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深き竜 ~目指せ! 異世界のお医者さん~  作者: 円谷あんこ
竜というやつらに関する考察。
18/23

エピソード14


十歳編、スタート。









 ・・・・正直、なにがなんだかよく分からなかったのです。


 巨大な顎がパカッと開き、ぞろりと並んだ鋭い牙が迫ってくる。

 タイトルは忘れたけど、なんか昔こういう映画あった気がする。忙しくて観に行けなかったけど散々CMでもやっていた。


 飛び出す眼鏡が必要ないけどね、コレ。

 ふわっと顔にかかる息はリアルで生臭いけどね、コレ。



 さて皆さまこんにちは。

 僕、噂の爬虫類っ子キース君。来月の誕生日を迎えれば今年で十歳になります。

 身長は妹様に追い付かれるんじゃないかなって心配な伸び悩みの時期、前世では確か二分の一成人式とかあったよねという節目の年。

 そんな十歳のある晴れた秋の日に、いきなりなんですが。



 ああ、こりゃあ死んだなと思った。








 ***






 天高く馬肥ゆる秋。

 数年前から密かに恒例となった胆試しシーズンも終わり、収穫の回収と清算に向け商人や領地へ戻った貴族たちがにわかに慌ただしくなる季節である。

 高貴な方々の秋冬はとかく忙しい。税収で大わらわになる秋は短く、数か月と経たぬうちに社交シーズンとなる冬だ。その分というべきなのか、夏は一段と暇らしい。「呪い子がよくもまあいつまでもゆけぬけと城にいられたものよ」に始まり「魔物の仔めがこちらを見るな、汚らわしい」と小学生張りの低レベルな陰口をチクリチクリとやられる。勿論、領地に戻っていても全然問題ない季節なのだが余程兵の調練に熱心なのか、はたまた家での肩身が狭いのか暇なのか、毎年一定数は王宮に残って暇を潰している。


 ところでこの、馬肥ゆる秋ということわざだが「肥ゆる」ではなく、収穫を狙った襲来「来ゆる」なのだという裏歴史がある。

 元は「雲浄くして妖星落ち、秋高くして塞馬肥ゆ」というある漢詩の一節なのだが、北方の騎馬民族が収穫の秋になると大挙して略奪にやってきたことから「馬が肥ゆる秋には必ず事変が起きる、今年もその季節がやってきた」という警戒の言葉として使ったと言われている。 


 ラフォンの冬にも、略奪者が訪れる。

 魔物だ。


 餌の豊富な夏場は山や森から出て来ないのだが、腹が減ると人里に下りてくる。まあ、魔物と言っても目が赤くなるとか身体が黒くなるとか瘴気を放つとかいう設定はなく、いわゆる害獣的な扱いを受ける動物全般を指すらしい。

 別にがっかりなんてしてないゾ。日本の里山でいうところのシカみたいなもんかとか思ってないし、赤カブトなんか想像してない。してないったらしてない。

 じゃあ何でわざわざご大層に魔物なんて言うのか。

 答えは簡単、魔石を持ってるからである。




「魔道具の作られ方・・・・でございますか?」

「うん」

「はて、わたくしも詳しいことはよく知りませんが、確か魔工専門の職人が加工と紋を刻み入れた基盤を元に作られるのではなかったかと」


 少々お待ちください、と言うや否や爺は片手に乗るような小さなテーブルランプを持って戻ってきた。仮にも王宮に卸された品なので簡素だがモノは良い。それをドライバーのような工具で器用に分解すると爺は赤い模様の入った一円玉のようなものを取り出した。


「こちらが魔法基盤ですね。花びらのようになっている赤い紋様とその外側を囲む黄色の細い円が見えますか。それぞれ赤いものが灯りを点す要となる火魔法、黄色のものが火の持続安定のための風魔法の魔方陣となっています」

