。で、うちの家紋入りのタイを付けておけば、下級生からは絡まれないだろう……多分」


現在この学校には嫡子様よりも家格の高い方は、序列1位侯爵家の三男殿と長女殿だけだそうだ。家紋入りならその家の所有物とされ、むやみに傷つけられる可能性は少なくなる……ただし、所詮は使用人の為お貴族様には逆らえないのだった


なので、基本的に寮から出ない方が無難。外との連絡係は副執事さんがします、この方は家臣団出身で執事長の弟さんで子爵家令息様だそうですよ


「新人くんはどうせ男装しているのだから、外に出てもいいと思うけどね」

「いえ、完全に男装している女ですよね、私?」

「その割には嫡子様は気付かないのよね~、なんでかな~?」

「そうなんですよね、逆におかしいと思うのですが、今は置いておきましょう」


嫡子様はそのまま講義へと出かけていったので、私たちはこっそり作戦会議中。妹系侍女さんは学生服のまま情報収集をするか、嫡子様の尾行をするか、副執事さんが尾行するか。それとも


「私、ここの卒業生なんですよね。大分前のことですがもしかして憶えている教授がいるかもしれません。さらにこの年で制服は辛いです……」

「え~、新人ちゃんなら大丈夫じゃない?主に胸の辺りとか~」

「そうですね、とても成人しているとは思えません。試しに1日だけお2人で行動してみましょうか」

「副執事さんさりげなく酷い。……それに、弟達が在学中でして」

「あたしもだよ~。顔憶えていないけど」


結局、学生服は免れましたが、男装は継続中です。序列2位侯爵家の家紋入りタイをしめて、ひとまず寮内を統括する寮監様にご挨拶。寮の規則や使用人規則を確認し、立ち入り禁止区域や他の高位貴族子息の情報をいただく。どうやら嫡子様に敵対……というと言い過ぎかもしれないが、表だって反抗しているような生徒はいないようだ。危惧していた序列1位侯爵家の三男殿と長女殿は、憎々しく思っているものの、手が出せない状態だそうだ


早い話が、勉強で精一杯なのだと寮監様


「学校では考査の成績を発表することはないけれども、クラスが成績順なので成績を落としたら誰の目にも明らかですからね」


現在家格の一番高い貴い方ですから、それはもう能力的に凡人だとは知られたくないでしょうねぇとは、寮監さんの談。すごく楽しそうですね……怖ッ


という事はいわゆるハニートラップという危険性は無いのかな。女を宛がって成績を落とすと言う感じの陰謀とか。そもそも嫡子様非常に優秀だそうで……、エロなのに。エロは関係ないか……スイマセン


嫡子様の部屋に戻ってきて昼食をとりながらそう聞くと、まぁ序列1位侯爵家の陰謀だとしたら、諜報部がすぐ察知できると副執事さんは言う


「序列1位なのは公爵位から落ちただけで、有能だから侯爵家の序列1位になった訳ではないんだ」

「それは知りませんでした」

「6代前が王族から臣籍へ降りた方で、公爵位を賜ったのだ。そして3代前のご当主様が『やらかして』、嫡子が女性しかいなかったのを幸いに公爵位を返上し侯爵に降りた……という態になっている」

「一応、自ら返上したっていう形にしたんですね」


何をやらかしたんだか、現在公爵家は1家のみ。こちらは優秀な政治家を輩出している家で、ここの方々がいなければこの国は立ち行かなくなる……と言われている。現在の王陛下はわりとまともだから、当分はこの国も安泰だと思う


「貴族って面倒くさいのね~」


そう妹系侍女さんは言う。私もそう思う、《3の国》は役割の国なのに役割をこなせない高位貴族がいるのか。……いや、たまにはいるだろうけどさ、この国は特にそういうのが目立つんだよね。なのに《3の国》一番の権威を誇っているなんて、お笑いだ。出身国を紹介する時に、本当に1番かはわからないと言うニュアンスを含める人が多いのは仕方ない事だと思う


「何を言っているのですか、貴女は……」

「あたしには関係ないも~ん」


そんな感じで食後のお茶を終えた後、嫡子様の学生証の使用履歴を問い合わせに副執事さんは庶務科へ行くこととなり、私と妹系侍女さんは品ぞろえを見るために寮近くの購買部にそれぞれ向かった


日用品の銘柄のチェックをする。もし当主様が扱っている品物ならばここで購入するより送ってもらった方が安上がりだから。貴族なのにせこいとか言うなかれ、学校内でどれだけやりくりできるかは成績に響く。ここでは現金はほとんど使われない、魔法で使用上限金額を書きこまれた学生証で買い物をする


魔法で使用履歴が残るので、足取りがわかるとある程度の犯罪抑止力にもなる。学生と言えど、たまにいるのよ権力をかさに着てカツアゲとか、盗みを働く者とか……。副執事さんはその履歴を利用してご令嬢との密会現場を特定したいらしい


ちなみにいままでどうしてやらなかったのかと言えば、ただ単に嫡子様が止めていたから。学内に入らないと情報を提示してもらえないからである。学外持ち出し禁止情報という事




3時のお茶の時間、お互いの情報を交換する。ちなみに本日のお菓子は購買部で購入


「あいかわらずストイックと言うか……、嫡子様は余計な買い物はしませんね」

「借りられるものは全て借りると言う感じでしょうか、ここにある本も図書館から借りたものばかりですし」

「う~ん、ほぼ食費?食材費……って自炊しているのかなぁ~?」


嫡子様の部屋を見回すとあまり物がない。ノートは大量にあるけれど、美術品的なものは一切ない。男の方の部屋ってこういうものなのだろうか?すくなくとも私が以前働いていた侯爵家では、絵や壺くらいは飾ってあったのになぁ……


「ん~、香油を買っているねぇ~。高級品ではないけれど、品質のいい銘柄のだ~」

「こ、香油!?」


妹系侍女さんは書類を指さし言った台詞に、無駄に反応してしまった。さすがエロ嫡子様は学内でも……と、アワアワしている私を見て彼女はにっこり笑ってこう返した


「あ、エロい事に使うやつじゃないよ、髪とかに塗り込むヤツ~。微香のやつだし、嫡子様が使っているのかなぁ?」

「あの短髪に使うかどうか、……ちょっと席を外す」


副執事さんはそう言いながら席を立ち、洗面所へと足を向けた。少しガサガサしたあと部屋へともどると


「それがカギになるかもしれませんね、香油も空瓶も見当たりません。まぁ、学外学習へ行くのにたまたま切らしている……という事もあるかもしれませんが」

「その香油を付けているオンナノコがあやしい~。でも、お手軽商品だし使っているコ多いんじゃないかなぁ~」

「……それが狙いかもしれません、下手に高い物を贈って嫉妬にさらさせるのを回避したか」

「それさえも買えない貧乏なお家の令嬢……とか」


私も貧乏令嬢ですからね。侍女は見た目の清潔感も重要ですから、甘いものを我慢して髪油を購入したものですよ。

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