11【清楚系侍女】は語る
忠誠と深秘の国、王を頂点とした国
王族・貴族・騎士・魔法使い・神官・庶民が生きる国
《3の国》といっても、さらにいくつかの国に分かれていて、そのなかでも一位の権威を誇る国の庶民……のなかでも最下層のスラムに生まれた私。一位の国なのにスラムなんてあるんだなんて言わないでよ、わかるでしょ?
気が付いたら路地でうずくまっていたわ。そんなところで庇護者もいない立場の子供が、どうなるかなんてわかりきった事。盗みなんて日常茶飯事、暴力なんて当たり前、あまりにも幼すぎて性的な虐待を受けなかったが、時間の問題だと思った。世の中にはそういう変態は多いの
だから
結局そういう子供たちをまとめていたチンピラに、場末の娼館に売られた。そもそも何の関係もない他人に、なんで私の身柄を勝手に売ることができるのか謎。しかも金は全部アイツのモノ。磨かれて、処女を金持ちに高く売りつけられても私には一銭も入らない。私の体は私のモノのはずなのに、誰もが勝手に搾取していく
こんな世界、壊れてしまえばいいのに
そして私は実行に移した。煙草の火の不始末でボヤが起きた時、ちょっとカーテンに広げただけよ。私が付けたわけじゃないから、あぁ怖かったみたいな顔して避難した時に、ちょっと客の財布を拝借したり?拾っただけよ、金に名前は書いていないし。財布自体は火の中に投げ捨てたけど、火に動転していただけよ、ね
ボヤが半焼くらいになった辺りでやっと消火できたわけ、でもそんな煙くさいボロボロな娼館に来るわけないし、新しく建てる程裕福でもなかったその店の主人は、娼婦を全部別の店に売って逃げちゃった
また他人に勝手に売られた私。でも運が良い事に買ってくれた娼館は元の場所より裕福で、ありがたくそちらへと移ったわ。その時知り合った旦那さんが凄く金持ちで、なんと序列1位の侯爵様なんだと言った
なんでそんな高貴な方が、中の下みたいな安い娼館に来ていたのかはしらないけれど、私の清楚そうな見た目と強かな性格が気に入ったと、身請けしてくれた。やはり私の体なのに勝手に売買されているわね……もう何回目かしら?
そして付け焼刃の淑女教育を施されて、序列1位侯爵家の遠縁の貧乏貴族の養女となり、遣わされたのは高級娼館。あらら、あっという間に立場が元に戻ったわよ
どういう事かと尋ねると、ここは旦那さんが目の敵にしている序列2位侯爵家の経営する店なんだって。嫡子様用の娼婦をお屋敷に雇うという事で、どうにかして食い込んで情報を流せ、あわよくば嫡子をモノにしろなんていうのよ。まぁ、私だってお貴族様の奥方は無理でも、妾くらいならいけるかもしれないなんて考えて、おしとやかに立候補したわ
まさか、侍女の真似事までさせられるとは思わなかったけどね
もう凄く面倒くさい。侍女長は当主の愛人の癖に仕事にうるさいし、私と同じ嫡子専用の妹系侍女はきゃぴきゃぴうるさいし、同じく嫡子様専用の病弱系侍女は辛気臭いし……。情報流せって言われても、執事たちのガードが堅いし無理。当主に擦り寄ろうとしても、護衛たちが側に寄らせもしない。娼婦としてお屋敷に上がったのに、意味ないじゃん!!