「へぇ、綺麗なものだね。この基盤は・・・・金属?」

「いえ、魔石でございますよ」 


 さらっと答える爺に危うく基盤を取り落しそうになった。


「・・・・・待って。それってものすごく高価なんじゃあ・・・・」

「え?」

「だって魔石って竜とか熊とかから出てくるんでしょ? 希少なんじゃないの?」


 ブリュノさんシリーズでも、魔石はしばしば登場する大きなテーマの一つだ。

 特に古文書で登場する竜たちの(いさおし)から検証された数々の実験成果は毎度大変興味深いものばかりなのだが、精度の高い魔石の入手は非常に困難だとこれまた毎度毎度、酒場で管を巻く酔っぱらいのように長々とあとがきには締めくくられている。

 彼ほど優秀な研究者でも入手が困難な魔石。しかし爺はおろおろとみっともなく慌てる僕に微笑ましそうに基盤を指で弾いてみせた。


「ふふっ、そんなことはございませんよ。竜魔心などは確かに王家でも五つしか保有していない希少なものですが、ランプなどの基盤であればイタチや野ウサギ程度の魔石で十分なのです」


 爺は魔物と呼ばれる冬場の獣たちのこと、それを追う男たちの狩りの様を話してくれた。スーパー執事さんの手腕は熊殺しにまで及ぶらしい。


「解体の中で出てくる魔石は魔石商に買い取ってもらい、その日の宴の酒代になるのが通例です。買い取られた魔石は純度にもよりますが大抵は小さな坩堝で加熱されこのような板状し、乾いたところで魔方陣を刻み入れます。出力や耐久性は陣と魔石の質によりますが、余程特異性を求めない限り、基本的には庶民にも行き渡る安価なものの方が多いですよ」

「ふうん」


 面白いことを聞いた。

 僕はにゃは、と間抜けた笑みを浮かべそうになるのを堪えた。








「パララッパパララ、 パララッパパララ~♪ 」


 BGMは今日のお料理。材料は脱皮? した僕の鱗。本日のお相手は火遊びのしたくなる年頃のキースシェフでふ。


 未だに謎多き鱗であるが二、三年ほど前、ぱりっと、いきなり剥がれたことがある。

 無論慌てた。ヤバイヤバイ祟り神様が降臨する!! と。だが僕の危惧に反して荒ぶるにょろにょろは出現しなかった。代わりにそれからというもの、半年に一枚ほどの確率で剥がれるようになった。寧ろミステリアスが加速した。


 量はあまりないので大きめの金属のスプーンに数枚乗せて火に掛け、加熱する。

 掃除の際爺が嬉しそうに回収していたので人体に害はないものと思われるが、有害ガスの発生も範疇に入れて一応タオルで口を覆いマスク代わりにしている。


「・・・・およよ? 実験成功かな?」


 歌が三ターンくらいしたところで目論見通り鱗が熔け、ぷつぷつと小さな泡を浮かべ始めた。とろみのついた青色が駄菓子なんぞにお馴染みのなんともいえない合成着色料っぽさを醸し出している。

 べっこう飴の要領で用意しておいた小さな紙カップ(油紙を貰っての自作)に注ぎ入れる。


「っと、忘れちゃいけない図案図案~♪」


 いくつか図書館で模写しておいた魔方陣のメモを竹ヒゴ(もといナイフでその辺の枝を細く削ったもの)を用意する。本来は固まったこところをニードルでガリガリ削っていくらしいが、生憎とお子様のお手並みなど僕は過信していない。こういうのは絶対怪我する。多分爺も用意してくれない。

 そんなわけで助っ人の竹ヒゴだ。

 まだ柔らかいうちに竹ヒゴで魔方陣を加工する。調べてみたところ削った方がはみ出しなく綺麗に加工しやすいからという理由らしく、紋様が入ればわりとなんでも良いらしい。駄目だったらまた実験すればいいや。


 鼻唄混じりに、僕は霧を発生させる魔方陣を刻んだ。

 水やら火やらは何かあったときに危ないが、霧ならまぁ害はないだろう。上手くすれば冬場の乾燥を抑える、加湿器が出来るかもしれない。がんがん火を焚くもんだから余計に空気が乾いて目が痒くなるんだよね。


「さぁーてと。何が出るかな~♪」


 基盤を確認し、掌を押し当てて初動の為の魔力を込めた。






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