10【新人侍女】は語る6
嫡子様休日1日目、昨夜は妹系侍女さんとお楽しみだった嫡子様
朝食後、学外学習の経過を当主様たちに説明中。執務室では侍女長様がつくとの事で、侍女控室で少し休憩する私と妹系侍女さんと病弱系侍女さん。情報交換と言う名の世間話をしております
「やっぱり、嫡子様と噂のツン系ご令嬢は進展なしみたい~。なんか恋い焦がれちゃってて、きゅんきゅんしちゃった~」
妹系侍女さんは昨夜のお供でそう聞き出した模様、病弱系侍女さんは心配そうにため息を吐く
「ここまでくると、嫡子様を応援したくなってきますわ……」
「ね、ね、学校に行っちゃう?高位貴族は~寮でお世話係として侍女とか侍従とか連れていけるんでしょう?」
「嫡子様が寮暮らしくらいでは使用人は不要って、拒否なさりましたからね……」
「そうなのよね~、嫡子様意外と何でもできる『はいすぺっく男子』だからね~。エロいけど」
そうなのだ、エロいのだ。ツンツン系ご令嬢もそれが嫌なのかもしれない、少なくとも私だとしたら嫌だなぁ……。それ以外はちょっと乱暴な言葉使いだけど、見た目はいいし面倒見のいい人だからモテる要素はあると思う
なにせ侯爵家の嫡子、金持ち、金持ちなのだ。大切な事だから2回言わせてもらった私は貧乏貴族です
妹系侍女さんは余程嫡子様の片恋にきゅんきゅんしてしまった様で、自らお手伝いがしたいようだ。確かに普段エロ丸出しの、エロの権化である嫡子様が純情片恋なんて、はっきりきっぱりな妹系侍女さんにはじれったくなって、見ていられないのだろう
「言うだけ言ってみようよ~。嫡子様の純愛なんて見てて面白……じゃなくて、応援しなくちゃ!!」
「完全に娯楽扱いじゃないですか……。でも、ツン系ご令嬢と上手くいけば、私の操も守られるやも……ブツブツ」
「妹系侍女さんも新人さんも、本音が漏れていますわよ?」
おぉっといけない、つい……。でも、嫡子様の恋が成就すればいいと思うのも本音ですからね
そんな感じで嫡子様休日2日目、何かご協力ができないかと侍女長様にお話してみたのだが、なかなかに難しいとの答え
「妹系侍女は、学校に行ったら血族と出くわすかも知れないでしょう?会いたくないでしょう、弟君と妹君には……」
「……あたしは平気だよ?多分、いなかった者となっているはずだし~。顔なんておぼえていないんじゃないかな~と思いま~す」
「それに病弱系侍女は屋敷から出てはいけないでしょう。貴女は屋敷の中でしか生きられないのだから……」
「……そうですね、今まで死ななかったからとはいえ、次もそうだとはかぎりませんわね」
なんだか深刻そうなお2人。そうよね、高級娼婦なんて訳アリな人がなっている場合があるだろうし。もしかしたら高位貴族の血族なのかもしれない。これは深入りしてはいけない話題だ、本来なら口を挟まない方が良いのだろうけど、言っておきたいことがある
むしろ私が言うべきことなのだと口を開く
「あの~、そもそも神聖な学び舎に娼婦を連れて行っちゃうのは、アウトではないでしょうか?」
「あ」
「あ」
「まぁ」
「「「忘れていたわ」」」
皆さん、自分の立場をすっかり忘れていたのだ。私だって身売りしたんだから、人の事は言えないけれどね。……皆で深い溜息をついてお茶を一口。まぁ、恋のお手伝いをするのは全然かまわないんですけど、侍女と言う名の娼婦軍団が大挙して駆けつけたら、お相手のご令嬢が逃げてしまうかもしれません
私なら逃げるわ、だってプロに「嫡子様の寵を奪う女め!!」とか言われたら怖いです、逃げます、絶対。しかし、なにか行動してみるのも良いと思うのも事実。侍女長様は少し考え込み、ため息と共に仰った
「でも進展が望めない今、一応当主様に進言しておくわ。病弱系は無理だとしても、妹系と新人なら……」
そんな事を言いながらさらに考え込みだした侍女長様。やばい、私もメンバーのうちにさりげなく入っている。私だって小悪魔ファイブがまだ学校にいるのに、ちょっと強引に話を変えてみよう
「そういえば、清楚系侍女さんはよばれないのですか?この集まりに……」
「あ~、あれは間者だから自由に泳がせてあげなよ」
「あ、あっさりと言いましたね……」
「みんな知っている事だし、知らぬは本人だけって。そろそろ潮時かもしれないわよね、閨もそんなに良くないらしいし」
「左様で……」
「喘ぎがわざとらしいんだって、副隊長が言っていたよ~。隊長も萎えるから、あんまり呼ばないって~」
わざとって娼婦なんだから普通の事では?と思ったけど口をつぐんだ。愛情があるかないかの差でしょう隊長、副隊長……
しかもあのこ妊娠する気満々なのよね……と侍女長様。間者ならきっちり避妊するだろうに、あわよくば奥方の地位も狙っているって、確かに中途半端な間者さんですね
一体どこから送られた人なんでしょうか、気になりますけど藪蛇は回避しますよ、それが高位貴族のお屋敷に勤める侍女なのですから。