嫡子は学生寮で暮らして、休みになるとお屋敷に戻ってくるから、閨に呼ばれる機会も少ない。その上、気になる令嬢が出来たとか言って、さらに侍る機会が減ったのだ。これではただの侍女ではないか
清楚な見た目で夜は凄いんです、でも実は優秀な間者な私の立場はどうしてくれるのよ。だからこっそり避妊薬をすり替えて、嫡子の子種を狙う事にした。その方が楽に金になりそうだし、え、旦那さん?別に義理はないし~身請けって言っても、私の知った事じゃないわよ
没落手前の貧乏下位貴族の養女を経由して、結局娼婦やってんだから
そんなこんなでギリギリしている時、新しい娼婦が入荷した。しかしその娼婦は素人、金が無くて身売りしてきたらしい。詳しい事はよくわからないけど、新人なら上手く操られるかもと、避妊薬を飲まずに妊娠すれば金になると教えてあげたのに……
「ご遠慮申し上げます、薬はちゃんと飲みます。できれば侍女の仕事だけしていたいので」
身売りしてきたんじゃないの、アンタ?
そして嫡子様が学外学習を終えて3日の休みを屋敷で過ごしている。大分溜まっているとの事、久々のお供で子種を搾り取ってやると意気込むも、風呂で病弱系侍女と一発イタして、夜はすでに妹系侍女の予約済みときた。なんでよ、あんたら早すぎるわ!!
明日こそはと思っていたんだけれど、閨のお供を迎えずに就寝してしまった嫡子。なによあのエロ坊っちゃん、溜まってるんじゃなかった訳?
そして最終日の3日目、執務室に使用人を集めて当主様は言った
「息子の学生寮に使用人を派遣することとなった。妹系侍女と新人くんの2人に、さらに副執事をつける。屋敷の使用人が減るから、元侍女たちに復帰してもらう事となった。ただし元侍女との性行為は禁止だ、以上」
何てことだ、また先を越されたの?そもそも、嫡子は学校に使用人を連れて行かなかったのに、今更派遣ってどういう事?
「見分けはつくと思うけれど、念の為差別化を図るためにお仕着せの色を変えたわ。通常のボルドーではなく、ネイビーが元侍女ね。悪戯は禁止、それぞれの旦那に殺されるわよ」
ちなみにすでに引退が決定している豊満系侍女も、ネイビーのお仕着せを纏っていた。その姿に執事長と庭師長が熱い視線を送っている、けッ、リア充め。《4の国》の言葉で今流行っているらしいわよ、人生が充実している人の事なんだってさ
「寮の備品が古くなっているそうだから、寄付代わりの家具一新だ。采配するための副執事、掃除担当の侍女2人は心して励む様に」
派遣組3人は深く礼をし、了解の意を当主に伝えた。満足げに頷き当主は続ける
「他に質問があれば、発言を許すぞ」
その言葉に挙手する私。何故新人が選ばれて私は選ばれなかったのか意見する。私の方がキャリアも実力もある、処女には負けないと自負しているのに。その疑問にあっさりと答えた当主
「新人くんは正規の侍女学校に通い、高位貴族の屋敷で働いていたという実績がある優秀な使用人だ。清楚系、君は侍女としての仕事ができないだろう。茶を正式な作法にのっとって淹れられるのか?その時に合わせて、正装が用意できるのか?……まぁ、そういう事だよ」
「……」
「それとも何かできるのかな」
そりゃ学が無いのは生まれがそうなんだもの、仕方ないじゃない。娼婦として雇われたのだから交合が上手ければいいじゃないのよ。あぁ、やだやだやだ、もう超美形の金持ち青年が愛をささやいて、私じゃなくちゃダメなんだとか言ってくれないかしら、けッ
心の中で毒を吐きまくっていたら、あらびっくり、私にも運が向いてきたみたい!!
当主は少し考え込んで言ったの
「清楚系、せめて当主執務室の掃除を担当しなさい。あとは備品の補充。手が足りなくなる今、引退した元侍女たちを私の側に上がらせることは出来ない。元私専用だからと言って、今は臣下の妻たちだ。発作が出た時抱ける者がいないと、窒息してしまうのも困るからな」
「は、はい。かしこまりました、誠心誠意お仕え致します!!」
まさかの当主の種が搾り取れるかもしれない、もしくは侯爵家の内部文書を入手できるかもしれないわ!!
くすくすくす、さすが私ってば優秀な間者、運が味方したようだ。